ランチタイム

雪乃ちゃんの悲惨すぎる学力に衝撃を受けた午前が終わり、お昼の休憩に入る前には私はその衝撃から、雪乃ちゃんは抜き打ちテストの脳疲労からなんとか回復していた。

 

「やっぱり私はダメなのでしょうか……」

「大丈夫、大丈夫だからね!私が教えてあげるから、落ち込まないで」

採点が終わったその後は、激しく落ち込む雪乃ちゃんを必死に慰め、励まし、結局お昼休みに予定していた時間を三十分も押してしまい、最初に決めた時間割は初日から崩れるという体たらくだった。


今日のお昼ご飯はお母さんに作ってもらったお弁当を持参した。

あいにく私は料理が得意ではない。家庭科の調理実習や初心者向けレシピ本を見ながら作れる程度。味覚の問題なのか、応用が出来ないのだ。

不登校の時に少し拒食気味になったのも問題なのかな。あれ以来私は食が細くて、今の体重は四十一キロ。身長が百五十一センチなので痩せすぎと言われる。

ネットで調べたら、私の身長でこの体重はシンデレラ体重といって、世の女性が密かに憧れる体重だそうな。

でも実際には栄養失調状態だそうで、自分のことながら笑ってしまった。

一方の雪乃ちゃん。彼女も私とほぼ同じ身長で体型も似たようなもの。つまり、栄養失調状態……。

にもかかわらず、彼女の持参したお弁当は決して少量というわけではなかった。しかも、自分で作ったのだという。

「料理は小さな頃からお母様に教わって、得意なんです」

「へえー、すごいなぁ」

素直に感心した。私だってお母さんに料理を教えてもらってるけれど、何故か上達しないのよね。

「この春からは、私が家族全員の分を作ってるんですよ。毎日の登校がなくて時間が出来ましたからね。自分の出来ることは自分でやっています」

「そうなの!?すごーい!」

ますます感心させられた。

学力は問題でも、それを補って余りある特技があって、それを家族のために活かせる。そんな雪乃ちゃんに私は素直に尊敬の念を抱いた。

「ご家族といえば、雪乃ちゃんって、きょうだいはいるの?」

「はい。兄がひとりいます。十歳も年上の兄なんですよ」

「そうなんだ。じゃあ、お兄さんはこんな可愛い妹がいて嬉しいだろうね」

「そうですね……。年が離れすぎて、兄妹一緒に何かをするというのはありませんでしたね。私が小学生の時、兄は既に高校生から大学生でしたから。今は社会人で銀行に勤めてますけど、毎日残業で朝しか会いません」

雪乃ちゃんは少しだけ寂しそうに言った。

「なるほど……。私は一人っ子だから、きょうだいがいるというのは少し羨ましいな」

それは私の正直な気持ちだった。きょうだいがいれば私の人生、少しは変わってたのかなと思うときがある。だからといって両親のことを悪くは思っていないけれど……。

 

ともかく、雪乃ちゃんのプライベートを聞くのはこれが初めてだった。

彼女のことはまだまだ知らないことばかりで、また話してもらえればと思うし、私も自分のことを彼女に知ってほしい。そんな、なんでも話せる関係になっていければいいな。

こうして初めての二人だけのランチタイムを楽しんだあと、私たちは午後の勉強に取りかかった。

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