第8話 太陽斬

「でやあああっ!」


 牛鬼に接近し、袈裟斬り。

 牛鬼の蜘蛛の胴体に斬りつける。


 ギャアアアア!


 斬撃を喰らい、悲鳴を上げ、牛鬼の突進が止まる。


 ちょうど横断歩道のど真ん中。

 人はもちろん、車もない。


 直径10メートルくらいのバトルフィールド。


 実際に斬りつけてみるまでは、俺はこのヒーローブレスの力が信じ切れていなかったが。

 今の手応えで確信した。


 戦える。

 ……護れる!


 牛鬼と3メートルくらいの距離を置き、対峙する俺。

 突如俺に攻撃され、その鬼の顔で俺を憎々し気にめ付ける。


 ここからどうするか……?

 俺がそう、正眼の構えで向き合いながら。

 牛鬼の出方を伺いながら頭の片隅で考えたとき。


 熱を操る特殊能力。

 五行思想・火。


 この2つの言葉が浮かんだんだ。


 この姿は、火炎を操ることができる。

 ……そういうこったろ?


 だから


「喰らえッ!」


 剣先を下ろし、右手を牛鬼に向け。

 強く、火炎放射をイメージしつつ声を発した。


 同時に、牛鬼が大きく息を吸い込み、その口から何かを吐こうとする。

 けれどもその前に


 俺の右手からまるで火炎放射器そのものな炎が噴き出し、牛鬼を飲み込んだんだ。


 グアアアアアア!


 牛鬼の悲鳴。

 いける……!


 勝てるぞ……!


 それを予感し、高揚する俺の心。


 そこに


『変身後2分経過しました。残り1分です。決着をお急ぎください』


 ……突如。

 俺の脳裏に、謎のアナウンスが響いたんだ。


 ……え?




 2分経過で、残り1分。

 この力、3分しか使えないのか……!


 まずい。

 残り1分で倒さなきゃならない。


 でも、チンタラやってたら時間切れはあり得る。

 なるべく短時間……できれば1撃で決めなきゃいけないだろ。


 ……どうすればいい?


 牛鬼は火だるまになって暴れている。

 近づいて滅多切りにするやり方をすぐ思いつくけど、それで仕留め切れると言い切る自信が俺には無かった。


 熱で剣の切断力を上げて、真っ二つに出来ないか……?


 次にそれを思いついたが、今度はあの暴れる牛鬼に、致命傷になる一撃を上手く入れられる自信が無い。

 熱操作のせいで、斬撃に意識が向かない気がしたせいだ。

 精度が落ちると思うんだよな。斬撃の。


 ……じゃあ、どうするんだ?


 熱……


 そこで、気づいた。

 このヒーローブレスの特殊能力は熱操作。

 火炎操作じゃないんだ。

 五行思想が火だから、意識がそっちに向きがちだけど。


 だから……


 俺は地面に……道路の、アスファルトに手を当てた。

 そして叫ぶ


「凍れッ!」


 その叫びと同時に、アスファルトに凍結した水蒸気が氷結し。

 それが暴れまくる牛鬼に超スピードで迫っていく。


 ……そう。

 熱を操作できるんだから、冷気だって扱えるんだよ!

 冷気操作だって熱操作なんだッ!


 その凍結の伝播が牛鬼の居る場所に到達したとき。


 ギャッ!


 牛鬼の動きが止まった。

 牛鬼が半ば、氷漬けになったから。


 動けなくなり、牛鬼は脱出しようと藻掻もがいている。


 ……よし。


 俺は剣を大上段に構える。

 氷漬けの牛鬼を、一刀両断可能な超高熱……!


 百……千……万……!


 超高熱をイメージするため、数字を頭の中で想像しつつ。

 万という数字から、太陽を思い浮かべた。

 最も熱いもののイメージとして。


 そして俺は地を蹴り、間合いを詰め……

 大上段に構えた剣を、牛鬼目掛けて振り下ろしたんだ。


 こう、力強く叫びながら


「太陽斬ッ!」


 俺の斬撃は、動けない牛鬼にまるで熱したナイフでバターを切るように食い込み。

 氷ごと、その身体を2つに分けた。


 真っ向斬り下ろし。


 俺の剣は確か最初は長剣クラスの剣身だったはずだけど。

 この「太陽斬」を繰り出したとき。


 何故か、剣身2メートル超……大剣クラスになっていた。


 2つになった牛鬼の身体は動きを止め。

 激しく炎を上げて、燃えて、消えていく。


 その炎の明かりに照らされながら、俺は激しく高揚していた。


 ……高揚していたんだ。


 ヒーローブレス……

 すごいな……コレ。

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