第42話

 まさか全身から血を垂れ流しながら動く破目になるとは誰が想像をしていただろうか。それこそ戦争屋ぐらいのものではなかろうか。そのようなことを気にしだしていたらどうしようもなく脈絡のないことを言い出しそうで怖くなる。

 類煮れにはそこまで強力にとこの肉体が創られているわけじゃあない。特に別というはずもなく周囲の者達と変わらずに誰かしらの腹から受精卵が開花してこの形にまで成り立っただけである。

 誰も触手に触りたくはないけれども一度触れたというのであればもうそれから必要に迫られるというのであれば自分がやるしかないと気張ってまでここまでフラフラと躰を揺れ動かしながらもたどり着いたわけだ。

 その結果として結局正気であればとっくの昔に貧血と言われて寝ていろと押し込まれてしまうくらいには体調が優れない。あちこち串刺しになってもわかってしまう者だ。この身体の腹、子宮には被害のいかぬようにと丁寧な仕事がされていることがである。

 まさかとも思ってしまうのだがそれだけの行いとするということはこの子宮を何かしらに利用したいということではあるまいか。なんとも悍ましい話である。誰が自分の、それも子孫の遺すための器官を使わせてやるかよ。

(ハハハハハッ、SFの類のホラーでもそんな話は流石にないか)

 だけれどもこの混沌とした世界の中で滑稽さを求めてそれも現実ではないと却下をしてしまうことが、それこそよっぽどの危険ということかのぉ。だがそう考えてみたとしても分からないことがある。ナゼ私のになるのだろうか。子宮が欲しいというのであれば別の者達のでも構わないはずである。わざわざ周囲を警戒されている中でというかそれをさせてきてから他全身を触手で以て傷つけてくるなどと。

「理解が追いつかない。せめて本人の口から語ってもらわなければ納得のいく話でもないからさぁ」

 それで実際に恐らく先ほどまで触手を伸ばしてきてこそこそと隠れて襲ってきていた誰かというのを掴んで持ち上げて問当をしてやっている。その返答というのが碌にないためにかなり不満に思ってしまっているのが悔しいところではあるのだがそんなことを気にしている余裕などない。今まで散々に傷を負ってしまえば不満だってもタラタラになって当然だ。

 だがユラユラともプラプラともブンブンとも揺さぶっていっても返ってくる答えというのはうめき声くらいのものである。それでは類煮れにの感情だっても思考すらも納得はしてくれない………………あぁそうかここが間違っていたのか。

「ほーい」

 近くのコンクリートの塊があちこち崩されてしまっている状態である周辺足元にへと転がしていくことにする。そうすれば耳に入ってくるのはぽフッという軽い綿毛の布団かという音であった。

 これには自分でも耳を疑ってしまった。確かに目の前にへといるのは身体中から触手を数多く伸ばしていたのであろう怪人である。その重量というのも流石に成人男性よりも重いだろうとも周囲にへとこびりついた足跡から目算取っていたのだ。だがそれでもまさか自分よりも軽いなんて思いもしていなかった。

 やたら滅多らに振り回していたのはそれを確かめるというのも理由として含まれていたのだ。だが結局はこうなってしまっている。一切碌な反応を示さずにただ呼吸だけを続けているような。

 この状態で眠っているのならよっぽど機嫌がいいのだろう。うなされている様子もないようだし。

 そこでどこからか咳き込むようなのが聞こえてきてしまえば思わずそちらを必死に探してしまうのは間違った行為ではないはずだ。それがたとえ自身の危険にへとつながることだとしても。

「かッフォアァァァァァッ⁉」

 まさか本気でやってくるとは思いもしなかった。所詮は死にかけだと油断をしていた。自分は何でもできるとでも勘違いをして深追いしすぎた結果がこれだ。精神すら既におかしな状態にまで持ってかれていたのか。世界にへと誘導されている。子宮なんていうのは特に寿命のない存在が生きていくには必要もない部位であるというのになぜだとも………………分かりはしないだろう。

「吐血をしたというのならそれだけ死にかけということだ。それと今まではそちらがどのような業を有しているのか把握できていなかったためにそれを測る作業ことをしていただけだ。それで結局は全身大怪我で大敗北。恐らく回復にはかなりの日数を要するだろう。だがそれだけの効果があると信じて行ったことだ。問題はない。あぁもうどうせ聞こえてないか。止血なんて間に合うはずもなし。取り戻したかったら自分の脚で来い」

 あぁ耳が遠くなってきた。まさか胸を貫かれるとは誰が考えるかよ。そのままに腹を抱えていくような猟奇的な殺人者などを目の前にして体に動けなんて必死こいてバタバタと藻掻いているのは見苦しいともいえるのか。ただそれが自分でなければどれだけよかったかとも重く受け止めている。

上半身と下半身は本当に僅かながらに皮一本で繋がっているだけ。類煮れにが倒れ伏せてしまったその顔というのをしっかりと頬を両の手で挟んで拝んでいくことをするのだからそれを行うものというのはとことんまで悪趣味ともいえる。

 そしてその綺麗なまでに摘出されどこか特殊な膜に覆われているようにも感じる子宮というのはこの場合後ろ手に持っている状態か。だらだらではなく凄まじい勢いで全身の血液が大きな傷から噴射されてしまっているせいで思考すらもまともに纏まる気がしない。纏まってくれたらそれこそ自分がニンゲンであるかというのを疑ってきた方がいいかも知れない。無益なことばかりがグルグルと廻ってきてしまっている。

「ァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ」

 ここで出せるのといえば僅かな金切り声である。そうすればこの場所にへと集結してくるのかそれとも解散してくるのか鳥の数々がそれぞれの反応を見せて慌てふためくくらいの動きを見せている。

 もう瞼すらも動きはしない。視界を保っていられるのが奇跡に途轍もなく近いことであるとの憶えがある。だというのに見えるのは未だにこちらを怪訝な顔で窺ってくる怪人のその眼でしかない。

「へぇー、元気に動くことで。だが悪いな。これでもこちらは忙しいんだ。やることなんて沢山あるせいで次々から次にへと舞い込んで終わる気配はなし。一つのことに構っている余裕なんてない」

 類煮れにへとそう告げてくるくるとステップ踏んで回りながらも元気よく笑顔でこちらに手を振っていた。そしてその後ろには自身で展開したのであろう虚空というのが感じ取れる。急激な勢いで加速しだして視界なんていうのは既にほとんど削り取られてしまっている。

 だというのに何故か思考というではなくて感情で何かを実現できるという確信が出てきてしまっているのだ。類煮れにの脳で一体何が起こっているのかというのはわかりはしないのだがこの傷があるのでは一切の行動など出来ようはずもない。というか既に死に足かけており、生き残ったとしてもそれで目覚めた場合には自身のその境遇にへと絶望をして発狂となってしまうかもしれない。その後しばらく首つり自殺となれば中々にショッキングだがそれだけの高さなどを確保するのがこの身体では難しいだろう。それとも義肢でも出てくるというのであればまた別の話になるのだが。

 だがこの場合にて行われてしまったのは別の事件か。

「じゃあまた会える日まで。なんてそっちはこれで一度終わりだから次の生にまで持ち越しか。どれだけの時間がかかるとも知れないが期待はしてやる。そして見てやる気もないからなッ⁉」

 そして行われてしまったそれというのはこの全身から触手を伸ばしてきていた空間すらも捻じ曲げてくる圧倒的なまでの脅威ともいえるその存在を突き飛ばしてその繋げた空間にへと落としたそれのこと。一体どこの誰なのだろうかともかも思って振り返ってみればそこにいたのはどこからどう見ても典型的な人間大の機械人形である。

 その背丈さえ記憶が間違っていなければ類煮れにとそう変わらないようにも見えるのがこの怪人には気になってしまうところ。

 そこで連絡というのが確かにここへと伝わってきてしまう。

『そろそろ時間になるが注文していたものというのは』

「あぁ?何か注文していたか。そちらに頼まれていたのはせいぜいが使える手段は問わないから作戦に妨害をしてくれというだけではなかったか。確かに出遅れたことは謝るがそれを言ってしまえばそちらとも打ち合わせをしていた訳でもない。それのせいで大変なことになったのに。おかげで手に入れてしまったこの傷の分は更に請求してやるから。………………とはならないのが今のことか」

 この場で伝えていたところで依頼者から応援を送ってくるはずもない。それが孤高の仕事人だ。………………孤高なんていいものでハナイ。いくら顔見知りであったとしてもそれでも躊躇をしても死なせてしまうのが実際の無能者だから。

 これで勝利に近づくというのであれば構いやしない。心苦しくもこれをするのが今の世界のスタンダードなのかという悲惨さだ。

『注文をしていない物を複数持ち込まれるのは少々驚いてしまうのだが。受け取り場所をわざわざそこにしたのもあまりに近ければ儀式の基本にすら差し支える危険があるからだ。それくらいはオーバルだって承知のうえで引き受けたことであるはずだろう。今更ひっくり返すことなど出来ようはずもない。だが応援くらいであれば応えてやる。注文があれば聞いてやれる余裕はあるしな』

「必要ない。所詮は精々が機械人形だろう。であれば現状の態勢でも問題はない。それで本当にだめだったら泣いて縋っていくだけだ。いきなりだったから驚いただけだから。単独で充分にやれる」

 ここは世界中の白亜の城をレプリカではあるが等身大としていくつも並べているという異様な景色の空間か。それは見方によれば気味が悪いともいじわるとも悪趣味だともいえるのだろう。

 こんな景色の中での戦闘とはかなり派手なことをしているのだとは誰も思いもしないだろう。傍から観ていればとても派手とは言えないような堅実なことの積み重ねの戦闘であるのだから大衆受けはしないだろう。

 お互いに刃物を持ち出してそれを打ち合わせるだけであり踏み込んでいこうとしているだけ。かなり力を込めているのがそれこそお互いに見て取れるのだが、ギシギシと競り合っていても折れる様子が一切ない。

 そして一歩引いてみればその直後にて蹴りを放っていこうとするのが機械人形の方から見て取れる。だがそれのための警戒というのをオーバルですら見せている。これは基本的には見せるためのものでハナイはずだ。だが強者として呼べるはずのオーバルですらも目の前にへと立っている機械人形にへと怯えることをしてしまう。

 そうすればその機械人形という方は蹴りの方を引いていくことをしていく。そしてピコピコと信号を交信しているような様子が窺えてしまう。これには怪訝な目を向けてしまうのだがその直後に起こるのはビーム砲の乱射か。

 これによって行われてしまうのは周囲の白亜の城にへと損傷をさせていくことであるだけ。その結果は正直いって小さいものではあるが、疑問が出てくるものだ。

 ナゼ当たらぬと分かっている一撃を歌出してきたというのか。オーバルをコロスことなどは決して不可能ではない。だが意識のある状態でビーム砲を見当違いの方向にへと撃つだけであるのは疑問ばかりになる。

「じゃあばらすか」

 そしてどこからともなく取り出してくるのは一般では見ることはないであろう工具の数々である。この工具で以て目の前にある機械人形というのを薔薇襤褸に分解してしまうつもりなのがオーバルである。

 一度一度と突き込んでいけばその全てを躱されてしまうことになる。せめてマイナスドライバーでもあればなぁとか思ったがそしたら手持ちのマイナスドライバーが跳ね上がっていく。それを掴めば一気に速度を上げて突き込んでいく。これもまた躱されてしまうのだがようやくというのか隅にへと追い込んでいくことに成功した。

 だがそのマイナスドライバーを握っている腕にへと向けてすぐさまナイフが伸びていく。これには驚いたがすぐさま腕を引っ込めていく。そこでやってきたのは持ってきたこれを受け取りにきた誰かということである。

「あいよ」

「どうも。必要もないのによくやってくれる」

 それでその受け取った一品の後方に展開した穴にへと投げ込んでいったとさ。

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