出会い

遡ること9カ月前。


水野成美と織田隼人が出会ったのは、ツシマ自動車の新入社員研修だった。



ツシマ自動車は全国に販売店があるものの、それぞれ地方ごとに独立した形をとっており、成美が採用されたツシマ自動車関東では、男女合わせて60名が入社予定となっていた。


その60名全員が、一つのホテルに集められ3日間の研修が行われたのが、満開の桜が咲き誇る3月の最終週。


研修では、最初に全員で基本的なビジネスマナーを学んだ後、事務職と営業職と、それぞれにあった内容のものに別れる。

成美は営業職での採用だったため、自動車販売会社独特の内容ともいえる、多様な車種の駐車訓練に始まり、お客様の車の取扱いなど、ドアの開閉方法に至るまで、細かい研修を受けることになる。


研修後は、休日を挟んだ後、入社式が行われ、その翌日から配属先での勤務が始まる。




会社が用意したホテルの部屋はツインルームで、初対面の人間といきなり同室ということに、研修初日、成美は緊張しながら部屋の前に立った。


ドアをノックした後、カードキーを挿して、ゆっくりとドアを開けると、声をかけた。



「失礼しまーす……同室の水野です……」



部屋の中は薄暗く、人の気配もない。



(まだ部屋に戻ってなかったんだ)



成美がそう思った瞬間、肩を叩かれ、危うく声をあげそうになった。



「503号室の人?」


「はい。水野成美です」


「青木千智です。よろしく!」


「よろしくお願いします」


「ここで話すのもアレだから、中に入ろうよ」


「はい」


「何で敬語?」


「え? 何となく?」


「同期なのに敬語いらないよー」



千智の笑顔を見て、成美も緊張から少し解放された。



「今日は一日中緊張してて」


「だねー。ベッドどっちがいい?」


「どっちでも」


「じゃあ、ジャンケンね」



ジャンケンでベッドを決めると、千智はすぐにベッドの上に横たわった。



「スーツ、しわになるよ?」


「うーん、わかってるんだけどね。柔らかいところへ横になりたくて。夜ご飯済むまでスーツとかキツい」


「それはわかる」



そこでいきなり千智はベッドから起き上がった。



「ねぇ、水野さん、お酒飲める人?」


「飲むよ?」


「じゃさ、夜、何人かで集まって飲もうって話になってるんだけど、どう? 参加費は1,000円くらいって」


「友達?」


「今日、グループでロールプレイングやったでしょ? その時仲良くなった深津くんって人が、せっかくだから親交深めましょうって」


「誘ってもらえて嬉しい」


「本当に大丈夫?」


「どうして?」


「『同室の子もぜひ誘って』って言われたから声かけたんだけど、いきなりで迷惑じゃなかった?」


「気が乗らないときはちゃんと断るから。今日のお誘いは本当に行きたいと思ったよ」


「良かった!」



千智の笑顔に釣られて、成美も笑顔になった。

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