第14話

 片腕を失ってしまうという事実には通常どのような対処が求められるだろうか。

 まずは止血か。それともだらだらと血液を垂れ流しながらも残ってしまった先の腕というのを拾い上げていくのか。だがその腕というのを紛失してしまった場合にはどうするのが正解なのだろうとも考えてしまう。これはどこまで行っても失われた事実を認めてそれを受け入れてしまうしかないのか。だが所詮は形状として整えてしまうための一部という意味で含まれているのみ。

 だったら四肢を有する二足歩行の誰かというのにこだわっている必要もない。結局は時間をかけてそんな恰好をしているからそれに固定をされてしまうのだ。であればこだわりを捨ててでも異形の姿に手を伸ばすのも決して悪い話ではないだろうて。

 だがそれで自分の個性アイデンティティを探してしまう破目になるのは出来れば避けたいところだ。自分が存在しているのはこうして思考をすることを認めてというのが前提にくる。それがないというのであれば中身は何もない空白ということ。

 だったら自分の姿を忘れてしまわないようにとするのは決して間違っていないはずである。それであれば何でもかんでもと自分の体の全てを失っても動いていられるということではないか。

 流石に忿怒ふんどだってそこまでの強さは持ち合わせていない、と自身を評価している。そこの胸にあるのは何だろうか。それは魂すらも残ってしまっているヒトのカタチに押し込めた怪物である。

「だから怪物の相手を怪物がするのは間違っていない」

 一本の道路を出てきたと思ったらそこにあったのはまさかの渋谷スクランブル交差点であったのだ。そしてそこで通行をしていた人々の全員が首を強引にでも回してきてこちらを振り向いてきたのだ。流石にこれには驚いてしまうこと。その隙に腕がどうにか悲しいくらいにごっそりバッサリざっくりと持っていかれてしまった訳だが。

「それで命を削り取られるほどには脆弱だ。我慢勝負と行こうか」

 そして降ってくるのは当然先ほど忿怒ふんどの腕を消し飛ばした剣先である。

 後方にへと下がっていった途端に悪寒が走ってくるのを自覚する。その瞬間に前にへと飛び出してその剣先にへとではなくその腹に向けて拳を押し当てる。これであれば軌道もずれてくれる。顔面に一発ストレートをかましてみれば大きく吹っ飛んでくれたのがあっけなく感じる。自分としては一体それぞれとしては強さはかなりのものであると考えていたのだ。これが自分の拳にやられてしまうのは期待外れにもなってしまう。

 せめてここを踏ん張ってくれたらとも思ってしまう。戦闘ばかりの日常に生き残るだけであればいつもの話になる。だからこそ同格以上を相手にしていなければ安心も出来なくなってしまう。

 これこそ戦闘狂みたいになってしまう。そんなつもりでもないのだがなぁ。実際に左腕を失ったかと思えば右耳をやられてしまっているのに今気づいた。寧ろよく右耳だけで済んだなぁと自分のことながらも感心してしまう。

 こんなことをやってきた武器は何かと思えばそれも腕から伸びる刃物であったか。

 正面から振り返って回転してからの一発の蹴りを腹に叩きこんでいけばその場に倒れこんでしまう。やはり見かけのわりに貧弱であると考えてしまう。どいつもこいつも歴戦の猛者というオーラを纏っている癖に大勢で襲い掛かって碌な武器ももっていないたった一人の男を相手にこの様とは。

「だがそれも勝利の途すらも届いていない現状ではな‼」

 そして自分の負った傷というのを数えてみる。それだけの余裕があるくらいには周囲の怪物共を屠すことに成功したということ。さっきから同型ばかりしか見えてこないのだがそれも忿怒ふんどの見ている場所が違うということか。

 連中は未だに襲い掛かっている数というのを減らしているわけではない。だがそれが遠巻きに眺めているのが多くなっているだけ。右腕があるが利き腕を失っていることには変わりない。それでよくやっていると自分のことながらに感動すら覚える。

 だが今から飛んでくるのは無数の弾丸か。遠巻きに眺めている連中がそれだけかと思いきや形態変化を見せてきていた。そしてその腕というのはバルカン砲が付けられていた。付けられてというよりはそれのために形成されているということ。

 比較的軽くはあるがそれでも放っていった後に起こるのは轟音にしかならない。重たいのを撃たれていたら一発も受けられなかったがこれであればなんとかなる。

 ここで使用していくのはあの忍者の野郎から回収しておいた投げ苦無である。苦無であれば別に投げるだけが能ではない。実際に振り回して使用できている時点で使用者を限定しているわけでもないらしい。徹底した処理をしていけば肉体に当たってくる弾丸の数だって減っていっても当然となる。

 だとしてもこれで全部を地面に落としていくのは叶うはずもない。精々が傷だらけの全身にと掠ってしまうくらい。

(これではらちが明かない。ジリ貧などお互いに望まないだろう。相手がこれを処理したいという思考でもなければ)

 忿怒ふんどはここで軽く深呼吸をしていった。これで周囲に広がっていた気配というのは多少の変化があった。それが忿怒ふんどとしては気になってしまう。

 何せそれが明らかに自身から発せられたものでハナイからだ。こうしている今でもハチの巣にしてやろうとバルカン砲を向けられているわけだが。本当に深呼吸というのは効果があるらしい。それをしたら飛んでくる弾丸というのがしっかりと把握できるようになった気もする。これで対応できる数というのは多くなったがそれはそれとしてまた別の問題があがってくる。

 身体のあちこちからかなりの悲鳴が聞こえてきているのだ。それは強引に動いていればそうも成ろうというモノ。限界を超えるというのは気軽にやれることではないから。

 だがそれでも忿怒ふんどは目の前にある限界を超えていくのをやめない。腕を回していけばその直後にその場から姿を消していく。その次に現れた場所というのは銃撃を行っていた連中のど真ん中である。前衛を担当していた方とすればこの光景には心底驚いただろう。目の前にいた対象が横を抜かれて後ろに現れてくるのだから。

 そこから行っていくのは一つの蹂躙である。限界を省みないのであればいくらでも暴れられるという証明。

 まずは自分の近くに先ほどまで距離の離れていた銃撃の対象がいきなり現れてきたとすればそちらに向きなおるのが当然ということだろう。当然ながら周囲にあるのは口径は比較的ではあれど小さくとも威力はかなりする方だ。

 それを全て回避してみせる。そして目の前にて存在している真っ赤な怪物の一体を拳で吹っ飛ばしてやろうとぶつける。だがそこで拳に伝わってくる感触というのが剣をつけた個体とはまた違うである。それに吹っ飛んでくれずにその場に膝から崩れ落ちていくのが目に映る。

「どうやっているのやらッ」

 こうして呟いている余裕すらも本当はないのだが。その直後に飛んでくるのだが今しがた墜としていった個体を肉壁としてぶん回していく。だがそこで大変に面倒なことを思い知らされる。今まではこんなことをしていなかったから気づかなかったらしい。

(フレンドリーファイアしないのかッ⁉ここはどっかのビデオゲームでもやっているとでも)

 だがその直後に思い出すことがあった。一か所多く集まっている方にこの肉壁というのを放り投げてしまう。そうすればそちらに照準が向くことなく更に忿怒ふんどがいる方向にへと勢いよく前進をしてきたのだ。

 判断が速い。そしてどうやらやられたくはないらしい。それと同時に回避というのを選ぶのままだわかるがそのために目の前にいる連中を動かしてまでやることかとも思う。

 持ち場を動かすのはそれなりのリスクがあるというのに。弾幕を張っていくのは相応のストレスになるというのにそこに更なる行動を追加するとは。

 それでも忿怒ふんどのやることは変わらない。気配の変化した原因というのを探し出すこと。誰かしらの殺気が切り替わったような印象にもなる。

 そしてそれを追いかけ続けているのだがあっちもこっちもと行ったところでその気配が消え去ってしまうのだ。その直後にまた明後日の方向にと出現してしまっているのだ。

 追いかけていくのには相応の苦労をする。足腰がもう既にボロボロでありいつかと言わずに今でも止まってしまっておかしくない。そんな風に考えている時間すらも惜しいとも思う。だがそうでもしなければ、考えることをやめてしまえば意志を有している意義すらなくなる。

 頭すらも衝撃で痛いくらい。利き腕がないのであれば頭突きでも使わなければ攻撃の手段もない。だがその頭も重く感じてしまうのが非常に辛くなる。その直後にて膝を地面にへと着くことになってしまう。体力の限界を既に迎えていたらしい。それもそうだろう。命をすり減らして戦っていれば寿命だってゴリゴリと凄まじい勢いで下降していくのが現象として巻き起こっている。やるべきではなかったという後悔はしない。

 アスファルト舗装というのはどこまでも硬いというのは素晴らしいことか。この程度で絶望するわけもない。未だ生きているのであれば勝利と生存を望んで闘うのは当然だろう。

 既に周囲には複数の銃口が突きつけられてしまっているのを確認する。あぁ自らの命の危険というのを感じるのは久しぶりだなぁ。もう立ち上がる気力はあれど肉体が落ち着いてくれない。

 にもそこで地面にと転がっていた肉塊というのを目にする。それは忿怒ふんどが撃破した個体である。人間というのは限界を容易く超えていくらしい。

 ならばそばにある者をサンプルからして手に入れていればそこから真似ていくのも悪くない手ともいえるだろう。そして忿怒ふんどが行っていったのはサンプルの採取である。具体的にこれをいうのであれば………………ただの二足歩行の怪物の死骸を対象とした捕食である。その光景というのは余りに残酷で血に塗れたよっぽどの獣らしい姿ともいえる。

 

 現在明らかに異様な光景というのを目にしてしまう者がいた。ガイアールは空間に開いていた裂け目にへと飛び込んでいくことをしてみせた。その理由しては相手をしていた存在がそちらに逃げていったのもあるのだがそれと同時にいることもある。

 奇怪なそれでいて今回ガイアールの求めていた存在がそこにあるような気もしたから。そしてそれはある程度は正しいことだったと認識する。

「何をふざけたことを………………ただの人間が他の種を正しく屠ることなく貪り食うなんて」

 どれだけの悪影響があるのか想像もつかない。時間をかけて腐り果ててしまうのであればまだましなのかもしれない。死にざまが酷いだけで予兆で適宜確認していれば一瞬で終わるだろうから。辛い時間は僅かだ。

 恐ろしいのは自らの身すらも自身で動かしていくことが叶わなくなるということ。

 精神への異常を発生させてしまう可能性すらある。人間というのはどこまでも適応はしやすくそれが出来なければ容易く滅びる脆弱性を同時に含んでいる。

 そしてガイアールは忿怒ふんどを一度見ている。あぁそれであればどこに行くべきかの想像もつく。

「その前に彼を救ってあげようかな。お節介にはあるけれど退避は必要だし尋問もしたいところで」

 そこで飛んでくるのは真っ赤に染められた火炎か。ガイアールは先ほどもこれを見ている。名乗りを上げていたわけでもないからこれが初対面であれば名も知らない。

 初対面であれば。

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