第48話 もっと強く抱きしてもいい?
そして夜、結構遅い時間になってから、ララが家に帰ってきた。
「ただいま」
「おかえりなさいませ」
「おかえり」
「良く戻ったな」
「おかえり~!」
わたくしたちはリビングでのんびりしていて、ララが帰ってくるのが遅いので料理をこちらでするか話しているところだった。
ララはそんなわたくしたちの気配を察知したのか、荷物をおいてすぐに外に向かう。
「すぐに作る」
「あ、ララ」
「なに?」
彼女は足を止め、わたくしの方を振り返る。
「ララのお部屋が出来ましたわ。見てからでもいいのではないですか?」
「……ありがとう。でも、料理を待っている人がいるから。そっちを先にする」
「……わかりましたわ。何かお手伝いできることはありますか?」
「楽しみに待ってて、美味しい料理を待ってくれるのが最高のスパイス」
「作る側がその言葉を発するのは初めてですわ」
ということで、ララはすぐにエプロンを着てキッチンへと向かった。
「僕は食材渡してくるねー」
「よろしくお願いしますわ」
マーレはそう言ってララの後を追いかけた。
「それで、何かララが喜びそうな服ってある?」
「エプロンではダメなんですの?」
「うーん。やっぱりそうなるか……」
「何か贈り物を考えているんですの?」
「いつも料理を作ってくれてるからね〜。作って? ってララの性格上言ってこなさそうだし、もうこっちから作っていかないといけないっぽいから」
「それはそうですわね。わたくしの場合もそうでしたし」
「でしょー? でもまぁ……そんな感じか、ちょっと部屋に戻ってくるわ」
「出来たらお呼びしますわ」
「ありがとう」
と、フィーネは部屋に帰ってしまった。
それから、わたくしは残ったティエラの鼻をツンツンしたりモフモフして時間を潰す。
「出来たよー!」
と、のんびりとしていると、マーレが料理を大量に持って部屋に入ってくる。
「お待ちしておりましたわ!」
「腹が空いて腹と背中がくっつきそうだったぞ」
「その言葉あなたが知っているんですの?」
「? 普通にある言葉だぞ」
「そうなんですのね。と、フィーネを呼んで来ますわ」
「任せた」
ということで、わたくしはフィーネの部屋に向かう。
階段の下からわたくしはフィーネの名を呼ぶ。
「フィーネ! ご飯が出来ましたわ!」
「……」
「フィーネ! 聞こえていませんの!?」
「……」
いつもならこれですぐに返事が来るのだけれど、今日は全く返ってこない。
「何かあるのでしょうか……。ちょっと呼びにいきましょう」
ということで、わたくしは階段を上がり、フィーネの部屋に出る。
「……」
「フィーネ。ご飯ができましたわよ」
わたくしが部屋に入ると、彼女は机に向かって服を作っているところだった。
作っているのは恐らくララ用のエプロンみたいだ。
でも、それよりも、壁にとても綺麗だけれど、頑丈に作られているドレスが見つかった。
わたくしがそれを見つけると同時に、フィーネが振り返ってそれとわたくしの間に入った。
「見た!?」
「み、見た……とは、なにを……」
「この後ろにある服」
「ドレスのことでしょうか?」
「……あう。そっか……見られちゃったか」
フィーネはそう言ってがっくりと肩を落とす。
その仕草に、わたくしは申し訳ない気持ちになった。
「あの……申し訳ありません。拳で頭を殴って忘れますわ!」
わたくしは右の拳を固く握り、腕を振りかぶる。
「ちょっと待って!?」
ビタッ!
わたくしは拳をギリギリで止め、なんとか撃ち抜くことを止める。
「どうかしましたか?」
「そんなことする必要はないよ! あたしの部屋が出来るくらいに渡そうと思ってたんだけど、1日で完成するとは思ってなくって……。まぁ、いつか渡さないとって思ってたから」
フィーネはそう言って横にずれてわたくしがドレスを見るのを許してくれる。
「これ、クレアのために作ったんだけど、付与をどうするか迷っていて、それがちゃんと終ったら渡そうと思ってたんだけど……」
「わたくしが付与魔法は使えますわよ?」
「知ってる。だけど、プレゼントするものに自分で付与かけてなんて言えないじゃない」
フィーネはそう言ってちょっと恥ずかしそうにそっぽを向く。
その姿はとても可愛らしい、というか、その気持ちが本当に嬉しい。
というか、わたくしのために作ってくれたというだけでもう嬉しすぎる。
「そんなことないですわ!」
わたくしは彼女を抱きしめた。
「え? クレア!?」
「フィーネ! あなたの気持ちはとても嬉しいですわ! わたくしでは考えつかない素晴らしいデザインに、実用性もありそうな素敵なドレス。これを喜ばない人なんて誰もいないですわ!」
「ありがとう……」
フィーネはそう言って優しく抱きしめ返してくれる。
「でも、クレアの方がすごいわよ」
「? そんなことありませんわ」
「いや、この部屋……普通に作るの頼んだら1週間は絶対にかかるわよ。それを1日でとか信じられないから」
「そうでしょうか?」
「そうよ。それにあたしのお願いに全部答えてくれてるし。こんな素敵な部屋、普通にすごいから」
そう恥ずかしそうにしながらもフィーネが言ってくれるのが、わたくしには嬉しい。
もっと強く抱きしめたくなる。
「フィーネ。もっと強く抱きしめてもいいですか?」
「ダメよ!? これでも結構ギリギリなんだから!」
「うぅ……残念です」
「っていうかどうしてそんなに抱きつき癖があるの?」
「うーん。家族……ティエラとかマーレ……結構逃げられるけどシエロとかにも距離が近くて抱きしめるとモフモフで……」
「ああ……そういう……。シエロ?」
わたくしの説明に、フィーネがシエロの所に食いつく。
「ええ、シエロはティエラとマーレと同じわたくしの家族ですわ。ちょっと用事があるらしく、今は一緒にはおりません。わたくしも早く会いたいのですが……」
「そう……早く会えるといいわね」
「ええ、きっと会えますわ。というか、あのドレス、着てもかまいませんか?」
「……それはダメ! ちゃんと付与魔法をつけてからにしてちょうだい。仕事用のドレスで考えて作ってるからね」
「ありがとうございますわ!」
わたくしたちがそんなことをやっていると、ティエラの声がすぐそばで聞こえる。
「早く来い。来ないとマーレがこの部屋を倒しそうになるぞ」
「! すぐに行きますわ!」
「すぐいくわ」
ということで、わたくしたちはその話をして、ご飯を食べに行く。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
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