12

 精霊王ってかなり長生きするから少しは国に愛着が湧くんだよね。俺が転生したのは半年前だけど精霊王ナギサはもう何百年も生きてる。


 となると、当然国民もそれなりに大切に思っているわけで。穢れが不快なのもあるけど同じくらい国民、それも幼い子まで攫うとか許せないんだよねぇ。俺の不快感を感じ取ったのか他の精霊たちも殺気立ってるし。まあ降りかかった火の粉を払うくらいは許されるでしょ? ほんとに少しだけ……傷を負わせたら騎士団に突き出そうかなぁ。


「王様! る? やっちゃう?」

「やっちゃわないよ。駄目だよリー」

「えぇー!」


 えぇーって……そんなに殺しちゃいたいの? 相当気分が悪かったんだね。珍しくルーまで好戦的な目をしてるし。でも駄目だよ、そんな簡単に生き物を殺したら。気持ちは分かるけど今回は精霊無関係だから、ここは同じ人間に処分してもらわないとねー。


「ナギサ様ぁっ!」

「あ、ウンディーネ。やほー」


 般若のような形相をし、玉座の間の扉を大きな音を立てて開け放ったウンディーネは迷いなく俺の方に飛んできた。手を振ると彼女の額にピキリと青筋が浮かぶ。わぁ、怖い顔。でもお説教されるのはごめんだからね。


「ナギサ様、ちょっとどういうつもりなのぉ!? なんでこんな穢れた奴らを招いてるのぉ!?」

「ちょっと色々あったんだよ。とりあえず怒らないで?ウンディーネは笑っていた方が可愛いよー」


 海のような青い髪を振り乱すウンディーネにそう言うと、顔をしかめて動きを止めた。どうしたのかと思い顔を覗き込むと、小さく溜め息を吐いてから呆れたようにではあるけど微笑んでくれた。やっぱりウンディーネには笑顔が似合う。


 精霊は俺を除いてみんなその属性に合った髪や瞳の色をしている。水なら髪も瞳も青、火なら赤、みたいな。少し乱れたその長い髪を整えてあげるとまた溜め息を吐かれた。……なんで?


「……ナギサ様がコレに耐えているならわたしも耐えるしかないよぉ。それにここはナギサ様の宮だしぃ……黙っているからはやくどうにかしてよねぇ?」

「分かってるよー」

「ちょ、ちょっと待って! さっきから思ってたけどお兄さんは精霊なのかい?」


 正確には精霊王だねー。でも誰彼構わず言っても良いことないから今は黙っておこうかな。すでに隠しても無駄かもしれないけど……


「さあ、どうだろうねー? 君たちのことは悪いようにはしないからちょっと待っててね」

「……そういうことなら分かったよ」

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