さまざまな人々の臨終から「死」を考える試み

#7 【作家・劇作家・思想家】安倍公房（68歳没）の臨終

### 導入

　安倍公房（1924-1993）は、日本の著名な作家、劇作家、そして思想家であり、20世紀の日本文学において重要な位置を占めています。彼の作品は、存在主義や不条理をテーマにしたものが多く、特に『砂の女』や『箱男』などは国際的にも評価されています。彼の死は、文学界における一つの時代の終焉を意味し、彼の思想や作品に対する再評価を促す契機となりました。

### 本論

#### a) 臨終の場面

　1992年 (平成4年) 12月25日深夜、執筆中に脳内出血による意識障害を起こし、東海大学病院に入院しました。1993年 (平成5年) 1月16日には経過良好で退院しましたが、自宅療養中にインフルエンザを発症し、1月20日に多摩市の日本医科大学多摩永山病院に入院します。1月22日には解熱し一時的に恢復したものの、就寝中の同日7時1分、急性心不全により死去。1992年12月に執筆していた小説『さまざまな父』が未完のまま絶筆となりました。なお、入院時に愛人であり女優の山口果林宅より搬出されたため、スキャンダル扱いとされましたが、最期は家族に看取られました。

#### b) 死生観・宗教観の分析

　安倍公房の死生観は、彼の作品や思想に深く根ざしています。彼は生涯を通じて、人間の存在や死の意味について考察を重ねてきました。特に、彼の作品には「死」というテーマが頻繁に登場し、存在の不条理や孤独感が描かれています。

　晩年の彼の態度は、彼の死生観を反映していると考えられます。彼は、死を恐れるのではなく、むしろ受け入れる姿勢を示していました。これは、彼の作品に見られる「不条理」を受け入れる姿勢と一致しています。彼の死生観は、時代背景や個人的な経験、特に戦争や社会の変化に影響を受けており、彼の文学的探求の根底にあるものです。

#### c) 特徴的なエピソード

　安倍公房の臨終に関する特筆すべきエピソードとして、彼が生前に語った「死に対する準備」が挙げられます。彼は、死を迎えるにあたって、特に何かを成し遂げる必要はないと考えていました。彼の作品の中には、死をテーマにしたものが多く、彼自身がそのテーマを深く理解していたことが伺えます。

　また、彼の生涯を通じての象徴的なエピソードとして、彼が戦後の混乱期に文学を通じて人々に希望を与えようとした姿勢が挙げられます。彼の作品は、死や存在の不条理を描きながらも、同時に人間の尊厳や希望を探求するものでした。

#### d) 歴史的・文化的コンテキスト

　安倍公房の死は、当時の日本社会における文学や思想の変遷を象徴するものでした。彼の死は、戦後日本文学の一つの時代の終焉を意味し、彼の作品や思想は後世に大きな影響を与えました。彼の死を受けて、多くの文学者や批評家が彼の作品を再評価し、彼の死生観や宗教観についての議論が活発になりました。

　当時の日本社会は、経済成長とともに物質主義が台頭していましたが、安倍公房の作品は、そうした社会に対する批判的な視点を提供していました。彼の死は、文学界における一つの転機であり、彼の思想は今なお多くの人々に影響を与え続けています。

### 結論

　安倍公房の死は、彼の生涯と作品における死生観や宗教観を深く考察する契機となりました。彼の最期の言葉や態度は、彼が生涯を通じて探求してきたテーマを反映しており、彼の文学的遺産は今なお多くの人々に影響を与えています。安倍公房の死は、単なる一人の作家の終焉ではなく、20世紀の日本文学における重要な出来事であり、彼の思想は後世にわたって語り継がれることでしょう。

年表

幼少期と教育

1924年3月7日: 東京都に生まれる。父は医師、母は教師で、家庭は教育熱心だった。

1935年: 小学校を卒業し、東京の中学校に進学。文学や音楽に興味を持ち始める。

1941年: 高等学校に進学。詩や短編小説を執筆し始める。

戦争とその後

1943年: 日本陸軍に入隊。戦争の影響を受け、文学への思索が深まる。

1945年: 終戦。戦後の混乱の中で、文学活動を本格化させる。

文学活動の開始

1946年: 初めての短編小説「青い花」を発表。文壇に登場。

1950年: 小説「箱男」を発表。存在主義的なテーマが評価される。

教育と職歴

1952年: 東京大学文学部に入学。哲学や文学を学ぶ。

1954年: 大学を卒業。以後、作家活動に専念。

主要な業績

1955年: 戯曲「友達」を発表。演劇界でも注目を集める。

1964年: 小説「砂の女」が発表され、国際的に評価される。

1966年: 「砂の女」が映画化され、広く知られるようになる。

受賞歴

1968年: 芸術選奨文部大臣賞を受賞。

1973年: 文化功労者に選ばれる。

家族と私生活

1950年: 結婚。妻との間に子供が生まれる。

1970年: 離婚。私生活の変化が創作に影響を与える。

重要な旅行

1970年: ヨーロッパを旅行し、現地の文化や文学に触れる。特にフランスの影響を受ける。

健康上の出来事

1980年代: 健康状態が悪化し、執筆活動に影響が出る。

社会的活動

1985年: 環境問題に関するシンポジウムに参加。社会的な問題にも関心を持つ。

晩年と死去

1993年1月22日: 東京都で死去。享年68歳。死因は急性心不全とされる。