第15話 森妖精の羽衣

 翌日。


 わたくしたちは宿屋の方に聞いた服屋、『森妖精の羽衣』に来ていた。


「本当に必要ですの?」

「クレア。日差しは気をつけなければならない。外にいる時はちゃんとそれようの装備をつけるべきだ」


 そうティエラが強く言うので、わたくしはそのための装備を買いに来ていたのだ。

 お金は要相談だ。


「失礼しまーす」

「いらっしゃーい」


 店の中に入ると、そこには気だるげな表情をしたエルフがやる気のない返事を返してくる。

 彼女は綺麗な顔立ちだけれど、ほお杖をつき、かなりぼんやりとしていた。

 ただ、着ている服はとても綺麗で、庶民の服ではあるけれど、とても仕立てがいい物だった。


「あの、すみません、お聞きしてもよろしいでしょうか」

「え……ああ、いいけど……ちょっと従魔は入れないでよ。服に毛が付いちゃうでしょ?」

「申し訳ございませんわ。ティエラ、マーレ。少し外に出ていていただいてもよろしいかしら?」

「む、俺は抜け毛などないぞ。だから服に……「はいはい、ティエラ。僕たちは出ているよ」


 ティエラが何か言いかけたけれど、マーレがティエラを抱えて外に出て行った。


「え……今喋ってた……?」

「それで、相談があるのですが、よろしいでしょうか?」

「え、ええ……いいけれど……貴族様が着られるような服はおいてないわよ?」

「わたくしは貴族ではありませんので」

「そうなの? ならこのあたしが作った服とかどう? あんた綺麗だし似合うと思うわよ」


 彼女がそう言って見せてくるのは、確かに綺麗な服だった。

 シンプルな白いワンピースだったけれど、随所に細かな衣装が施されている。


「確かに綺麗だと思いますわ」

「ほんとう!? あんた見る目あるわ! 他の奴らと来たら……」


 それから彼女は服の良さをこれでもかと話してくれる。


「あの……すみません。確かに素敵な服だとは思うのですが、今は違う用事で来ていまして……」

「あれ? そうなの? じゃあ何が欲しいの?」

「外で草刈りをするので、その作業に使えそうなのが欲しいのですわ」

「……そう。それならそこにある奴ね」


 そう言われて指をさされた場所には、服や帽子、手袋なんかも置かれていた。


「これはあなたが作っていたんですの?」

「そうよ。そう言われて仕方なくね。物はいいから、好きなのを選びなさい」

「では失礼して……」


 わたくしはそこにある物をみて、適当に手に取る。


「試着もいいわよ」

「ありがとうございますわ」


 ということで、わたくしはそれを被ってみる。


「これ、いい帽子ですわね」

「麦わら帽子よ。とても似合っているわ。それに、草を刈るなら手袋は必須ね。後は鎌とかだけど、うちでは扱ってないわよ」

「それはあるので問題ありません。手袋は……これにしますわ」


 わたくしはそう言って、麦わら帽子と手袋を着けてお会計をする。

 ドレスに麦わら帽子が優雅がかどうかについては一度議論が必要かもしれないが。


「ありがとうございます。大切に使わせていただきますわ」

「適当に使って使えなくなったらまた買いに来てちょうだい」

「ふふ、そうですわね」


 割と本音で話すエルフの店員さんと別れ、わたくしたちは土地に向かいました。



「それでは早速草刈りですわ!」

「うん。道具は何がいる?」

「鎌が必要と聞きましたわ」

「分かった。『鉄鎌作製クリエイト・アイアンサイス』」


 ティエラがそう言って、鉄の鎌を出してくれた。


「それでは早速刈って行きますわよ! 『身体強化ボディ・ストレングス』!」


 自身の身体に強化魔法をかけ、わたくしは草をこれでもかと刈っていく。


「すごいぞクレア! 俺も手伝う!」

「え? 手伝って下さるんですの?」

「当然だ! それに、鎌だけだと雑草の根は取り除けないからな。俺が掘り返す」


 そう言ってティエラは犬のように地面を堀り、根っこを掘り出していく。


「マーレ。俺が掘り返した根っこを集めるくらい手伝ってくれ」

「えーいいよ」


 マーレはそう言って根っこを集めてくれる。

 それを山の麓の方にまとめて捨ててくれた。


 わたくしが草を刈り、ティエラが根を堀り、マーレがそれを集めるという連携プレイだ。


 それにしても……木まで生えているとは……。


「木は後回しにしますか」

「だね。まずは草をやっていくといいよ」

「わかりましたわ。マーレにも手伝わせてしまって申し訳ありません」

「そんなことないよ。たまには動かないとね。それに、身体を動かした方がその後のご飯も美味しくなるよ」

「なるほどですわ」


 それから、草をガンガン刈っていき、地面はあっという間にきれいになった。


「ふぅ、草はこれくらいですわね。にしても……結構広いですわね」


 土地はここくらい、ということで教えられていたけれど、場所が場所だからか結構広かった。

 異世界風に言うと中学校のプールくらいだろうか。


「これなら好きに作れそうだね。楽しみだよ」

「ですわね。後は……あの木を掘り起こすのもいいと思うのですが……。こうするのが速いですわね!」


 わたくしは木を抱きしめ、思いっきり引っ張る。


「ですわぁ!」


 ぼごっ!


「え? クレア?」

「すごい! 流石クレアだ!」

「ですわぁー!」


 わたくしはさらに力を入れて、木を引っこ抜いた。


「ふぅ、強化魔法すごいですわね」

「それだけじゃないと思うけど……」

「いや、クレアがすごいから出来たんだよ!」

「ふふふ、ありがとうございますわ。それと、早速わたくしたちの家を作って行きますわよ!」

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