1-5 【勇者のヒロインも史上最弱?】
「セーフ……大丈夫? アヤ」
廊下のど真ん中に力無く横たわっていたのは、二人の敗残兵だった。
「うん。サンキュー、ルリ……」
一人はその格好から、役職が僧侶だとわかる。ルリと呼ばれた彼女も、満身創痍のようだった。が、もう一人……アヤと呼ばれたほうは服がもはや原型を留めておらず、ズタズタになった布切れが辛うじて身体に引っかかっているような有様だった。
「あーもーホント最悪……」
そのため格好から役職を特定することはできないが、その惨状から少なくとも前衛職、勇者か戦士と思われる。まさか、こんなのが盾役の戦士とか……?
「お二人とも、ご苦労様でした。お疲れのところ申し訳ありませんが、たった今、お二人の新しいパーティーメンバーが到着しました」
レンさんがそう言うと、二人の意識が僕たちのほうへ向けられた。
「……」
突然話しかけられたためか、二人は揃って目を丸くしている。一瞬の沈黙の後、ルリさんがハッと我に返り、アヤさんの身体を庇うようにして前に出た。
「ちょっと、何で男子がここにいるわけ?! こっち見るな! アヤも隠して!」
「え、あ……うん」
アヤさんはヨロヨロと起き上がりずり落ちていた毛皮のようなものを腰にかけると、胸の前に手繰り寄せ身体を捻る。しかし僕の視線は、二人の頭上で役目を終えて消えていく、見覚えのある魔法陣に吸い寄せられていた。
「虹色の……魔法陣……?!」
「……やはり、魔王城の発生を間近で目撃したあなたなら気づきますよね。いや、二度も現場に居合わせたにも関わらず今も生き残っているのは、もはやあなただけなのかもしれません」
「なっ……?!」
じゃあやっぱりこれは、魔王城を出現させた魔法陣と同じ魔法……? こいつ、何か知ってるのか……?!
「あなたの真の敵はきっと、魔王城や二人目の魔王などではない。国とか世界とか、もしかしたら女神の領域に迫るものかも」
「どういう意味ですか、レンさん……」
僕は震える声で尋ねた。
「サイカさん、あなたはどうかこのまま、平穏な余生を過ごされますように。報われない復讐に、身を焦がすべきではない。世界の命運を担うべき者は、他にいくらでもいる」
レンさんは、床に座り込んだままのアヤさんのほうをチラリと見た。ルリさんが治癒の魔法をかけ続けていたようで、顔色が少しずつ良くなってきている。ルリさんは僕の視線に気づくと、上着を脱いでアヤさんの肩に被せた。
「ちなみに、そのバッジは
「え」
さっき会長が言っていた組織か。ていうか、平穏な余生とか言う割に、黒幕に繋がりそうなヒントは教えてくれるのか。関わらせたいのか関わらせたくないのかどっちなんだ。
「では、私はいったん失礼します。別の転校生の方が、到着されたようなので」
「あぁ……え、あ、ちょっと!」
僕のような、メフィストフェレス高等学園からの転校生はかなりいることだろう。迎える側も大忙しだな……。そんなことを考えている間に、レンさんは僕が止める間もなく、転移の魔法で立ち去ってしまった。
「……」
「……」
残されたのは、僕と二人のパーティーメンバーだけ。しかもそのうち一人は警戒心剥き出しで僕を睨んでいるし、もう一人は布切れ一枚で身体を隠しているが、明らかに居心地が悪そうだった。すると治癒の魔法をかけ続けていたルリさんが、鋭い目つきのまま口を開いた。
「……裸の女の子ほったらかしにして、よくボーッと突っ立ってられんね」
「……」
初対面の雑魚より、復讐の手がかりのほうが気になるに決まってる。……いや、実際に復讐するかどうかはまだわからないけど。でも、ついでにこの二人に嫌われることができたのなら、それはそれでミッションコンプリートだ。
「……失望、しましたか?」
「……」
アヤさんは何も言わなかった。しかしその瞳は、明らかに僕を糾弾している。ルリさんはまだアヤさんに、治癒の魔法をかけ続けている。
「アヤが立てるようになるまで、まだ時間がかかるの」
「……」
「アヤの服取りに行くか、今すぐ視界から消えるか、好きなほう選んで」
どっちも同じことじゃん。どうやら小洒落た言い回しができるくらいには、頭は回るようだ。
「じゃあ、後者で」
僕は、真っ黒な蝙蝠の仮面をつけ直した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます