第13話 王の重荷と私の幸せ

「どうして!? 同じ転生者なのに、どうして助けてくれないんだ!?」


 アレクサンダーの叫びに、私は冷静に答える。


「私には、何も手伝えることはないから」

「手伝えることはあるッ! 前世の知識から、今も数多くある問題を解決する方法を君に、考え出してほしいんだ。それを手伝ってほしいんだ」

「アレクサンダーも私と同じ転生者でしょ。前世の記憶を持っているんでしょ。そんな君が思いつかないのなら、私にも無理よ。それに、もう遅すぎた」

「……」


 協力を迫られるが、私は断固拒否し続ける。ここで彼を哀れに思って、手助けするなんて言ってしまったら大変なことになる。だから、絶対に断るわよ。どんなことがあろうとも。


「婚約を破棄された時、私は言ったわよね。平穏な暮らしから遠ざかりたくないと。王になるなんて、きっと大変なことだからって。でも、アレクサンダーは突き進むと決めた。あの瞬間に、私と貴方の道は別れたの。もう二度と交わることはない」


 私は、自分の言葉に誇りを持っていた。あの時の選択は間違っていなかった。私は私の人生を、自分の信念に従って歩んできた。そのことを、胸を張って言える。


「で、でも……。国のために、国民のために、何かできることがあった、はず……」

「そんなの、できる人に任せておくべきだったのよ」

「……」

「王になると宣言して、ちゃんとなったんだから。それは、最後まで責任を持って王として国民を導いていくべき」


 突き放すために、無言になったアレクサンダーに、次々と言葉を投げかける。私のことを諦めてもらうように、言い続ける。協力することは無理。私を巻き込まずに、そちらで解決してほしい、と。


 アレクサンダーの表情は固まって、言葉を失っていた。私の言葉が、彼の心に重くのしかかっているのがわかる。


 でも、これ以上私を巻き込まないでほしい。薄情だと思われるかもしれないけど、もう彼のことは見捨てるしかない。


「……」


 アレクサンダーは無言で立ち上がり、私の顔を睨みつける。しばらくしてから振り返って、そのまま部屋から出ていった。良かった。勧誘を諦めてくれた。


 その後姿は、大きな重荷を背負っているかのように見えた。 そして思う。あれに巻き込まれなくて良かったと。




 それから月日は流れ、ルーセント商会は今もなお着実に成長を続けていた。


 アレクサンダーは若くしてこの世を去り、国は混乱の渦に巻き込まれた。


 彼が理想としていた世界は、あっという間に崩壊して王国は乱れていく。


 私は、その争乱に巻き込まれないように海外へ逃避した。ルーセント商会は販路を広げたり、混乱する王国で商品を売りさばいたりして、やっぱり成長していった。


 ウィルフレッドの手腕は、お見事という他ない。




 私は、穏やかで幸せな日々を送っている。愛する夫と子供たちに囲まれて、私は心から満たされていた。自分の人生に後悔はない。


 私とアレクサンダー、同じ転生者だった二人の人生は大きく異なる結末を迎えた。でも、それぞれの生き方に、正解も間違いもないのかもしれない。


 大切なのは、自分の信念に従って生きること。


 私はそれを選び、アレクサンダーはそれを選ばなかった。


 きっと、それだけのことだった。

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