第50話 翌朝

 チュンチュン……ピチュチュ。


「ん……もう朝ですの……」


 木窓の隙間からは光が差し込んでいて、朝の訪れを告げている。


 わたくしは両サイドを静かに見ると、フィーネとララもスヤスヤと寝息を立てていた。


 とても気持ちよさそうに寝ている2人を起こすのは悪い気もする。

 それに、二人の可愛らしい寝顔を見れるのも、ちょっとした役得な気がした。


 のんびりとした時間を感じる度に、スローライフをしている自分を嬉しく感じる。

 日本という異世界でただ会社の為に時間を使っていた自分が、生きていたのかとすら思うほどに。


「ふふ……」


 この時間を噛みしめ、自然と声が漏れてしまう。


「……クレア?」

「おはようございますわ。フィーネ」


 わたくしの声でフィーネが起きてしまったらしい。


 彼女は薄っすらと目を開け、何度か目を瞬かせてゆっくりと起き上がる。


「ん……っく……良く寝た……」


 彼女はそのまま凝り固まった身体を伸ばす。


「いまって何時?」

「さぁ……どれくらいでしょうか? あまり光が入って来ないように作りましたし」

「窓開けてもいい?」

「もちろんですわ」


 フィーネはベッドから起き上がり、ララのことも確認したからか静かに窓を開ける。


「………………やばくない?」

「そうなんですの?」

「太陽……めっちゃ高いんだけど!?」


 彼女は顔を真っ青にして、こちらを振り返ってくる。

 そのままダッシュで自室に行こうとして、ララを叩き起こす。


「ララ! 起きなさい! あんたのとこも始まる時間同じくらいでしょ!?」

「ん……あと5分……」

「その時間で遅れるわよ!?」

「じゃあシチューを煮込むまで……」

「それどれだけ時間がかかるのよ!」


 と、言いながらも起こそうと必死になっている。


「フィーネ。わたくしが起こしますから、フィーネは自分の準備をなさってください」

「ありがとう! そうするわ!」


 フィーネはダダダダとすごい音を立てて階段を登っていく。


 わたくしはその音を聞きながら、ララをゆったりと揺する。


「ララ、朝ですわよ。起きて下さい」

「大根のかつらむきが終わるまで……」

「仕事に行かないとその料理もさせてもらえないかもしれませんわよ」

「!!?」


 ララはわたくしの言葉で飛び起きる。


「それはまずい。すぐ準備する」

「ええ、気を付けて下さい」


 彼女も準備を始めるので、わたくしも起きる。


 そうすると、フィーネがダダダダとすごい音を立てて降りてきた。


 彼女はサッと簡単な服をまとっていて、急いでいることが分かる。


「クレア! 行ってくる!」

「はい。いってらっしゃいませ」


 フィーネはそれから走って家を出て行く。


 その後を追いかけるようにララが部屋から出てくる。

 彼女はいつもの店の服に着替えていた。


「わたしも行く。朝ご飯は……」

「昨夜、沢山食べたので大丈夫ですわ」

「ありがとう。明日はちゃんと作るから。行ってきます」

「はい。いってらっしゃいませ」


 そう言ってララも走って家から出ていく。


 わたくしは2人を見送ったあと、ベッドで寝たふりをする2人に向きなおる。


「さて……ティエラとマーレももう起きていますわよね?」

「起きている」

「起きてるよーでもショックで動けないよ……」

「どうかしましたの?」

「ララのご飯が食べたい……恋しい」

「昨日あれだけ食べたではありませんか……」

「ララのご飯は毎日しっかり5食分食べたいんだよ」

「2食余計ですわよ」

「因みにあと3食は新規開拓もしたい」

「1日8食はやり過ぎですわ」


 それからとりあえず朝の身支度を整えると、これからのことについて話す。


「今日はどうしましょうか」

「俺はどこにでもついていくぞ」

「僕は……特にないかな……。食材も結構あるし」


 ティエラとマーレは特にやりたいことがないらしい。

 なら、


「わたくし、大きなベッドが欲しいですわ」

「十分大きいのがあるのではないか?」

「ええ、わたくし1人でしたら十分ですわ。でも、昨日のように、フィーネ、ララ、ティエラ、マーレ。みんなのことを考えると、もう少し大きいのが欲しいのです」


 ベッドで寝ていた時は気づかなかったが、起きた後にティエラやマーレは少しベッドから落ちかかっていた。

 それはいけない。

 大事な家族が落ちるようなことは決して認められないのだ。


「なるほど、なら……またコカトリスを狩りに行かないといけないか?」

「そうですわね……ベッドの羽毛がもうちょっと欲しい感じではありますね」

「この辺りにいるのか?」

「それも含めて探しに行く。ということでいかがですか?」

「なるほど、それでいいぞ」

「僕もついていくよー」


 ティエラもマーレもそう言ってくれたので、わたくしたちの目的も決まった。


「では、わたくしたちも行きましょうか!」

「ああ」

「うん」


 ということで、わたくしたちもベッドを作るための素材探しに出ることになった。

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