かかってこいやァ

 休日。

散歩していると、桜子を発見した。

不良に絡まれているようだ。

ウケる。


これは流れ的に俺が助けてやらなきゃいけないやつなんだろうけど、もちろん助けるわけがない。

そんなことすれば作者の思う壺だ。


当然見捨てるつもりだったが、俺がその場を離れようとすると体の支配権が奪われるような感覚があった。


あまり遠くに行くと、作者の操り人形になってしまうようだ。


以前にも説明したが、俺は作者の設定した舞台上でなければ自由が許されない。

今回はその舞台がかなり狭いらしい。


俺は仕方なくその場に踏みとどまった。

そして大きくため息をついてから桜子の方を改めて見てみた。


不良は二人。

見た限り桜子はナンパされてるっぽい。


俺はもう一度ため息をついて、重い足を引きずるようにしてナンパ現場に近づいた。


そして不良の一人の肩に手を置くと、

「へへへ。兄貴、ナンパですかい? ゲヘヘヘ。おいらにも見学させてくださいよ兄貴」

ごまをするような口調でそう話しかけた。


ここで俺が絶対にとってはならない行動は、ナンパからスマートに桜子を救い出すことだ。


だから俺は様子がおかしいヤベー奴を演じることにした。


上手くいけばナンパはどこかに行ってこの場面は終わるし、桜子からの好感度も上昇しない。


「晶午……」

桜子が俺のことをじっと見つめてきた。

なんだかしおらしい態度だ。


……。

俺は桜子の表情を見て、ちょっとだけ考えを変えた。

やっぱりヤベー奴路線はやめる。


「あ? なんだテメェ」

不良が睨みつけてきた。


「やんのかオラ」

「おうやってやんぞこの野郎。かかってこいやァ!」

俺は挑発に乗った。


俺がこいつらにボコボコにされることによって、この場を丸く収めることにしたのだ。

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