第17話

 どこまで行っても類煮レニの姿を確認することが難しいところ。結局は進むべき途すらもたどり着いてくれないただの人間でしかない。所詮は日常のどこにでもいるようなカタチをしてしまっている女の子だから。

 それを自覚していたところで………………どうしようもなく嘆きたくなる。そもそもがゾンビパニックを起こされてそれに巻き込まれてしまったというのであれば一般の日常にて過ごしてきた者達が大半だろう。自分のやってきた………………というよりはやって来なかったことに後悔をしてばかり。それを公開されるのは堪ったものでハナイ氏、それこそ船にでも乗っけられて航海をされてしまうのが一番望まないのが正直な感想である。

 自分たちがどんなことをしてきたのか、それを今更ながらに反省をしていたところでどうしようもなく恥にしかならない。誰にも見られたくない過去というのはよくあることだがそれを探し求めるのは出来ればやめて欲しい。

 でも今思うことなんていえば全く以て感想すら及ばないことである。ただの純粋にビクビクと恐怖で震えているしかできないくらいだ。だが今くらいしか懸念する素材というのも少ない場面はないだろう。ここがどこかといえばショッピングモールにへとつけられていたトイレの個室の中である。

 ここで用を済ませるのにわざわざ二人から離れてきたというからどれだけ迫られていたのかというのが窺えるだろう。それで事を済ませてその個室から出ていこうとしてみればそこで何かしらの違和感を覚える。ここで違和感になんて気づくのは市井にいる人間としては極少数だろう。この勘というのも偶然たまたまこれに近い経験を複数で同時に行われた場合だってあるかも知れないといえる。

 そのためにドアにへと手を伸ばすのも躊躇われてしまうのだからどうしようもないのが困る。寺野としては他の友人を探しにいくのが正解かとも思うのだがそれをするには個室から出ていかなければいけない。それってドアを開けるのにもこうして怯えてしまっている寺野にとっては困ってしまっているのが現状ということ。

 どうすればいいのかとも考えてみれば天を仰いでしまうのが寺野らしいともいえるのか。

「あぁ………………開いているわね。トイレの個室なんて開いていて当然か。もしもの場合に出れなくなってしまうのも困るでしょうし」

 流石にしばらく一人でいればその分だけ一人ごとが多くなる。つまらないというよりは飽きたという感想が出てきてしまう。そして更に言いたいことすら浮かんできてしまうのだ。どうしてかは知らないが横から漂ってきてしまう気配というのがこの状況から更に気になってきてしまう。

 思わず振りむいてしまうのもなんて事のない行動ということ、なんでかは心当たりもないが誰とも知れぬ複数の存在にこうして見つめられてしまうことが不安を煽ってくる。

 だがこれであればやっていかなければいけないことだって思い出した。ゆっくりとなんていうのは寺野はしてやれない。パタパタと足踏みをしていけばその直後に出現したのはドアの向こう側であったのだ。

 どうやったのかといえば上部からすり抜けてたどり着いただけである。冗談でもなく自分が比較的痩せていたのが幸いしたか。だがそれも中々に選択肢の多いことだとも感想として浮かんでくる。あぁこれであればすぐに終わってくれるといいのだが。

 隣の個室の方から凄まじいくらいには異様な気配を光学の類で認識できるほどに顕現してしまっているのだ。これを見てしまえば一気に頭をフル回転させてしまおうかとも考えて動いていこうとした。

 だがそれを止めてくれる者だっていて当然だ。それが寺野にとってはよく知っている者であるのが安心をさせて………………はくれないのが気味の悪いところ。勘すら間違えてしまうことだってある。だがそれを信じられなくなってしまえばいけないことだ。だからこそこの言い知れぬ不安というのは止められない衝動である。

「なんでここにいるのよ。英砺えいれが来ているなんて思いもしていなかったからゆっくりとしてしまったわよ。心配かけてしまったのならごめんなさい」

 そして鏡の前に立って手を洗っていく。それをただ黙って眺めているだけの英砺えいれが立っているのが気になってしまうのだ。彼女とはそこそこの付き合なるが心配だからといってわざわざここまでやってくることはないだろうとも思ってしまうのだ。 

 ハンカチで濡らしたその手を拭いていけばその直後に降ってくるのは針の雨であるのだ。

「へッ?」

 これにびっくりしてしまえば思わず飛びのいてしまうことになった寺野である。そしてこれを行ってきた者だってすぐに目に付いた。針が振ってくる前にへと動き出してきていたところと、それに首元にへと刃物を突き付けてしまっているのであれば否が応でも気になってしまうことだ。

「どういうつもりかなんて教えてくれないのよねぇ。私だって脅しなんて無条件に従うなんて思ったら大間違いだっていうのに」

 そう言いながらも何も言われずとも両手を上げていくのが物騒なというよりはノリのいい人物と称するのが大体といったところか。

「なんで燕衛エンエだってこんな風にして対応が素直なのかが分からないのだがな。残酷なまでに人殺しの才能があるよ」

 なんで英砺えいれがいきなりこんなことをしでかしてきたのかという理由は今のところ知りようがない。だがそれも言い分としては不十分だろう。寺野てらの燕衛エンエという女性はその若さでも今まで生きてこられた分だけの経験はある程度はしているもんだ。

 ならばこそ永い付き合いとなっている彼女から突き付けられてしまっている刃物からはそこまでの恐怖とはならなかった。何気に更に気になる現状というのが存在が目に入ってきて仕方ないのだから。

「あなただって人殺しの才能があるなんてあなただってかなり正気からはかけ離れていて当然でしょうし。それこそ実行していたことのある人物がいうことじゃないのかとも………………冗談だよな」

 後ろにいる存在にへと問い詰めていこうとしたのだがその頸にへと構えられた刃先というのが震えてしまっているのがよくわかる。その理由としては恐らく想像も容易い。

 刃先以上に震えてしまっていたのが後ろにある個室のドアからガタガタと奇々怪々な様子を見せてしまっていることから振り返るのにも身構えてしまう。

 もう自分の首に刃物が構えられていることなどが頭から抜け落ちているのではというくらいの迅速な動きを身体にへと求められていたのだ。それをどこにへと動かしていくのかといえばこのトイレからの脱出をしていくだけである。そこでドアを開けていこうかとも試みたのだが残念ながらもこの貧弱な女の拳であれば開いてくれないのが残念なところか。

「フじゃ――――⁉」

 思いっきり叫んでみればその後ろで耳を塞いでいたのが英砺えいれであったのだ。目の前にてふざけている様子を観てしまえばどこまでも感心はしてやれない。

 息を吐いて呆れながらもそのドアにへと近づいていく。そしてドアノブを掴んで押し込んでいかなければいけないかと………………思って実行をしていった。

 だが一切の反応すらも示してくれなかったのが明らかな絶望を煽ってきていた。恐怖体験とはこのようなことをいうのだろう。明確なオカルトである。寺野てらの燕衛エンエが試みた場合にはしっかりととは言わなくとも多少の反応はしてくれはしたのだ。だが英砺えいれが行った場合にそれに満たない動きしかしてくれなかったのが明らかな絶望を煽ってくる。

「そういえば………………」

 英砺えいれにとっては隣で呑気にこの施設のパンフレットを取り出してくるのがどこまでも恐ろしく思えてくる。どーして機敏に主人公かというくらいには無鉄砲な行動ばかりをしてくる寺野てらのの心配をしなければいけないのか。それが一番とは言わなくとも懸念する材料ではあったのだ。なんでとは言わない。シャッターを閉めていくということをしてくれたのだから別にそれは大きな感謝しかないのだ。

 類煮レニも一緒にということだったがそれであるのなら対応すらも可能だったとも納得されられてしまう。いつもいつも無茶ばかりするのが寺野てらの燕衛エンエという女性だからこそだ。

 だからこそ油断をしていたらしい。まさかこんなことが叩きつけられてしまうなんて誰も思いもしていなかったわけだ。飛んできてしまうのは恐ろしい勢いによってまさしくただの女の子でしかない存在である。

「………………………………どうしてッ⁉」

 これだって叫んでしまってしまってもとくにはおかしくない現状だろう。なんでこんなことになってしまったのかは想像もつかない。だがどこから飛んできたのかということであれば簡単に明確な答えを示すことが可能である。

「あぁここって昔は小学校だったらしいわね。そんなのが特に何かの役に立つわけでもないけれどもまさか雑誌に載っているなんて思いもしなかったけれども見つかったのなら………………って何やってんのよ」

 そんな風にこちらを心配をしてくれているのは結構なことで嬉しいのだから思わず笑みが零れてしまうのだから何気に困ってしまうところだ。困ってしまうというか気まずいという感想が上がってきてしまうくらいなんだが。

 それなりに幼い女の子を抱えている状態であればどうしようもなく動きを制限されてしまう。まぁそれもその場で投げ捨ててしまえばいいのかとも考えてしまったのはかなり人道的に不味い思考ばかりしてしまう自分が嫌になる。

 どこから飛んできたのか。やはりそちらの方にへと振り向いていくのにはかなり身構えていかなければいけないくらいには圧力が感じられる。そこでふと飛んできた女の子というのを全体像からして眺めてみることをしてみた。その女の子というのが白いワイシャツに真っ赤なそして長い丈の姿をしていたのだ。

 これがある程度の記号であるということに気づいてしまった英砺えいれであるのだがそこからもう非常に憂鬱な気持ちになった。眼元を手で覆っていけばその直後に天井を見上げることをしてしまう。なんでこんなことになったのか。

「明らかにトイレの花子さんじゃあないのよ」

「アブアブごめんなさい勢いつけて走っててもぶつかったことには変わりなく大変なことをしでかしたのは自覚しておりますので」

 何処からか走ってきたのか息を切らしながらも頭を下げている女性が目に入ってくる。その女性には気づいていないのだろうか。三番目にある個室のドアというのが飛んでいってしまっているのが。どんな衝撃なのかそれは。

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