第3話 最初の出会い

 それは、アレクサンダーと初めて出会って、婚約するよりも前の出来事。


 現代とは違う世界に転生してきた私は、特別なチート能力などなく普通に生まれてきた。強いて言うなら、公爵家の娘という恵まれた立場と、前世よりも美人な容姿を得たぐらい。これだけじゃあ、将来がちょっと不安だと思った。


 幸いなことに、兄弟姉妹が多いので、跡継ぎ問題にそれほど関わったりする必要がないのがありがたい。


 優秀な後継者がいるローゼンベルク公爵家に問題もない。領地に問題があるという話は聞かないし、借金とかの問題もない。安泰ではある。でも、こんな世界では何が起きるのか先行きが不安だった。何かあった時のために、備えておきたい。


 平穏な暮らしを求めている私は、その暮らしを実現するための力を求めた。頼りにできる権力はある。それなら次は、資金力ね。私は親にお願いして、商人との繋がりを求めた。


 それで、何名かの商人と会う機会を設けてもらえた。


「お父上に、よろしくお願いしますとお伝え下さい!」


 媚びて媚びて媚びまくり、私本人には全く関心のない商人。


「こんな子どもと話をすることなんて、なにもないぞ」


 公爵家の当主にお願いされてやって来たものの、私を幼い子どもだと舐めて適当に対応する商人。


「こちらの商品はどうです? 今、王都で流行りのものですよ!」


 私の話など聞かず、押し売りのように商品を売りつけようとしてくる商人など。


 私が求める商人との出会いは、不発の連続だった。彼らと関係を持っても、無駄な時間を浪費するだけね。


 商人との繋がりを持つ。これは失敗だったかも。そう思っていた時にやって来たのが、ウィルフレッドだった。




 彼は、他の商人たちとは一線を画していた。まず、その容姿だ。濃い茶色の髪に、澄んだ瞳。鼻筋の通った端正な顔立ち。そして、長身で均整の取れた体格。見るからにイケメンだった。そして、若い。


 ウィルフレッドを私自ら館内に招き入れ、応接間へと案内する。柔らかなソファに向かい合って座り、お茶を啜りながら会話を始めた。


「本日は、お招きいただきありがとうございますエリザベートお嬢様」


 とても丁寧に挨拶してくれる彼は、優秀そうな若いイケメンだった。それが最初の印象。


「実は、ルーセント商会は今とても忙しくて。今日は、会長の代理で私が来ました。申し訳ない」

「いえいえ、そんな! 忙しい時に呼び出してしまい、申し訳ありません」


 ルーセント商会から来たという彼は、会長ではなかった。だけど、代理を任されるぐらいの人物。物腰も丁寧で、彼なら話してもいいかな。


 他の酷い商人たちよりも、彼のような若いイケメンに騙されるのなら諦めがつく。いえ、騙されたくはないけれど。


 とにかく一度、彼を信用してみることにした。


「エリザベートお嬢様は、商売に興味をお持ちなのですか?」

「ええ、そうなの。私、将来のことを考えて、商売に関わりたいと思って」


 私は、自分の考えを率直に話した。ウィルフレッドは、うなずきながら真摯に耳を傾けてくれる。


「なるほど。お嬢様のお考え、とてもよく分かります」


 そう言って、彼は微笑んだ。その笑顔に決心がついた。よし、話してみる。前世の記憶から考えついたこと。


「実は、ルーセント商会でリバーシという遊戯の道具を作って欲しいのです」

「リバーシ、ですか?」

「はい。それを売って、お金を稼げないかと考えているんです」


 異世界転生モノの定番である遊具を作り出し、それでお金を稼いでみようというのが私の考えだった。

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