*

隼人と一旦別れ、成美が部屋に戻ると、千智はベッドに寝転んでスマホを見ていた。



「スマホ見つかった?」


「それがさ、深津くんって、しっかりしてるようで案外抜けてた。広間に戻って、テーブルの下とか探してたら『あ!』ってなって、部屋で充電してたの忘れてた、って」


「でも見つかって良かったね」


「だから戻って水野さん待ってた」



千智は既にラフな格好に着替えていたので、成美も着替えていると、ずっとスマホを見ていた千智が話しかけてきた。



「ねぇ、『好きになってはいけない人』ってどんな人だと思う?」


「何? いきなり」


「水野さん待ってる間、暇だったからネットで雑誌見てたんだけど、『好きになってはいけない人』って特集があって」


「やっぱり結婚してる人とか、彼女がいる人とかじゃない?」


「わたしもそう思ったんだけどさ、少数意見で『友達』っていうのがあったんだよねぇ。何で友達を好きになったらダメなんだと思う?」


「何でだめなのかなぁ。理由は書いてなかったの?」


「すっごい少数意見だったせいか、書いてなかった。友達なら別にいいじゃんね」


「そうだよね。私もそう思う」



着替え終わった成美に気が付くと、千智は「行こっか」と言ってスマホをポケットに入れた。





303号室に入ると、研修初日に集まったメンバーの他にもう1人知らない顔が増えていた。



「北野っす。なんか集まって飲むって言うからついて来ました!」



各々が自己紹介をするたびに、北野は「どもっ」と軽く挨拶をした。



「ここ誰の部屋?」


「深津と織田」


「何がって言うんじゃないけど、きれいじゃね? 片付いてるっていうの?」


「それ、深津。あいつすげぇ几帳面なんだ」


「へぇ、そうなんだ」



北野はめずらしそうに部屋を見渡していたけれど、やがて祐美に興味を持ったのか、やたら話しかけ始めた。


前回と同様、千智は横山とラグビーの話を始めたが、研修後に千智の兄を呼んで食事に行こうという話に発展していた。


深津はそんな様子を見ながら、隼人の選んだミルクサワーを一口飲んで眉を顰めた。



「これ、買うやつの気がしれない」


「なんで?」


「飲んでみろよ」



深津から受け取ったミルクサワーを飲んだ隼人が笑った。



「微妙な味」


「織田が責任もって飲めよ」


「飲むって」


「私にもまわして。一緒に買いに行った責任があるし、飲むよ」


「えっ?」


「どうしてそんなに驚くの?」


「いや、それは、まぁ……」


「部活でよく友達とお茶を回し飲みしてたから……あ! 私は気にならないけど、気になる人もいるよね。配慮が足りませんでした。ごめんなさい」


「そうじゃなくて……」


「水野さんって面白いね」



深津の言葉に成美は戸惑いながらお礼を言った。



「ありがとう。褒め言葉?」


「褒め言葉だよ」



2人が会話をしている間に、隼人はミルクサワーを一気に飲み干した。



(そっちは気になんなくても、こっちは気になんだよ……)



隼人のそんな思いに気づくことなく、空になった缶を見て、成美は「一気に飲んで大丈夫?」と、心配そうな顔をした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る