*

「それで今は?」


「退院して、しばらく自宅療養してる。今日は昼に買い物に行きたいって言われて付き合った」


「……待てよ。誰の話してるんだ?」


「え? だから客の話」


「……織田、その客が退院した後も会ってるのか? まさか家に行ってないよな?」


「行った……重いものが持てないって言うから、物を動かすのを手伝った……」


「今、買い物も付き合ったって言ったよな? お前にその気がないから今からでも距離をとれ。彼女が事故を起こしたのはお前のせいじゃない。間違えるな。その女に近づきすぎるな」



コツンと小さな音とともに、2人の間にお刺身の盛られた皿とオクラとヤングコーンが肉に巻かれたものが置かれた。



「いいアジが入ったからお刺身と、こっちはオクラの肉巻きね。温かいうちにどうぞ」


「すみません」



深津は先ほどより静かなトーンで隼人に言った。



「これから先、自分が売った客が100%事故しないなんてことはありえない。織田はその度に見舞いに行って、買い物につき添うつもりなのか? 客との距離感を間違うな」


「……そう、だよな」


「今からでも遅くないから、その女には関わるな。わかったか?」


「わかった。深津、ありがとう」


「普通は男になんか頼んで来ないと思うんだ。だから、お前がその気がなくても、向こうが勘違いすることだってあるから気をつけろ」


「それって、深津の経験談?」


「何だよそれ。早く食べようぜ。あの人、温かい料理は温かいうちに食べないと怒るから」


「さっきは名前で呼んでたし、女将さんとどういう関係?」


「関係? 弟の彼女のお母さんだよ。昔から、おばさんって呼ぶと怒るから」


「なんだ。オレはてっきり……」


「てっきり何だよ?」


「何でもない。いただきます」


「織田のせいでまだビールしか飲めてない」



そう言って、深津は地酒を頼んだ。

織田も同じものを頼むと、しばらく料理を食べながら酒を楽しんだ。

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