第5章 第4話: 「気まずい見合いの進行」
見合いの席で私が声を荒げたことに対し、両親が私を軽く叱る。父上も母上も、少し困ったような表情を浮かべている。
「何を大きな声を出しているんだ、愛(こころ)。相手に対して失礼ではないか」
父上が厳しいながらも、穏やかな口調で諭してくる。私としては、驚きと怒りが混ざり合っての反応だったのだけど、それが見合いの場では不適切だったことは分かっている。
「申し訳ありません、父上……」
私は小さな声で謝罪する。母上も少し困ったような笑みを浮かべながら、私の肩を軽く叩いた。
「愛、落ち着いて。今日は大切な日なのよ」
母上の言葉には、優しさとともに少しの厳しさも感じられた。私は自分の感情を抑え、もう少し冷静になることを心に決めた。
見合いの席は進行し、昴の釣書が取り出され、彼のプロフィールが丁寧に読み上げられる。
「大河内 昴様。年齢25歳、名門大河内家のご長男であり、代々幕府に仕える家柄に生まれ……」
釣書の内容を聞きながら、私は少しずつ彼がどういう人物なのかを知ることができた。彼は幼少期から剣術や書道など、武士に必要なあらゆる技芸を学び、そのどれもで優れた成績を収めている。文武両道であり、特に剣術では数々の試合で優勝経験があると聞いて、自然と感心してしまった。
「……書道、茶道、そして剣術も優れ、何よりも誠実であると聞いております」
釣書の最後まで読み上げられると、私はますます昴がただ者ではないと感じた。彼は間違いなく、非の打ち所のない完璧な青年だ。
だが、どうしてこんなに立派な人が、私には冷たい態度を取るのだろうか。私にだけ、どうしてこんな扱いをするのか。釣書に書かれた内容と、彼が私に見せる態度のギャップに、私は戸惑いを隠せなかった。
「では、あとは二人にませるとしょうか」
突然、父上がそう言って、私たちは二人きりにされることになった。両親や他の人々が部屋を出て行くと、静寂が訪れ、長い沈黙が続いた。
私は何を話せばいいのか分からず、ただ黙って彼の横顔をちらりと見つめる。昴も何も言わず、ただ静かに座っているだけだった。その無言の時間がますます私を落ち着かなくさせた。
「何か話さなきゃ……」
そう思いつつも、私の口はなかなか開かなかった。場の緊張感がさらに重く感じられる。私の目線が彼の横顔に向かうと、昴は微動だにせず、まるで何かを深く考えているように見えた。その眉間に少し寄せられたしわや、僅かに硬い表情が、彼がただ黙っているだけではなく、何か心の中で葛藤していることを示しているようだった。
「彼は……今、何を考えているのだろう?」
彼の内心を知ることができればいいのにと思いながらも、私はただ静かにその場に座り続けた。昴はあまりにも静かで、まるでこの場にいないかのように思えるほどだったが、その横顔にはどこか落ち着かないものが漂っていた。あの冷たい無礼な態度とは違う、何か重いものを背負っているような感じがした。
彼は何かを言いたそうに見えるが、口を開こうとはしない。私の方をちらりとも見ず、ただ前を見つめているだけだった。私はますます彼の態度が気になり、心の中で焦りと不安が募るばかりだった。
「こんなに沈黙が続くなんて……どうしてこんなに話しづらいの?」
私は心の中でそう呟き、何度か彼に話しかけようとしたが、言葉が出てこない。彼もまた、沈黙を続けていた。だが、その沈黙の中で、昴が何か大きな決断をしようとしているかのような雰囲気が漂っていた。彼は考え事をしている、それもおそらく、何か重要なことを――そんな予感が私の中に浮かんできた。
「何か話して……」
私は心の中で叫びたくなるほど、この沈黙に耐えられなくなっていた。だが、昴はまだ何も言わず、ただ自分の考えに没頭しているように見えた。
彼の静かな表情の奥には、何か秘められた感情が隠されているような気がしてならなかった。それが何なのかはまだ分からなかったが、私はその沈黙の中で、昴が何か大切なことを伝えようとしているのではないかと感じ始めていた。
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