第5章 第1話: 「縁談?!」
エミリーが私のところに居候するようになってから数日が経った。帰国の話が立ち消えになった彼女は、今やすっかりこの屋敷の一員のような存在になっている。今日も彼女とお怜(おりょう)は、私の部屋にやってきて興味津々に私を見つめている。
「お姫ちん!聞いたよ、縁談の話があるんでしょ?」
お怜が笑顔で声をかけてきた。エミリーも隣で興奮気味に頷いている。
「そうだよ!What’s going on? Tell me everything!(どうなってるの?全部教えてよ!)」
エミリーのカタコトな日本語が少し混じるが、彼女の好奇心は相変わらず強い。
「縁談なんて大した話じゃないわ。まだ詳しいこともわからないし……」
私は苦笑しながら、二人に軽く説明をした。正直、私自身も気乗りしていないし、相手が誰なのかもはっきりしない。
「じゃあ、相手って誰なの?まさか知らない人とお見合い?」
お怜が不思議そうに聞いてきたが、私も何も答えられず首を横に振る。
「わからないの。でも、家の事情で避けられないのよね……」
私は少しため息をついた。縁談なんて、今の私には全く魅力的に思えない。
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そんな会話をしていると、私は自然と鎮光のことが気になった。彼はいつも私のそばにいてくれるけれど、こういう話題についてどう思っているのだろう?私は何気なく彼の方に視線を向けて、少しだけ遠回しに尋ねてみた。
「鎮光……もし私が結婚することになったら、どう思う?」
私はできるだけ軽い口調で聞いたが、心のどこかでは彼が何か特別な反応をしてくれるのではないかと期待していた。
しかし、彼は一瞬だけ私を見つめた後、いつもの無表情のまま淡々と答えた。
「姫様の幸せが第一です。私はその決定に従います」
その素っ気ない返答に、私は思わずがっかりしてしまった。心のどこかで、もっと気の利いた答えを期待していた自分がいたのかもしれない。鎮光は、私が誰と結婚しようが全く関心がないのだろうか?そんな考えが頭をよぎり、胸の中に小さな寂しさが広がった。
「まあまあ、お姫ちん!そんな固い顔してたらシワができちゃうよ!」
お怜が軽く冗談を言い、場を和ませようと笑いかけてくれた。彼女の明るさに少しだけ気持ちが楽になる。
「そうね、気にしても仕方ないわね」
私はそう自分に言い聞かせた。エミリーも笑顔で私の手を引きながら、「Let’s go out!(外に出ましょう!)」と提案してくれた。
私たちはそのまま街に出かけることにした。外の空気を吸って歩いていると、少しずつ気分が軽くなっていくのを感じた。街の風景はいつもと変わらないけれど、今日の私には何か特別なものに感じられた。街並みは活気に満ち、行き交う人々が楽しそうに談笑している。店先から漂ってくる焼き立ての饅頭の香りが、私たちを誘い込むようにしていた。
「やっぱり外の空気はいいね!」
お怜が明るく言い、エミリーも楽しそうに周りを見渡している。
しかし、その楽しい時間は突然の出来事で一変した。私たちが何気なく歩いていると、角を曲がった瞬間、一人の男とぶつかってしまった。
「ごめんなさい!」
私は慌てて謝ったが、ぶつかった相手は…。
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