第3話 【押し売り系犬耳美少女?】
俺は手綱を握ってパカパカと進んでいく馬車の上から景色を眺める。
「超退屈ぅ~」
馬車での旅が始まってから、もう1週間くらい経つが退屈でゲロ吐きそう。
「旦那様、御者を代わりましょうか?」
ティーナがそう提案してくれるが……。
「まだいい。敵が来たらティーナの方が迎撃に向いているし」
馬車の上から迎撃する場合、魔術と銃という遠距離攻撃がメインのティーナの方が向いているのだ。
実際に、この1週間でティーナが仕留めた敵の数は俺よりも圧倒的に多い。
「このリボルバーという武器は本当に便利ですよね♪」
「……そうだな」
ちなみに俺も新しくリボルバーを作ってティーナに内緒で練習してみたが、10メートルを超えると命中率は著しく落ちるということが分かっただけだった。
どうやら俺には射撃に対する才能はないようだ。
逆にティーナの方が銃の扱いにも慣れて来たのか早撃ちなんて出来るようになっていた。
銃を抜いたと思った瞬間には、もう5発撃ち終わっているんだぜ?
手品かと思ったわ。
そんなことを考えながらボンヤリと馬車を走らせていたら、唐突に後ろからティーナの手が伸びて来て……。
ダンッ!
いきなり発砲したので流石に驚いた。
何事かと前に視線を向ければ――頭に風穴を空けたゴブリンが倒れるところだった。
「せめて撃つ前に警告してくれ。流石に驚いたわ」
「申し訳ありません。見つけたら反射的に撃ってしまいました」
「……そうか」
なんかガンマニアみたくなっているけど大丈夫か?
トリガーハッピーになるのは勘弁してくれよ。
「そろそろ国境かな」
「地図を見る限りそうですね」
俺が拠点にしている街から王都までは馬車で1ヵ月掛かると言われていたが、それはあの街が辺境に位置しているから殆ど国を横断することになるからだ。
街から隣の国に向かう場合は約1週間で到着出来る。
それから2つほど国を横断した先にあるのがギルド本部のある帝國とやらだ。
「まだまだ時間が掛かりそうだな」
「そうですねぇ」
俺は嘆息しつつ、国境を目指して馬車を進めた。
当たり前だが国境を通る時は素通りはさせてくれなかった。
「へぇ、Bランクか。目的は?」
「Aランクの昇格試験だ」
「ってことは目的はギルド本部がある帝國か」
「そうなるな」
国境で審査をしている男は俺の登録票を見て驚き、昇格試験を受けると言ったら目的地を察してくれた。
「受かりそうか?」
「受かるように祈っててくれ」
「ははは」
俺が肩を竦めて言うと男は笑う。
実際には試験の内容次第だが、おっさんのお墨付きを考えれば受かる可能性が高い。
「そっちの子は?」
「俺の相棒だ。色々な意味でな」
「ふむ。灰色の髪に長い耳……ハーフエルフか。珍しいな」
「ぶっちゃけ、エルフって見たこともない」
「そっちはもっと珍しいからな」
聞いた話によるとエルフは完全にエルフだけの集団で暮らしているらしく、人間の領域に近付くことは滅多にない。
ティーナが暮らしていたエルフの里もティーナ以外は全てエルフだったという話だし、閉鎖的な種族なのだろう。
反面、ハーフエルフはエルフに毛嫌いされて追い出されるので稀に人里に姿を現すそうだ。
「Eランクか。少しバランスが悪くないか?」
「じっくり育てているところだ。色々とな」
「……羨ましい限りだ」
普通に考えてティーナは相当な美少女だし、そんなティーナを毎晩のように好きに出来るのだから、確かに羨ましいと思うだろう。
「だが、なんでメイドなんだ?」
「……俺の趣味だ」
「そ、そうか」
最後にちょっとドン引きされたのは納得いかない。
そうして国を出ることには成功した訳だが……。
「問題は次だな」
「国を出ることよりも入ることの方が難しいですからね」
国境には出国審査と入国審査があり、国を出るのは比較的簡単だが、国に入るのは意外と面倒だったりする、らしい。
俺は国境を超えるのは初めてだから知らんけど。
うん。俺って魔女の時は世界中を回っていたのだが、高速で飛行していたから国境とか通ったことがないんだよね。
どんな屈強な国境の審査員でも時速1000キロで移動する魔女は捉えきれない。
そうして俺とティーナは入国審査を受けることになったのだが……。
「は~い。どうぞ通ってねぇ」
「「…………」」
ほぼ素通りだったので逆に呆気に取られてしまった。
「なんだったんだ?」
「さぁ?」
普通に考えれば自分の国に他国の人間が入る場合は厳しく審査しそうなものだが、あっさりと通れてしまった。
「隣の国は法が緩い国なのかね」
「かもしれませんね」
もしくは無法国家か。
どちらにしろ、さっさと通り抜けてしまう方が良さそうだ。
無法国家が正解だった。
「旦那様、また盗賊です」
「またか」
この国に入ってから、盗賊に襲撃される頻度が爆増した。
まだ3時間しか経っていないのに、もう4度目の襲撃だ。
それらは殆どティーナの銃撃が撃退してくれたのだが……。
「なんだか、襲ってくるのは殆どが痩せ細った農民ですね」
「……重税でも課せられているのかね」
襲ってくるのはガリガリに痩せた農民ばかりで、血走った目で農具を手に襲って来るので、何処の一揆だと思う。
「この調子じゃ、流石に野営という訳にはいかんな。帰るか」
「そうですね」
俺は日が暮れる前に目印を残して転移魔術で馬車ごと自宅に帰ることにした。
◇◇◇
翌朝。
久しぶりにベッドで目を覚ました俺は腕の中の裸のティーナを堪能する。
もっと頻繁に帰って来ても良かったのだが、夜の荷台の中という個室は――思いの外、新鮮で興奮した。
そういう訳で自宅に帰って来るのは1週間ぶりだったが、やはり自宅のベッドは安心感が違う。
ティーナの喘ぎ声にも遠慮がなかったし。
急ぐ旅でもないので俺はティーナを連れて冒険者ギルドへと向かった。
「おう。久しぶりだな」
そこでは当然のようにおっさんが暇そうに受付に座っていた。
「おい、こら。隣国が無法国家だとは聞いてねぇぞ」
俺がここに来たのは苦情を出す為だ。
隣国が無法地帯になっているなら、それを教えてくれなかったのはおっさんの怠慢だ。
「噂には聞いていたが、そこまで酷くなっていたか」
「どういうこった? 貴族と平民の間に貧富の差があるのは普通だが、農民が盗賊になって襲ってくるというのは相当だぞ」
「お前が知っているかどうか知らんが、数年前まで大地から栄養を吸い上げて食料の生産量を上げるって施設が世界中にあった」
「…………」
「ところが、それが数年前に突然、原因不明の事故で施設ごと消えちまった。跡地では未だに亡霊のうめき声が響いて来るって噂だ」
「お、おう」
知ってる。
それ、知ってますわ。
「ウチの国には、その施設は1つしかなかったが、隣国には4つもあったらしくて一気に食料の生産力が落ちて国民が皆飢えちまった。そういう訳で食えなくなって飢えた住民が護衛も付いていない馬車を見つけたら襲ってくるような国になっちまった」
「あ、はい」
うん。俺が原因でした。
星からエネルギーを吸い上げる施設を排除した結果、それに生産力を頼っていた国は飢えることになってしまったようだ。
まぁ、だからと言っても俺が罪悪感を覚える、なんてことはないんだけどね。
魔女には星を護る義務はあっても、人類を守る義理はないのだ。
「ってことは、あの国では昼間は馬車で進んで、夜には帰ってきた方が良さそうだな」
「流石に大きめの街の中までは無法ではないらしいが、それも何処まで信用出来るか分からんな。俺が聞いていた以上に荒れているようだしな」
「やれやれ」
これだから星からエネルギーを搾取してきた人類は信用出来ないのだ。
◇◇◇
翌日からは日中は馬車で進み、夜には自宅に帰って来るというルーチンになった。
それでも盗賊に襲われる頻度は高かったが、そういうのは例外なくティーナの練習台になってもらった。
「百発百中です!」
「お、おう」
相手が何人だろうと全てヘッドショットで片付けるティーナは普通に凄いと思う。
「……魔術も忘れるなよ」
銃が楽しいのは分かるが、メインは魔術を使って欲しいと思うのは贅沢だろうか?
そうして今日も日中だけ馬車で進んでいたのだが、日が落ちる前に大きめの街へと辿り着いた。
「厳重、ですね」
「だな」
街が外壁に囲まれているのは珍しくないが、城門を槍を持った兵士が何人も配置されて守っているのは珍しい。
更に街に入るのにもチェックが厳重で、俺が登録票を見せてBランクの冒険者だと証明した上でAランクの昇格試験に向かう途中だと説明して、やっと通してもらえた。
「街の外が無法地帯になっているからこそ、街の中には怪しい奴は入れたくないって感じだな」
「でも、お陰で街の中は安全そうです」
「だな」
街の中も決して賑わっているという感じではないが、殺気立って俺達を排除しようという空気ではなかった。
そのまま城門で兵士に聞いた馬房付きの宿に向かい、馬車を預けてチェックインした。
「今日はここで一泊だな」
「ご飯は食べられるでしょうか?」
「……どうかな」
この国は全体的に食料が不足しているみたいだし、客だからと言って食事が出るとは限らない。
「この宿では食事は出来るのか?」
とは言え、一応は聞いてみた。
「金を出してくれるなら一応は出せますよ。量と質を求められても困りますがね」
「……自前で何とかする」
やはり真面な食事は期待出来そうもないので、アイテムボックスから出すことにしよう。
そうして自前で食事を済ませて部屋でティーナとまったりしていると、夜中に部屋の扉をノックされた。
「誰でしょう?」
「客が来る予定はないが……2人か」
亜空間探査によれば扉の外にいるのは2人の人間だ。
「……誰だ?」
無論、無用人に扉を開けたりせず、扉を閉めたまま問い掛ける。
「あたしですよ、お客さん」
扉の向こうから聞こえて来たのは宿の女将の声だった。
「何の用だ?」
「ちょっとお話がありまして」
「…………」
普通に怪しい。
怪しいとは思うが、ここで拒否しても開けるまで粘りそうな雰囲気を感じる。
「ティーナ」
「はい」
俺がティーナに呼びかけると、ティーナは鞄から短剣を2本取り出して、1本を俺に渡して来た。
それを確認してから俺は扉の鍵を開けた。
「……入れ」
そうして俺は2人の人物を部屋に迎え入れた。
部屋に入って来た1人は当然のように宿の女将であり、もう1人は痩せた身体の帽子を深く被った少女だった。
「……それで?」
俺は単刀直入に女将に問いかける。
「お客さん、この子を買ってくれませんかね?」
女将も単刀直入に用件を告げて来たのだが……。
「俺が女に飢えているようにでも見えたのか?」
巨乳美少女メイドのティーナが居るのに、こんな貧相な少女を買う必要性を感じない。
「頼むよ。この子は食うのにも困る状況で、ここでお客さんが買ってくれなかったら身売りするしか道がないんだ」
「俺が買うのと身売りするのとで何が違う?」
「全然違うじゃないか」
そう言って2人の視線はティーナに向く。
まぁね。
俺がティーナを大事にしているのは、ティーナの磨き抜かれた髪と肌を見れば一目瞭然だし、食うのに困っていない栄養状態なのも見れば分かる。
「それに、お客さんは人間以外もいける口だろう?」
そう言って女将は少女の被っていた帽子を剥ぎ取り――その下から獣耳と肩口で切りそろえられた薄茶色の髪の少女の顔が現れる。
「獣人……か」
俺が拠点にしている街――というか国には居なかったが、他の国には居ると聞いていた。
エルフはエルフだけで集落を作って人間とは関わらずに生きているし、ドワーフはドワーフの国を作って国からは出ずに過ごしている。
だが獣人だけは種類が多くて数も人間の次に多い為か、色々な国に住んでいるし、人間の街にも住んでいることもある。
この少女はその内の1人ということだ。
恐らく、俺がハーフエルフのティーナを連れていたから俺なら買うと思って連れて来たのだろう。
「というか、どうしてお前が交渉しているんだ? こういうのは本人が交渉するべきじゃないのか?」
「この子は親なしで、ウチの宿で引き取ったんだよ。前までは余裕があったから従業員として使っていたが、客も来ない状況で無駄飯ぐらいを置いておける程の余裕はないんだよ」
「……ん?」
俺は女将の説明を聞いて少し引っ掛かった。
「ちょっと待て。話を聞いていると、この子を一晩買ってくれって話じゃなくて、この子を俺が引き取るって話になってないか?」
もう宿に置いておく余裕がなくなったから、少女を金を払って引き取って欲しいというふうに言っているように聞こえる。
「だから、そう言っているじゃないか」
「聞いてねぇよ」
俺はてっきり少女を一晩いくらで買ってくれと言われているのかと思ってたぞ。
「今まで娘同然で育てて来たんだから情もあるし、下手な客に売るつもりはないよ」
「うそくせ~」
情があるなら一見の客に買わせようとすんな。
「あんた、Bランクの冒険者なんだろ? 金にも困ってないみたいだし、人助けだと思って買っておくれよ」
「…………」
どうやら口の軽い兵士がいるようだ。
俺がBランクなんてことは門番をしていた兵士くらいしか知らない情報だ。
「ふむ」
色々と納得がいかないが、とりあえず獣人の少女を見てみる。
あまり食べていないのか痩せている状態を見れば娘同然とか言う話は眉唾だが、確かに見た目は悪くない。
犬系の獣人なのか本来耳のある部分には犬耳が生えているし、穿いているスカートのお尻部分からはフサフサ――とは言えないが尻尾も生えていて、顔の作りは可愛い系と言える愛嬌がある。
年齢は15歳前後に見えるが、身体の凹凸は感じられず、胸は僅かに膨らみを確認出来る程度だ。
「俺は大きいのが好きなんだけどな」
「だろうね」
俺の呟きに女将がティーナを見ながら頷く。
現在Eカップのティーナだが、もう直ぐFに届きそうなくらい成長中だ。
「でも獣人は見た目よりも力が強いし体力もあるよ。冒険者なら仕事の役に立つはずさ」
「ちなみに念の為に聞くが、いくらで売る気だ?」
「金貨50枚だよ!」
「……帰れ」
ふざけた値段設定を提示した女将に俺は即答した。
馬車を買って散財したから、もう金貨は20枚くらいしか残ってねぇよ。
「冗談だよ。今なら金貨10枚……8枚で良いよ」
なんか一気に値下げされたんだが。
金貨8枚って日本円で24万円なんだけど、それで人が1人売られちゃうの?
「まだ駄目かい? それなら金貨5枚で良いよ! これ以上は負けられないからね!」
「…………」
最初の値段の10分の1になった。
交渉のしがいのない相手だなぁ。
「分かった! 金貨3枚! これ以上は本当に負けられないからね!」
勝手にドンドン値段が下がっていく。
そうして俺とティーナが呆れて呆気に取られていると、ついに……。
「ええい! それなら金貨1枚だ! 持ってけドロボー!」
「お、おう」
金貨1枚まで下がってしまい、つい反射的に返事をしてしまった。
「毎度あり!」
そうして、いつの間にか俺は獣人の少女を金貨1枚で買うことになってしまった。
どうしてこうなった。
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