仕組まれた罠

「まあ、あやめちゃん。ご無沙汰やねぇ、いらっしゃい」


艶やかな藤色の着物を着たおばさまは、にこやかな笑顔を浮かべで私を出迎えてくれた。厳格そうな見た目だけれど、凛とした佇まいは上品で、同じ女としても憧れるものがある。


「すみません、今日は私もお邪魔させていただいて」

「隣家のよしみだから構わんよ。せっかくだから、婚約のお祝いに我が家からも何か君に贈り物をしたいと思っていたところだ。椿と一緒に選ぶといい」


高羽のおじさまは、口髭を生やした紳士的な方。恰幅がよく、いつもどっしりと構えた頼りがいのあるお父さんという感じ。娘のこともとても可愛がっていて、欲しいものは何でも買ってくれると以前椿が言っていた。


「こちらが、行商のサンディさん。お父様がつい最近お仕事で知り合ったばかりの方よ」

「ハジメマシテ、水無月さん」

「初めまして、サンディさん。水無月あやめと申します。今日はよろしくお願いします」


私が頭を下げると、にこにこ笑って「こちらこそ」と片言の日本語で返してくれた。


「今日お持ちしたのは、こちらになります」


サンディさんはそう言って立ち上がると、隣の部屋に続く襖をスッと開けてくれた。私たちも立ち上がって覗いてみると、指輪やネックレス、イヤリングといった宝飾品から、ティーカップ、何をモチーフにしているのかわからないけど高級そうな置物、色彩豊かな花が描かれた絵画などいろんな品が並んでいる。


「私らは来客があるから、ちょっと相手してくるわな。二人はゆっくり見たらええよ。また、あとで顔出すから」


私たちをにこやかに見つめるおばさまに「ありがとうございます」と返し、礼を言う。それから、おばさまは椿に向き直って「椿、あとでお茶持っていかせるから、あやめちゃんのことよろしく頼んだよ」と言っていた。


「……じゃあ、また後でな」


椿も「はい、お母様」とにこにこした笑顔を返すと、部屋を出て行く両親の背中に手を振って見送った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る