第39話 ララ視点 ポンコツドワーフ
わたしはララ。
料理人の修行でカレドニアの『土小人のかまど亭』に来ているドワーフ。
「ララさん! 宿舎の補修が終わりましたよ!」
「……もう?」
クレアさんはそう楽しそうにわたしに言ってくる。
わたしとしては、あの宿舎の補修は1週間はかかると思っていた。
それをたった1日で……?
「そうですわ! とりあえず、確認していただけませんか?」
「ちなみにもう使っていい?」
「ええ、問題ないと思いますわ」
「なら、他の人も呼んできていい? 結構みんなぐったりしてたから」
「もちろんですわ。かまいません」
「少しだけ待ってくれる?」
「ええ」
ということで、作りかけの料理をキリのいいところまでで止める。
すぐ近くでマーレがじっと料理を凝視しているけれど、仲間を助けることが先だ。
「ごめんね。すぐに戻ってくるから」
「……うん。待ってるから」
「つまみ食いはしないでね?」
「気を付けるよ」
目を逸らされながら答えられたけれど、これは大丈夫だろうか。
まぁ、また作る口実になるから、それはそれでいい。
それから、わたしは仲間が臨時で暮している宿に向かう。
メンバーはわたし、クレアさんとティエラだ。
マーレは料理を見ておくと言ってた。
臨時にしている宿。
と言っても、それは正直宿ではない。
土で盛られたかまくらのような物で、本当に土に囲まれているだけのものだ。
「あー……土……土はどこ……」
「酒で誤魔化すしかないよー」
「早く潜りたい……」
そんなかまくらの中にドワーフの仲間が20人ほどいる。
彼らはいつもの部屋が使えず、ここでぐったりとしている。
もしくはそれを忘れるように酒に浸っていて、今を忘れようとしているのだ。
「本当にドワーフの方々は自分の家でないとダメなんですのね」
「うん。基本的に地下で生活してるから、土に囲まれているか、ちゃんと自分の家がないとかなりポンコツになる」
「ポンコツって……」
「実際この有様、でも、あなたのお陰できっと元に戻ると思う」
わたしはクレアさんにそう言って、みんなに声をかける。
「みんな、宿舎の修理が終わった。もうもどってもいいって」
ピタッ。
ぐったりしていた者も、酒を浴びるように飲んでいた者も一斉に動きを止めてこちらを見る。
「ララ……それ、ほんと?」
「本当、もう住んでいいって」
「すぐに行くわよ!」
「あたしたちの家に戻ろう!」
ということで、ドワーフの仲間たちは我先にと宿舎に戻っていく。
「わたくしたちも後を追いましょう」
「うん」
「わかった」
ということで、宿舎に戻ると、仲間たちがこれ以上ないくらいにはしゃいでいた。
「最高だよ! やっぱり地下こそ最高だよね!」
「ここが! こここそが我々の家なんだ!」
「今日は宴だ! 酒も食い物も全部使い切るよ!」
「まずは荷物を持ってこよう! それから今夜はちゃんと家で休むんだ!」
などなど仲間たちはおもいおもいのことを口にしていた。
でも、食料庫はここ数日の怠惰な生活で使い切ってしまった。
先ほどマーレがとってきた食材をあげたいと思うけど、流石にそれは許してくれないだろう。
ここはわたしが買って……。
「ララさん。食料はまだあるのですか?」
「……使い切ってしまっている」
「なら、先ほどいっぱいとった食材を使ってくださいな。それともララさんが作った料理を食べてもらうのがいいでしょうか?」
「いいの?」
「ええ、さきほどの様子から結構大変だったようですし、ぜひ使ってください」
「分かった」
わたしたちはクレアさんの家に戻り、食材を持って宿舎に戻る。
「……」
マーレがものすごく悲しそうな目をしていたけれど、クレアさんが押さえてくれた。
彼女はとても優しい。
それに、すごい建築技術を持っている。
なんですごい人が……と思うけれど、詮索はしないようにする。
わたしもされたくないし。
「みんな、ちょっといい?」
「どうする!? 食材がないぞ!?」
「金もほとんど使っちまった! 手工業ギルドに出してる依頼をキャンセルしたら返ってくるか!?」
「今から出店でも開いて稼ぐかね!?」
わたしの声はみんなの叫び声でかき消されてしまう。
「バウッ!」
「「「!?」」」
その時、ティエラが吠えて、皆の動きが止まった。
彼はわたしを見ると、さっさと話せと言っているようだった。
「ありがとう。皆、ここにいるクレアさんが、完成祝いに食材をくれた。それを使って料理を作ろう」
「本当か!?」
「ありがとう! 最高だよあんた!」
「しかもこれどれもレアな食材じゃないか! いいのかい!?」
「ええ、ぜひ食べてください。困った時はお互い様ですわ」
クレアさんがそう言って本当に食材をかなりの量分けてくれた。
「ではわたくしたちはこれで戻りますわね。と、依頼書に完了のサインをいただいてもよろしいですか?」
「うん。もらってくる」
わたしはサインをもらってきて彼女に渡す。
「ありがとうございます。それではわたくしたちはこれで」
「ねえ」
「はい?」
わたしに背を向けていたクレアさんを呼び止める。
「わたしもあなたたちと一緒に食べてもいい?」
「かまいませんが、よろしいのですか?」
「うん。わたしはあなたたちと居たい」
とっても優しくて、素晴らしいことをしてくれた彼女たちに、わたしができることをしたい。
「もちろんですわ。わたくしもララさんと一緒に食べられることは楽しいですわ」
彼女の笑顔はわたしが羨ましくなるくらい、ひまわりのように明るく素敵な笑顔だった。
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