まさかな
時間になったのでシアターに入り、映画を見た。
内容は、まぁベタな恋愛もので可もなく不可もなくって感じだった。
しかしスタッフロールが流れ始めた時、なんとなく隣を見てみると桜子は号泣していた。
なんだこいつ。
映画館を出ると、桜子が笑顔で
「いや~感動したね!」
と言ってきた。
「まぁ……そうだな」
俺は全然違うことを考えていて、あやふやな返事をした。
「あれ、どうしたの晶午。もしかして……あんまり面白くなかった?」
桜子が不安そうに訊いてくる。
俺は首を横に振った。
「いや映画は良かったんだけどさ。その……桜子が」
「私がどうしたの?」
なんていうか……こうじゃない。
「……やっぱ違うわ。お前は毒舌じゃないとお前じゃない。アイデンティティを喪失しちゃった感がすごい」
「え、どういうこと?」
桜子は不思議そうに首を傾げた。
「あの毒舌がお前をお前たらしめてたんだよ。むしろ毒舌が桜子の本体なんじゃないか?」
「本体……?」
「ほら、普段メガネの奴がメガネ外したらなんか違うんだよなぁってなるじゃん? お前にとってのメガネが毒舌だったってことさ。やっぱり口調戻してくれ」
桜子はしばらくきょとんとして、やがて口を開いた。
「えっと……説明がド下手すぎて全然意味分かんないんだけど。例えも微妙だし無駄だし分かりづらいし。あんた一体私にどうしてほしいわけ?」
「おぉ! できてるできてる! いいねぇ。やっぱその毒舌あってこその桜子だ!」
「はぁ? だから意味分かんないんだけど。病院行った方がいいんじゃない?」
「どこも悪くないが」
「じゃあどっかに頭ぶつけたら?」
「わざわざ病院に行く口実を作らせようとすんな。……うぉおお! 気持ちいい〜。やっとまともにツッコめるぜ。これからもよろしくな、毒舌ヒロイン!」
俺は満面の笑みを桜子に向けた。
「は、はぁ? 誰があんたのヒロインよ!」
「別に誰も俺のヒロインとは言ってないんだがな! 墓穴掘ってやんの。はっはっは!」
「う、うるさい! 黙れ! どっか行け! 這いつくばって泥水を啜るような人生を送った末に地獄に堕ちろ!」
「言い過ぎ言い過ぎ」
うむ。
やはり桜子は毒舌であってこそだ。
俺は多分もうちょい落ち着いた感じの子がタイプだしツンデレは嫌いだが、桜子には毒舌ツンデレというキャラが似合ってる。
俺のヒロインはこうでなくっちゃな。
……これってありのままの桜子が好き的な、そんなことになってしまうのか?
……まさかな。
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