まちのなまえ
雨世界
1 愛によって、守られる。
まちのなまえ
愛によって、守られる。
小学校六年生の三島久美子が、その違和感に気がついたのは、今朝、自分の布団の中で、目を覚ましたときだった。
いつもと変わらない朝の風景。……自分の部屋。だけど、どこかに違和感がある。(でも、その違和感が具体的になにを指しているのか、それが久美子にはまったくわからなかった)
久美子はとりあえず、いつものように起床をして、歯を磨いて、顔を洗って、それからパジャマから、小学校に登校するときに着ている服に着替えをして、「おはよう」と言いながら、台所に移動した。
しかし、台所には、誰の姿もなかった。
それどころか、家の中に久美子以外の人の気配も、しなかった。
台所のテーブルの上には、朝ごはんがちゃんと用意されていた。ご飯と、お味噌汁と、鮭と、卵焼きとほうれん草のおひたしの朝ごはんだ。
久美子はとりあえず、いつもの自分の席に座って、「いただきます」をしてから、その久美子のために用意されている一人分の朝ごはんを黙々と食べた。
ご飯は、すごく美味しかった。いつも通りのお母さんの味がする美味しい朝ごはんだった。
「ごちそうさま」そう言って、久美子は食器を流し台に持って行って、そこで洗い物をした。
それから小学校に通学する時刻になったので、「いってきます」をして、久美子は実家を出て行った。
ランドセルを背負って、靴を履いて、玄関のドアをがらがらと開けるときに後ろを振り返っても、誰も久美子に「いってらっしゃい」を言ってはくれなかった。
久美子は一人で家を出た。
家の外に出ると、空はどんよりとした灰色の雲で覆われていた。……今日は、雨になるかもしれない。
そんな暗い空模様を見て、三島久美子はそんなことを、一人思った。
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