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 信くんが歩いて行った先、そこにあったのは『長いトンネル』だった。

 本来な行き止まりになっているはずの壁のところに、なぜかそのトンネルは確かにあった。(自分の記憶と違うその光景を見て、さゆりちゃんも、久美子もすごく驚いた顔をした。とくにさゆりちゃんがこんなに驚いた顔をするのはとても珍しいことだった)

 この長いトンネルはとても長いトンネルのようで、外からはトンネルの終わりは見えない。

 久美子とさゆりがそっとトンネルの中を覗き込んでみても、そこにはまるで永遠に続いているかのような深い闇があるだけで、先を見通すことはできない。(トンネルの向こう側に光はない)それはどこか(ここではない)遠い世界にでも通じているかのような深い、本当に深い闇があった。

 山奥に長いトンネルがある。

 それ自体は別に大したことではない。きっと日本中どこにでも、このようなトンネルは存在しているのだろう。

 でもこんな場所に、ありもしないトンネルがいつの間にか建設されていた。それは確かに異常な出来事だった。

「驚いただろ? 俺もこのトンネルを見つけたときには本当に驚いた」信くんはいう。

 久美子は「うん。すごく驚いた」と目を丸くしたまま信くんに言った。

 さゆりちゃんはまだ固まったままだった。

「このトンネル。なんだと思う?」信くんはいう。

「え? なにってどういうこと?」久美子が答える。

「このトンネル。たぶん隠されていたんだと思うんだよ。土壁かなにかでさ。それがいつかの台風か、あるいは昨日みたいな大雨の日に、もしくは長年の風雪によって、そういった偽物の壁がはがれて、こうしてこのトンネルの姿がここにあらわれたと思うんだ」と信くんは言った。

 その信くんの言葉を聞いて、なるほど、と久美子は思った。(素直に感心した)

 久美子は昨日から家に誰もいないとか、闇川さんという闇闇を見るとか、いろんな変な出来事ばかりを経験していたので、この長いトンネルも、きっとそんな不思議な心霊現象のような出来事の一つであり、或る日突然、この場所に(まるで幽霊のように)ぽっかりとあらわれた、通常の現象では説明できないものだと思っていた。

「三島と関谷はどう思う? このトンネルはどうして隠されていたんだろう? 俺はさ、きっと『戦争の時代』が関係していると思うんだよな」

「戦争の時代? どういうこと?」久美子は聞く。(今日の信くんはとても冴えているような氣がする。まるでさゆりちゃんのようだと久美子は思った。

「このトンネルはたぶん、旧日本陸軍の秘密基地かなにかなんだと思う。それで、終戦のときにそれを隠すためにさ、こうして入り口のトンネルを土壁で封じたんだと思うんだよな。どうだ、三島。俺の推理は、完璧じゃない?」得意げな顔をして信くんはいう。

「すごい。なんだかその通りのような気がする」にっこりと笑って(思わず両手をぎゅっと握りながら)久美子は言う。

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