再びする決意~参~

|俺があの小屋を出てから山を下る途中、何度か半妖と遭遇した。

だが、凪がいつの間にか倒していたためなんの被害もなく山を下ることが出来た。

「…少し休憩しませんか?流石に疲れました…」

「あーっっ!凪、本当にごめん!忘れてた!」

凪が近くにあった岩に座る。

「そんなに歩いていない気がするが…」

「僕たちからしたらそうだけど、凪は病弱だから」

「病弱なのにここまで来たのか!?」

(病弱ならこんなところで仕事なんて大変なんじゃ……。小屋を建てた理由がわかった気がする…)

「…。」

凪は何も喋らないまま暫くボーッとしていた。

「…そろそろ行きましょう」

「りょーかい。ほら、優。早く行くよ」

「あぁ」

そこから少し歩いたあと、ある神社に入った。

至聖神社しせいじんじゃ?聞いたことがないな)

大きな赤い鳥居をくぐると大きな本殿が目に入った。

(とても綺麗な神社だな。だが、人がいる気配が全くしない)

「本殿に用事がある時はほとんどないです。これはカモフラージュのようなものですから」

(…カモフラージュ?)

「この神社はね、紅葉月っていう有名な家が管理している神社なんだよ。でね、紅葉月は掃除屋の運営もしているんだ」

「個人として動く霊媒師と呼ばれる存在とは違って、掃除屋は一般の方には存在を知られておりません。何故だと思いますか?」

「…何処にあるをわからないから?」

「正解です。」

凪は笑った後、本殿の裏にある御神木を俺に見せた。

「ここが掃除屋への入口です。よく見てください。

ここにもみじの形をしたキズがあるのが分かりますか?」

「これのことか?」

「うんうん、合ってる!」

「ここに手を当てて霊力を流し込むと……」

御神木の葉が柔らかな風に吹かれて揺れる。

(とても優しい風だ…)

そう思って目を閉じる。

風を感じなくなった時、目を開けてみるとさっきと違う場所にいた。

「……。」

(どういう仕組みなんだよ……)

「驚いたでしょ?霊力を持たない人にこれをすると、とても驚くからね」

「…驚くを超えて最早、絶句する」

「歩きながら話しましょうか。時間がもうありませんから」

「で、なにか質問はある?」

「聞きたいことは沢山あるが、とりあえず、さっきのはどういう仕組みなんだ?」

「うーんそうだな…それ、僕も知らないんだよね」

「知らないのか?」

(分からないのにこんな得体の知れないものを使っていたのか…)

「凪は知ってる?」

「予想程度なら分かりますが、真実は分かりかねます。」

「…知らない方がいいと思いますよ。結構複雑な仕組みになっているので理解し難いと思います」

「そっか。ちょっと知りたくなったけど、凪がそういうんだったら本当に知らない方が良いんだろうね」

「…そう言えば律輝は凪への信頼が厚すぎないか?」

「そりゃあ、一番任務で一緒になる機会が多いし、それに学校も同じだしね」

「…二人は学校に行っているのか……」

「行ってますね。掃除屋専用の学校に」

「専用の学校なんてあるんだな…」

チョンチョン

律輝が俺をつついて手でこっちに来てと合図してくる。

不思議に思って行ってみると律輝が俺の耳に自分の口を寄せて話してきた。

「凪は何も言ってないんだけど、実はね、凪はーー」

「あれ~!優がいる~!!」

ビクッ

「もう〜そんなに驚かなくてもいいじゃん」

「…祈流」

「兄さん、きちんと連れてきましたよ」

「兄さん?」

「祈流の事だよ」

「兄さんと呼ぶってことは血縁なのか?」

「僕と凪が?全然違うよ〜だって似てないでしょ~」

「……たしかに、見た目は似てないし、性格もほぼ反対だな…」

唐紅色の髪に鮮緑色の瞳を持ち、この軽く親しみやすそうな話し方をする祈流と、茶髪に深い青色の瞳を持ち、だれに対しても敬語で少し距離を置かれているような話し方をする凪。これ以上、対になる存在はいないだろうと思えるくらいに違う。

「え!何?僕の性格がいいって言いたいの~?

当たり前だよ〜。」

「じゃあ優さんといのり兄さんはわたしの性格が悪いと言いたいのですか?」

「…俺は祈流が親しみやすすぎてまるでそういう性格を演じているように、凪は逆にある程度の距離を保っているようだと思っただけだ。」

二人が同時に固まった。そのあとすぐに、まるでフォローをするように律輝が話に入ってきた。

「あっ、それなら僕もわかるよ!祈流ってめっちゃ軽いもんね!」

「……。」

「え~、そんなこと言っていいの~?僕、一応この中で一番年上だと思うんですけど~」

「そう言えば優って今何歳なの?」

「…十六…だと思う」

「へぇ〜そうなんだ〜、じゃあ僕が一番年上で合ってるね~。ちゃんと年上は敬わないと~」

「…祈流は何歳なんだ?」

「いのり兄さんは今年で二十一歳です」

「…これで?」

「はい。」

「えぇ……」

「酷くない?」

「あと、すみませんがもう家に帰っても良いですか?もうすぐ日が昇ってしまうので」

「ん?あ〜そっか、確かにもう日が昇るね〜。つまりもう二人は帰らないと行けないのか〜、学校頑張ってね~」

「えぇ!僕はもうちょっとここに居たい…。」

「いけませんよ、律さん。学校に行くのも任務みたいなものです。ちゃんと行かないといけません」

「えぇ…わかったよ。ちゃんと学校行く!じゃあ途中まで一緒に帰ろ!凪!」

「えぇ、構いませんよ」

二人とも笑顔でこちらを見る。

「では、今日はこれで失礼致します。」

「じゃあね!祈流、優。」

二人は早歩きで道をまっすぐ進んでいき、途中から二人が見えなくなった。

「さてと、僕たちも帰ろうか~」

「帰るならあの二人について行けば良かったんじゃ…」

「律輝たちとは方向が少し違うからね~」

「ここから少し真っ直ぐに行くのは同じなんだけど~、優の家は途中で曲がらないとだからさ〜。」

「そうなのか。」

「まぁ、案内するから着いてきて~。あと、ちょっと本気出して走るからちゃーんと着いてきてね~」

「え。」

祈流はそう言うといきなり走り出した。

「……!」

(速っ…すぎるだろ!)

俺は、はぐれないように全力で走り出した。



「はぁ…はぁ…はぁ」

「着いて来れたのはさすがだけど息切れしちゃってるねぇ~」

「祈流が…いきなり…走り出すから……」

「ちゃんと予告したじゃん!いきなりじゃないよ!」

「…そういう意味じゃない…!」

「まぁともかく~、ここが今日から優の家になるよ〜」

指を刺された方を見るとそこには木製の家があった。

(あの小屋と同じくらいの大きさ…)

「あ、そうそう言うの忘れてた。優さ、凪にこの家を貸すってだけ言われなかった?」

「あぁ。そう言われた」

「それなんだけどやっぱなしで!」

「そうか。で、何を要求するんだ?」

「へぇ〜、意外と冷静だね~」

「そうだろうと思っていたからな」 

「じゃあ何を要求するかぐらい想像がつくんじゃない?」

「…掃除屋に入れとか言うんだろ?」

「おぉ〜合ってる合ってる!」

「はぁ…それは断ったはずだ。…だがタダで住むのも気が引ける」

「おっ!この流れは~!」

「だから掃除屋に入る以外の方法で役に立とうと思う。」

「えぇ〜、本当にそれでいいの~?君の両親は半妖だけの仕業じゃないかもしれないのに~」

俺は驚いた。

(半妖だ・け・ではない?)

「!……一体どういうことだ!」

「君が見た両親を殺した半妖っていうのは君がずっと倒し続けていた形のものだよね?」

「あぁ。同じ、狼のような姿をしていた」

「そういう動物の形をとる半妖はまだ半妖として半人前、つまり未完成の半妖なんだよ。」

「そう言えば、半妖というのはどうやって生まれるんだ?」

「生物の死骸に妖力や霊力が宿ったものとされているよ。ちなみに妖力っていうのは妖怪が使う力の事だよ。」

「未完成の半妖に知能はないんだよ。」

「何を言っているんだ!あいつらは複数で襲ってきたんだぞ!そんなこと有り得ない!」

「落ち着いてよ~。熱くなりすぎ~。」

「だってっ……」

「ちゃんと最後まで話を聞いてくれる?まだ最後まで話してないよ」

「っ…」

俺は黙る。

「でーも、やーっぱり複数で襲ってきたのか~。それは大変だね〜」

「話を戻すね~。実はね~、知能がなくても複数に動くことがある半妖、結構いるんだよね~。その原因が……妖怪が力で半妖を操っているからなんだ。」

「……つまり、本当の黒幕は妖怪と言いたいんだな?」

「そゆこと〜」

「…ずっと仇は半妖だと思っていが、妖怪が操っていたんじゃ仇は妖怪ってことになる」

「そうだねぇ〜。まぁ君の両親を実際に殺したのは半妖だし、両方だね〜」

「……。」

「どう?入る気になった?」

「……あぁ。」

俺は笑う。この時これ以上ないくらい奇妙な笑みを浮かべていたと思う。

「うわっ、こっっわ」

「俺は両親の仇を打つためなら何でもすると決めた。だから、掃除屋に入るのはただの利用だ」

「そう?じゃあ僕も君の活躍を利用させてもらうよ。まぁ入れたらだけど」

「入れない場合がある、ということか?」

「一応試験があるからね~。まぁ頑張れ!」

「あぁ。必ず入ってやる」

(誓いを守るために!!!)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る