第35楽章 音楽は勝ち負けなのか

「最後に、皆に問いかけたいことがある。音楽に勝ち負けはあるのか」


コンクール前日の合奏はいつもよりかなり短めに終わった。この後は、楽器を明日の運搬うんぱんのためにトラックに積み込んだりする作業があるためだ。だが、すぐには片づけに入らず、神楽坂かぐらざかはみんなの顔を見ながら話し始める。

「明日はコンクールだね。それは勝ち負けを決めるためだろうか?みんなはどう思う?」生徒たちはしん、となる。

「それぞれに考えてほしいんだ。コンクールは何のためにあるのか、なぜコンクールのために練習してきたのか。明日、その結果が出る。それは勝ち負けなのか。勝ち負けじゃなかったら何なのか」

何か言いたげにこちらを見る者、眉根まゆねせて考え込む者、何かに思いをめぐらせているような表情をする者。

しばらく時間をとった後、神楽坂は再び声をかける「じゃあ、席の近い同士で4・5人のグループを作ろう。同じパートだけで固まらず、前後左右グループを作るように。グループができたらお互いの考えをシェアしてみてくれ。全員の考えをまとめて結論づける必要はないから、お互い思ったことを話し合おう。必ず全員発言すること。5分間だ」

途端とたんにざわざわとにぎやかになる。ひとしきり騒いだ後、グループを作って生徒たちは話し始めた。時おり、どっと笑いが起こったり、えーっという驚きの声があがったりする。熱が入り声が大きくなるグループもある。神楽坂は各グループの盛り上がりを見ながら、5分より少し多めに、生徒たちがそれぞれ話し終わるのを待ち、また声をかける。

「だいたい話し終わったかな。それぞれのグループの中でどんな考えがあったか、今度は全体にシェアしてみよう。さっきも言ったけどどれか一つにまとめる必要はないから、『自分のグループでは、こんな意見と、こんな意見があった、理由はこうだ』みたいな感じで誰か代表して発表してくれ。後から発表するグループも、みんなと同じです。じゃなくて、他の人が言った意見と同じでも構わないから、そのグループで出た意見をそれぞれの言葉で教えてほしい。じゃあ、順番に行こうか。そうだな、藤井ふじいさんたちのグループから行こうか。誰か代表で、グループで出た意見を教えてくれ」

どうする? というような表情で打楽器の藤井りつ雷人らいと、トロンボーンの蹴人しゅうとみやこが顔を見合わせる。「じゃあ、俺がいくね」とりつが小さな声で言うと、3人はうなずいた。律は立ち上がり、「俺たちのグループでは」と話し始めた。


どんな意見があってもいい、と思う。そういう考え方もあるんだ、そういう向き合い方もあるんだ、自分と違う考えがあるんだ、今まで想像もつかなかったとらえ方もあるんだ、そんなことに気づいてくれるだけでいい。

そして、明日のコンクール、いい結果になろうと、残念な結果になろうと、それが生徒たちを肯定こうていするものでも、否定ひていするものでもない。

確かにコンクールに出れば、賞がつく。点数がつく。評価をされる。それが自分たちの望んだものになるか、ならないかは結果が出るまで誰にもわからない。思った結果にならなかった時、それをどう受け止めるか。それを、この時間でつかんでもらえれば。

決して、ダメだった時の言い訳をするためではなく、自分自身がやってきたことに自信をもってコンクールにのぞんでほしいから。そのやってきたことは結果に左右されないから。そこに気づいてほしい、と神楽坂は願っている。


♪今日のワーク――――――――――――――♪

コンクールに勝ち負けがあるのか

何のためにコンクールに出るのか。

コンクールでは何を競うのか。


いろんな考えがあると思うけど、それをみんなで話し合ってみるって意外と大事だよ。違う意見があるかもしれないけど、どちらが正しいというわけじゃない。

自分と違う意見もある。自分と同じ意見もある。同じだけど、ちょっと捉え方が違う人もいる。思いもよらない答えを言う人もいる。自分と違う視点を持っている人もいる。

そういうことに「気づく」ことがまず大事!

そして、そういうことを話し合ってみると、お互いへの理解が深まり、より「チーム感」が出てくるよ。自分と違うと知るからこそ、仲良くなれる、お互いを尊重できる、そういう「チーム」になっていくんだね。

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