【Snow Feather】。

【𝓐……】よりはランク下がりだが。高級には入る。

三嶋の飲食店は片手にはあまり両手には足らず。

だが夜に特化した中では幅広い。

高級クラブからキャバクラ。その中間。


【Snow Feather】は企業の部長、課長クラスがメインターゲットと聞いたけれど。



「アポイントなしで花様、お連れ様、ご来店。どういう事でしょうかしら、麗さま?」

「あらまあ、普段からきちんとなさっていらっしゃればよろしいのでは?備えあれば憂いなしと申しましてよ?彩織さおりママ?」

「…とりあえず特別室へ」


【Snow Feather】のバックヤード。

【𝓐……】のときは、正面来店したが。

まあ、麗さん連れてるからね。


ここのママの彩織さんもさすがママと言わせるくらいの綺麗な格好をしているけれど。


麗さんはあからさまに高級クラブママそのもの体現って感じにしてくれてるし。

豪奢ごうしゃ極まれりって感じの姿だから。

正面来店すれば、お客様も通なら誰だか分かっちゃうしね。

目立ち過ぎは良くないって事でバックヤードから。

アポ無しって言っても向かう車内で麗さんが来店しますよって事実だけ連絡してたけど。

白雪しらゆき花乃かのを連れてる場合、当日は【アポ無し】分類らしい。


バチバチ火花散ってるやり取り。


バックヤードの黒服さん、ボーイさん、ベテランお姉さん達、ハラハラしてるけど。


…まあ、以外の視線も感じるけどね。


“あの子?”

“みたいよ?…初めて見たわ。生意気に男二人連れてる”

“……ふーん。なんか派手なのもいるけど…誰?”

“なんのようかしら、面倒くさい。私らには関係ないでしょ?”


オンナの耳のワルイところは吐息のような囁きでも悪口を聞き取るところかしら。


三嶋翔の店場所。未だ三嶋に関しての情報の詳細は幹部以外には秘され持ち店の女達にも未公開の今は。

三嶋翔の店だと女達は思っている、場所。


でも、もう、違う場所。


「そうね。ここは空気が悪いわ?一緒の空気を吸いたくもない、薄ら毛の生えた若鳥、いえバカ鳥かしら?が影の隅でピーチクパーチク、うるさい。

オーナーよりもはるか尊い立場の方に対する礼儀をもちろん沙織さんはおしえているでしょうから?ジロジロ、グチグチ、バカみたいに無遠慮なのは新人さんかしら?確かここは体験入店なんかはやってもいないハイクラス店ですものね。口の聞き方も知らないようなド素人はいないはずだけど?」


麗さん。

あの……。圧が……。

言葉が。


でも、こうしたとき、私がしなければならないことは。ゆったり微笑わらい。

何もせず、言わない事。


「水清ければ魚住まず。でも清くしていても、落ち葉が腐れば濁って羽虫も湧くのよ。私達池の管理者の悲哀なんかお構いなしね。ソコの四人!

私は【𝓐……】のうらら。Mグループ八店統括リーダー。それすらも知らないような薄らビナが生意気な口を利くな!」


口調厳しく、まさにナイフのように。

発せられる鋭い【上位】の圧が、まともに対象者に向けてはなたれる。


「ひっ!」

「ひい……っ」


悲鳴を上げたのは実は新人に見えてそうではないヒトたちか。二名ほど。


「八店統括リーダーとして言わせてもらうわ。ソコの四人。明日から出勤しなくていいわよ。今日までのお給料は私のポケットマネーから出してあげるわ、特別に。彩織さんが可哀想だから」

「……そんなっ!」

「この店の人間でもないのに!横暴!」


反論し始めたのは本当の新人か。ひいてはいるけど反抗できるのは怖さを知らない新人が割と多い。


実は冒頭のキャットファイトめいたもの、ママ二人のお芝居なんだけど。


あ~、彩織さん、ちょっと顔色悪い。


麗さんって実は結構な実力者だから。

店の店格からすれば物申す芝居だけでも緊張なのに。


でもね、うみが出るときは突然なのよ。


「と、が申しておりますが、いかが致しますか、槌谷様」

「馬鹿はどこにでもおります」


槌谷、いえ、穣の声は絶対零度に冷えていて。


「花様、もしよろしければ日野様と特別室へ」

「待つのは大丈夫」

「ありがとう、平気だよ」

「では手早く。そこのあなた」


穣は。ぶるぶる震えている二人のうちの一人に話しかける。


「無駄なたわごとは良いから答えなさい。あなたがた以外の生意気な新人二人は入ってどのくらい?」

「……です」

「あ?」

「…三ヶ月…で…すっ…」


「………意図的に教えてないな。三嶋の系列店にいて八店統括を知らないのはあり得ない。入店初期教育で最初に情報伝達があるはずだ。それは絶対に」

「…っ!」

「別に聞こう。申し訳無い、その隅の、蒼いドレスの…」

「…はい、どのようなことでもお聞きくださいませ」


四人とは別に立っていたキャストが頭を下げる。


「三ヶ月経つものが八店統括を知らないというのは」

「…有り得ません。最初に入店した際に説明がありますし。八店を意識するように言われますし。特に

【𝓐……】様を筆頭に、八店中でもハイランクに位置する店では有り得ません、本当は」

「……ありがとう」

「いえ」

「……少し詳しく聞きたいので、四人。一緒に特別室へ。黒服さん、動いてください」

「はい、畏まりました」

「…や、やだ!」

「いやぁ!」


今さらのように新人は騒ぐ。でも穣に最初に問を受けた女を含む二人は観念したようで。


いつの間にか、他のキャスト達は散ってゆき。

特別室へ移動するメンバーだけが残る。


我が身可愛し。

夜の世界は薄情だ。


だがそれが自分を救う手段の大事なひとつであることを納得できるものだけが、生き抜いていける。


無情だけれど──。


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