第4話 秘密と義務
魔法学園に上がってからは、私はやきもきすることが多くなった。
皮肉なことに、一度目の人生の時は、「テレパシー魔法」が私とデーヴィッド様の仲を守ってくれていたのだ。
婚約者というだけでなく、「テレパシー魔法」という、目には見えないけれど二人の間に割り込めない程の関係性があったからこそ、誰も手出しできなかったのだ。
デーヴィッド様は、どんどんかっこよく成長していった。
元々顔立ちは整っていたし、大人になるにつれて、可愛い感じから大人の男性らしい精悍な顔つきになっていった。
どこかやんちゃそうで親しみやすい雰囲気や、明るくて屈託のない性格もあってか、魔法学園で人気者になるのにそう時間はかからなかった。
さらに、成長期になってデーヴィッド様の身長がぐーんと一気に伸びると、それに比例するように、魔法学園の女子生徒達は、彼の虜になっていった。
私が、デーヴィッド様のファンの子達にやきもちを焼くたびに、デーヴィッド様はかえって喜んでいた。「私から愛されてる」って感じてたみたい。
そのうち、わざと他の女子生徒達の誘いに乗るようにもなっていった。
私にもっと嫉妬してもらいたかったみたい……
でもその度に私はとても不安になって、次第に彼の行動を逐一知りたいって思うようになっていった。
いつどこで、誰と会うのか、何をしに行くのか、逐一教えてもらうようにしていた。——もちろん、他の女子生徒がいるなら、遊びに行くことさえも絶対に反対にした。
はじめの頃はデーヴィッド様もそれを楽しんでたみたいなのだけれど、だんだんと私のことを面倒くさがって避けるようになっていった。
テレパシー魔法があるから、すぐにバレるんだけどね。
でも、それもすぐに対策がされるようになった。テレパシー魔法にモヤモヤと霧がかかるようになって、彼のことを上手く探れなくなっていったのだ。
デーヴィッド様に訊いても、知らぬ存ぜぬで、ほとんど何も教えてもらえなくなった。
こうして、私達の間で初めて「秘密」が生まれた。
——この頃には、テレパシー魔法の研究結果は、過去の実績と比べても正解率は平均以下に落ち込んでいた。
デーヴィッド様のことや、彼の周りに群がる女子生徒達のことばかり気にしすぎて、私の心は大抵いつも憂うつだった。
学園内でデーヴィッド様が他の女子生徒達と話しているのを見かけるだけで、フツフツと暗い怒りの炎が腹の底から沸いてきた。
そんな嫉妬まみれの自分は、すごく辛かったし大嫌いだった。
だから一つだけ、一度目の人生ではやらなかったことを始めた。
このままではいけない、気分転換も必要だなって、無意識のうちに心のどこかで感じていたのかもしれない。いわゆる自己防衛本能だったのかも……
流石に人生二度目になると、勉強は全て「おさらい」になるから、学園での成績は常に上位に入るようになっていた。
「シャーロットちゃんは優秀だし、デーヴィッドのことも見てあげて」とエブリン様に言われていたこともあり、入学当初はデーヴィッド様と一緒に学校の課題をこなしたり、勉強をみてあげたりしていた。
ただ、魔法学園に入学して一年の半分が過ぎ、デーヴィッド様から煙たがられて、避けられるようになると、それも難しくなっていた。
そんな時、私に生徒会から声がけがあったのだ。
私に声をかけてくださったのは、生徒会長で第二王子のジェローム殿下と、彼の従兄弟にあたるアーサー・フォスター辺境伯子息だった。
ジェローム殿下は、色鮮やかな金髪に、コバルトブルー色の瞳をしていて、華やかに整った顔立ちをしている。一学年上の先輩で、みんなの憧れだ。
アーサー様はプラチナブロンドで、辺境伯家特有のブルーダイヤモンドのようなアイスブルーの瞳をしている。色合いもあるけれども、切れ長の瞳と通った鼻筋をしていて、クールな美貌をしている。私と同い年で、同じSクラスの生徒だ。
一度目の人生にはなかった展開に、初めは断ろうかとも考えていたけれど……
「君は確か、デーヴィッド・ローラットの婚約者だったよね?」
ジェローム殿下の言葉に、私の胸に一気にモヤモヤが広がった。
「そうです」
私は注意深く相槌を打った。
「彼がパートナーだと大変だろう。でも、彼には彼自身の交友関係があるわけだし、君にもあってもいいと思うんだ」
……確かに、そうだ。ジェローム殿下の仰ることは一理ある。
最近の私の世界は、デーヴィッド様を中心に回っていた。
デーヴィッド様と彼に近づこうとする女子生徒達に嫉妬してばかりで、全然気が休まることがなかった。
「それに、魔法学園の生徒会に入ることは名誉なことだよ。僕はクラスが一緒だから、シャーロット嬢が優秀なことも、とても真面目で、周囲の人に気配りができることも分かっているよ。だから、そんな君だからこそ、是非君に生徒会を手伝ってもらいたいんだ」
アーサー様の真摯な言葉に、コトリと、私の心が動いた。
最近の私は、デーヴィッド様には煙たがられて、何かを訊いてもすぐにはぐらかされてばかりで、彼の婚約者であることに自信がなくなってきていた。
それが、デーヴィッド様ではなく、彼に群がる人達でもなく、全く関係ないクラスメイトのアーサー様だけは私のことをきちんと見て評価してくれた……そして、私自身の力を求めてもらえたことに、なぜだか胸の辺りがぽわりとあたたかくなった。
私の傷ついて凍りついた心が、少しだけゆるんで
「……私で良ければ、是非、お手伝いさせてください」
私は、なんだか久々に自然に笑えたような気がした。
それからは、私は放課後は生徒会室に入り浸るようになった。
生徒会のメンバーは、全員がジェローム殿下が直々に声をかけて集められたためか、成績優秀で、さらに、人としても尊敬できるような方達ばかりだった。
人として誠実に付き合うこと。真面目に生徒会の仕事をこなして、率直に意見を言い合うこと。もちろん、相手の意見にもきちんと耳を傾けること——当たり前のことばかりだけれど、デーヴィッド様以外の人間関係に触れることで、私の心は少しずつ癒されていった。
特にアーサー様とは同じSクラスということもあり、生徒会のことだけでなく、クラスでのイベントや勉強のことなどもいろいろとおしゃべりした。
アーサー様との何気ない会話は、私にとって日々の癒しだった。
私が生徒会に入ると、デーヴィッド様とはさらに疎遠になった。
彼はもっと遊び歩くようになって、魔法学園での成績はズルズルと下がっていった。
二年生に上がる頃には、私とデーヴィッド様は別々のクラスになった。
デーヴィッド様は成績が下がりすぎてしまい、一つ下のクラスに移動になったのだ。
そうすると今度は、エブリン様に「デーヴィッドの成績がかなり拙いのよ。シャーロットちゃんは生徒会に入れる程優秀なんだから、面倒みてもらえないかしら?」と相談されるようになった。
学園内でデーヴィッド様を探せば、あまり評判の良くない素行の悪い男子生徒か、デーヴィッド様に憧れる女子生徒の誰かと一緒にいる所を見かけることが多くなった。
エブリン様に言われたこともあり、「勉強を頑張りましょう。このままでは拙いわ。私も手伝うわ」と申し出れば、次からはデーヴィッド様にこれまで以上に避けられるようになった。
今までは、なんとなく学園内のどこにいるのかは、テレパシー魔法で感じ取れていたのだけれど、それすらも掴めなくなってしまった。
誕生日のプレゼント
イベント毎のエスコート
婚約者として最低限の茶会ややりとり……
私達の間柄はどんどん形を取り繕うものばかりになっていった。
そして、私達の間に初めて「義務」が生まれた。
——この頃には、テレパシー魔法の研究結果は散々で、もうほとんど当たらなくなっていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。