第110話

あの頃の私は自分の容姿が、嫌いだった。



肌はイギリス人の父譲りで白く、髪は亜麻色。

けれど瞳の色だけは、真っ黒。



父は綺麗なブルーアイ。



日本人の母ですら、ダークブラウンなのに。




「ママの眼はおじぃちゃんと同じなのに、どうして私は真っ黒なの。私はママとパパの子供じゃないの?」



顔立ちはママにそっくりだから、本心で言った言葉じゃないけど、それでも不安だった。




『ジェシカの瞳は倫の母親と同じ色だ』




ママの母親。



私が6歳の時に亡くなった、母方の祖母のことだ。



幼少期に日本へと帰ってしまった祖母との思い出はあまりない。



顔も写真で記憶しているくらいだから。



『僕は千捺そっくりなジェシカの瞳が、世界一素敵だと思ってる』



祖父に愛おし気に見つめられて、私の不安だった心がぽかぽかと温まるように解れていく。



「日本のおばあちゃんと、一緒」



『そうだ』



「素敵な眼」



『世界で一番だ』




あの日も祖父は祖母のベンチに腰掛けて、隣に座る私の頭を優しく撫でていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る