第8話

「お前、死ぬならもういらないんだろ。

その命も、未来も」










またもや断定的な男の口調。

疑問ではない口調は、なぜか確信をもって放たれているとわかる。







”私”は答えない。

ただ、虚空を眺める。


頷きもしない。目を合わせない。言葉を発しない。









雲が晴れた。

男の顔がはっきりと照らし出される。








精悍な顔つきに、華奢に見える体つき。


だが、華奢に見えるだけで、しっかりと筋肉がついているのがわかる。









「いらねぇなら、俺がもらっても文句ねぇな」










勝手に1人で話を進めていく男。









もう立ちあがる気力も体力もない私は、男に腕を引かれ、横抱きに抱え上げられても動かなかった。







男に抱き上げられたまま、

来た道を戻っていく。








この森は、帰れないことで有名なはずだが、男は迷うことなく進んでいた。









私は、足も腕も、全身をだらりとさせたまま、されるがまま。



ゆっくり、目を閉じた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る