第23話 集中してると忘れますわ

「やっと成功しましたわ!」


 わたくしは成功した小箱を掲げる。


「流石クレアだ! そのことを祝って今日は祝日にしよう!」

「それは話が大きすぎますわ! でも、出来て良かったです」


 小箱の中身がちょっとだけ拡張されている。

 指の第一関節くらいまで入る中身が、そこから1㎝追加で入るくらいだけど。


「うんうん。時間もいいし、一度戻らないか?」

「そうですわね。マーレ。魚は捕れました?」

「下を見て」

「? わあ!?」


 わたくしが下を見ると、そこには魚だけでなくクラゲやイカタコ貝等海産物がこれでもかと詰め込まれていた。


「すごいですわね……いつの間に」

「クレアが集中していたからだよ。海……っていうか、天候も大分荒れてるね」

「そうなんですの?」


 海の中なので、詳しいことはわからない。


 だけど、マーレは確信しているのか頷く。


「うん。だから、このまま帰ろうか」

「え? この魔法のまま帰れるんですの?」

「この魔法を使ったままはやらない方がいいんだけどね。見つかると面倒だし。ただこの天気だから、誰も気づいてないだろうし、いいかなって」


 ということで、マーレはわたくしたちが入っている水球を操作する。

 水球がゆっくりと上に上がっていく。


 ザバァ!


 海上に出ると、暴風雨で前が見えなかった。


「これは……すごいですわね。道分かるかしら……」

「それは大丈夫。ちゃんと家には戻れるから」


 ということで、少し待っているとある場所で止まった。

 ただ、足元の方では光が多数見える。


「ここが家ですの? 周囲には家の明かりが見えますが……」


 わたくしたちの家の周囲には雑草などしかない。

 なので、この景色はおかしいのだけれど……。


「捕った魚介を調理して欲しくてさ。ドワーフのお店に寄りたいんだ」

「なるほど、そうでしたわね」


 ということで、わたくしはマーレと一緒に降りる。

 マーレが魔法でなんとかしてくれるので、濡れることもない。


 店にはこんな天候なのに、半分くらいは入っていた。


「いらっしゃいませ」


 出迎えてくれたのはいつもの静かなドワーフの子だ。


「海産物を捕ってきたので、調理して欲しいのですが」

「本当?」

「ええ」

「どこ?」


 ドワーフの子は首をかしげるけれど、かなり可愛い。


「外にありますが、どこにおけばいいのですか?」

「裏に来てもらっていい?」

「はい。構いませんわ」

「こっち」


 そう言って彼女は表から雨の降っている外に出て行く。


「待ってください! 雨が!」


 そう言うのも関係ないというように外に出て行く。


「そんなに食材に興味があるのかしら?」

「そうなんじゃない? 話が合いそう」

「ですわね。それでは、わたくしたちも」


 ということで、彼女の後を追って食材を渡す。


「ふぉぉぉ……こんなにも……すごい」


 静かな子だと思っていたけれど、食材を前に目が輝いている。

 雨でずぶ濡れなのも全く気にしていない。


「では、お願いします。また後で……1時間後辺りに食べに来たらいいでしょうか?」

「うん! いっぱい作っておく!」

「よろしくお願いしますわ」

「美味しいの楽しみに待ってるよ!」


 そう言って、わたくしたちは『土小人のかまど亭』を後にする。


「では、後は家でのんびり家具作りや付与魔法の練習でもしていましょうか」

「だね。だけどこの雨……あとどれくらい続くのかな」

「そんなに続きますの?」

「うーん。多分だけど、3,4日はずっとこのままな気がするよ」

「なんと……それは練習のし甲斐がいがありますわ!」


 仕事を受ける前にそっちの方も伸ばすことをしてもいいかもしれない。

 というか、付与魔法で防水の効果とかないのでしょうか。


 そんなことを考えながら、わたくしたちは家に戻る。




 マーレの言う通り、その大雨は3日も降り続いた。


 そのお陰で付与魔法について進めることができた。

 だけれど、今は久しぶりの晴れが素晴らしい。


「ルーシーさんの所に行きましょうか。家もあって、練習ができるとちょっと熱中してしまって忘れていましたが」

「そうだな。そろそろ行ってもいいと思う」

「僕は待ってるよー」

「わかりましたわ」

「俺は行く」


 ということで、わたくしとティエラだけで行くことになった。


「いらっしゃいませ。お久しぶりですね」

「ええ、数日すごい雨でしたからね。家は大丈夫でしたか?」

「ふふ、問題はありません。必要になった時はお願いしますね?」

「お任せくださいな。それで、以前お話されていたお仕事についてなのですが……」


 わたくしがそう言うと、彼女は目を輝かせて身を乗り出してくる。


「やってくださるんですか!?」

「そのつもりですが……」

「実を言うとここ数日の雨で結構な被害がありまして、多くの依頼が来ているんですよ。依頼書は……こちらになります」


 そう言ってルーシーさんは十数枚の紙を出してきた。


「こんなにあるんですの?」

「ええ、すごい雨でしたから、どれか興味のあるものはありますか?」

「そうですわねぇ」


 わたくしはパラパラと紙をめくると、そこに見知った名前を見つけた。


 『森妖精の羽衣』


「これは……」

「ああ、それは倉庫の修理……いえ、新築依頼ですね。お受けしますか?」

「受けますわ!」

「いいんですか?」

「はい。とてもお世話になりましたの。ですので、できるならお返ししたいですわ」

「ありがとうございます。では手続きをしますね」

「ええ」


 ということで、依頼を受けたわたくしたちは『森妖精の羽衣』に向かう。


「クレアは優しいのだな。内容もほとんど読まずに受けるなんて」

「あの優しい方がいるお店ですので、変な内容はないと思いますわ」

「なるほどな。なら後はいい仕事をするだけだ」

「ですわ」


 お店まですぐそこ、という所でその店から一人のエルフが飛び出てくる。


「ふざけないで! そんなの勝手に決めて! 認められる訳ないでしょ!」


 そう言ってわたくしに優しくしてくれたエルフの彼女は、涙を浮かべながらどこかに走り去ってしまった。


「大丈夫か?」

「わからなくなりましたわ……」

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