第11話 理想と現実の狭間 ※アレクサンダー王子視点

 色々あったが、予定通りに王の座を引き継いだ。俺は一国の王になった。


 やることは、王子として働いていた頃とそんなに変わらない。王国の現状について把握し、大臣たちに指示を出して、決断していく。処理しないといけない仕事の量が多くなったぐらいだろう。


 仕事が多く、休める時間は少ない。くたくたになって、毎日働いた。頭痛と肩こりに悩まされる日々だ。目の下には隈ができ、鏡に映る自分の顔は以前の面影を失っていた。目の下のクマが酷く、とても疲れた顔をしている。


 だが、そんな疲れた顔でも、王国が豊かになっていくのを見られたから良しとしよう。俺の努力は無駄じゃない。そう信じたかった。




 ある日、失敗した。俺の判断ミスだった。そのせいで、王国が保有している資産の一部が失われた。


 焦る。頭の中が真っ白になる。どうすれば……。


「陛下、挽回はまだ可能です。至急、対策を講じましょう」

「そ、そうだな」


 我に返る。そうだ、まだ取り返しはつく。この程度の失敗は問題じゃないはずだ。俺は急いで、大臣たちに指示を出した。



 けれど、挽回も失敗してしまう。とある貴族の独断専行で、被害が拡大していく。取り返せるはずの失敗だったというのに。失敗の規模が、どんどん広がった。それを食い止めるために、さらなる損害が出る。


「なんてことをしてくれたんだ! 指示通りに動いていれば、それでよかったのに」


 俺は怒りに任せて机を叩く。自分でも、感情的になっているのがわかる。けれど、抑えられない。


「例の貴族の処分は、どういたしますか?」

「……反省するまで自宅待機を命じる」

「そんな処分では甘すぎます。財産と地位を没収するべきです」

「……」


 たしかに俺は甘い処分を提案したが、大臣が出した財産と地位の没収は厳しすぎる罰だ。そんな命令は出せない。普段であれば。


「わかった。君の言うようにしてくれ」

「はっ!」


 後になって思う。この時の俺は疲労とストレスが溜まりすぎていて、正常な判断が出来ていなかった。大臣の提案を受け入れて、そうしろと命じてしまった。


 俺が、許可を出した。その結果、どうなったのかあとから聞いた。一つの貴族家が潰れた。一族郎党、路頭に迷う羽目になった。


 俺のせいだ。胸が苦しくなる。息が詰まる思いだった。




 このことがきっかけとなり、貴族からの反発が以前と比べて強くなっていった。国王の指示に従わない者たちが出てきてしまう。


 そして、王子暗殺の秘密が暴かれようとしていた。どこから情報を手に入れたのか不明だが、その犯人が俺であることを知った者たちがいる。それを公表されてしまうと、俺は終わりだった。一部に誤りがあるが、真実も混ざっている。俺が、そうさせてしまったから。


 こんな状況に追い込まれるなんて……。頭を抱える。


「なぜだ……。俺は王国のために、一生懸命働いてきた。なのに、なぜ……」


 涙が頬を伝う。見下ろせば、震える手が見える。孤独と絶望に蝕まれていく。こんなはずじゃなかった。


 そんな中、とうとう反乱の兆しが見え始めた。俺の失脚を狙って、動き始めた貴族たち。


「くっ……っ! こんなことで、俺は屈しない……!」


 なんのために兄たちを退けて、俺は王になったのか。ここで終わってしまったら、全てが無駄になるじゃないか。そんなの、ダメだ。


 反乱の芽は、日に日に大きくなっていく。このままでは、手が付けられなくなる。どうにかして、止めないといけない。ならば。


「反乱を起こす貴族は、全て鎮圧しろ。一切の容赦はない。それが王の命令だ」

「はっ!」


 ついに、その言葉が口をついて出た。こんな命令を出すなんて、自分でも予想していなかったほどの冷酷な指示。


 犠牲なんて出したくなかった。でも、他に良い方法は思いつかない。だから、もう後には引けない。


 理想のために、この国を導くために。


 たとえ手段を選ばずとも、邁進するしかないのだ。

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