第59話

結局私はハン君に抱っこされたまま玄関から出ることになった。


洸太郎と呼ばれていた彼も誰かさんの様に靴を履いたまま庭から部屋に上がり込み、玄関から出た。



きっとアパートの前には警官の宮部さんが来ているだろう。


どうせ止められてどこにも行けやしない。



でもアパートの敷地を出ても人は見当たらなかった。


まだ来ていないのだろうか・・・。



周りをきょろきょろと見渡す私にハン君が声を掛けてきた。



「心配しなくても、大丈夫だよ。

今日は、話をするだけ、だから。」



・・・話・・・?


誰と誰が・・・??



赤に白いラインの入ったMINIの後部座席にハン君と乗り込む。


運転席でハンドルを握る"洸太郎"と呼ばれていた人が言った。



「・・・・彼女のそんな姿、凌久りくが見たら何て言うかな。」


「正直ボクは、こんな可愛い伊東さん、あんまり、見せたくないよ。」



・・・また知らない名前が出てきた。


不思議に感じているとハン君が私を膝に乗せて言った。



「伊東さん、"須藤凌久すどうりく"ってわかる??」



後ろを振り返る様にハン君を見やると首を横に振った。



「けっこう有名、だと思ってたんだけどな。

うちの"魔王"って、呼ばれている男だよ。」


「・・・"魔王"・・・??」



三潴がよく飲んでいる芋焼酎の名前が頭に浮かんだ。

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