目的は卒業、目標は卒業要件

雪乃ちゃんの思いを受け止めて、私は彼女のために全力を尽くす。

そのためには、ここからは真面目な話をしないといけない。


「これから一緒に勉強をするとして、色々と決めごとを作ったほうがいいと思うの」

「決めごと、ですか?」

「うん」

私たちのする自宅学習は、勉強会というノリのものではない。学校へ登校しない代わりに家で受ける授業だ。

闇雲にやるのではなく、計画的にやったほうがいいに決まっている。

「なにかお考えがあるのですか?」

雪乃ちゃんの問いに私は頷いた。

「まず、勉強をする時間を決めようと思うの。具体的には、学校のスクーリングの時間割と時間に合わせてやってみようと思うのだけど、どうかな?」

「なるほど。それならわかりやすいですね」

雪乃ちゃんも納得したようだ。

こうしてスクーリングの授業時間と同じ、八時五十分から十五時十五分まで、一コマ五十分の学習をすることになった。

これを火曜日から金曜日の週四日、私がこの部屋へ通って行う。月曜日は完全オフにする。

さすがに土日に学校通って、平日はこの部屋に通うと毎日外出するので私がキツいです。

ここまで決めて、私は次の話へ移った。

 

「次に、学習をする目的と目標を明確にするの」

「目的と目標ですか?」

小首を傾げる雪乃ちゃん。その仕草は可愛すぎ。私がやっても似合わないと思う。それはともかく、

「そう。目的は目指すゴール。目標はゴールへたどり着くための目印ね」

「なるほど」

「私たちの最終的なゴールは三年間での卒業。目標は卒業要件ね」

「卒業要件ですか?」

あれ?いまの言い方、明らかに疑問形だったよね?

「あのー、ご存知ないとか……?」

私が恐る恐る聞くと、

「知ってます、知ってます。卒業要件ですよね!」

雪乃ちゃんは慌てて言った。これは知らないな。

先日のオリエンテーションでも、それ以前の入試前に行われた学校説明会でも説明されたんだけど……。

「卒業要件はね、学校を卒業するための条件だよ」

学校に三年以上在学、必要単位数七十四単位を修得、特別活動に三十時間参加、これを満たせば卒業することが出来ると定められている。

「だから、卒業という目的を達成するためにはこの三つの目標をクリアしないといけないの」

「なるほど。目標がはっきりしていると、わかりやすいですね」

目から鱗と言わんばかりの反応を示す雪乃ちゃんでした。私は彼女に気づかれないようにため息をつく。

 

「それで、私たちの学校は三年で卒業出来るように、一年ごとに取得する単位数が決められているの。まずは一年生で二十二単位を取得するのが当面の目標だね。これは学校で配られた資料にも書いてあるよ」

「えっ、そうなんですか?」

雪乃ちゃんはまったく知らないというような声を上げた。読んでないの、この子?

「大事なことだから、きちんと読もうね」

「はい……」

シュンとしてしまう雪乃ちゃん。

彼女の頭が底辺校レベルという理由が見えてきたな……。

「ま、いいや。それで、この一年で二十二単位を取得するという『目的』のために必要な『目標』が、前期と後期の試験に合格すること」

「最初の目標が目的になったのですね」

「そう、その通り。そして、試験に合格するためには受験資格を得ないといけない。そこで必要な目標が、レポートを必ず提出して合格すること、スクーリングに出席すること。この二つ」

「なるほど。目的と目標がどんどん目先のものになっていくんですね」

「うん。他の目標として特別活動の参加時間数もあるけど、とにかくこれらの目標は全部数値化されているから、一つ一つ確実にクリアしていけば必ず三年間で卒業出来るはずよ」

「わかりました。やっぱり理子さんはすごいです!」

雪乃ちゃんに尊敬の眼差しを向けられてしまった。

私としては中学受験の時に実践していたことなんだけどね。

 

「まず最初の目標は、週末のスクーリングに出席する、レポートを来月の期限までに提出する。ここから一緒に頑張ろうね」

「はい!」

雪乃ちゃんの力強い返事からやる気を感じられたが、やっぱり彼女の実際の学力が気になる。

今の話の中で雪乃ちゃんは大事な話を見てない、聞いてない、覚えてないというかなりヤバい面を見せてくれたけれど……。

とにかく一度、テストをやって実力を見せてもらい、その結果からどう対応するか考えよう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る