#53【おえかき】ファンクラブ用のスタンプつくるよ!【月雪フロル / 電脳ファンタジア】
〈なんか……思ってたよりガチでツッコミどころないな〉
〈絵師やってもそこそこ伸びそうだなフロル〉
〈もっと画伯を期待してた〉
〈あんなに寂しそうにひたすら落描きを繰り返すママを見て何とも思わんの?〉
「だまらっしゃい。私そこそこ描けますよって最初に言ったじゃないですか」
その日のお絵描き配信は、予定通りのスタンプはあっさり描き終えた。デフォルメ化した自分自身を描きすぎて、だんだんよくわからなくなってきたけど。
こちとら元々小器用さが取り柄で、そこにママとの付き合いの長さが乗っかっている。これまでにも二人でいるときに教わったりなんかもしていたから、私の絵はママ譲りともいえる。それでも自己評価は「まあ人よりは描ける」だったんだけど、コメントを見るにママの絵を見すぎて感覚がおかしくなっているかもしれない。
そんなママは強く要望してこの配信に参入してくると、私が自分でスタンプを描く横であれこれ落描きを続けていた。こちらとしては、配信に迎えて絵チャにしただけでも譲歩を認めてほしいところだ。
「というか、なんか知らないキャラばっかりだけど……」
『デザインの練習だよ。今後はそういう依頼も増えると思って、即興で個性つけて作ってるの』
「私はママともず先輩しか知らないけど、その速度で描けるものじゃないことはわかるよ」
〈デザインから!?〉
〈速すぎるだろ……〉
〈これがあれだけ依頼受けて暇とか言ってる原因か〉
〈描線に迷いがなさすぎる〉
〈やっぱ天才は天才なんだよなぁ〉
本当に筆が速い。ややデフォルメ気味な顔だけではあるけど、流れるように見たこともないキャラがポンポンと現れる。そのどれもに個性があるのがまた。
……そのまま好きにさせて、ついでに余った時間で私も適当に描いていたら。ママは急にタッチを変えて、本格的な一枚絵のようなラフを作り出した。
私によく似ていて、だけどちゃんと違う。ストレートロングの私に対してパーマ気味にふわふわしているこれは、もしかして。
『前に言ってた、フロルの妹』
「こんな戯れ感覚でこの完成度……」
『これは元々頭の中で考えてたけどね』
色さえ塗れば今にも動き出しそうで、イラストレーターの底力を見た気分だ。デザインもこれ以上ないと思えるもので、一応知っているからか雰囲気はどことなく詩らしさも感じさせる。
正直なところをいうと私こそが誰よりも感謝の念が絶えないのだけど、この場では素知らぬ振りを貫いた。これを印象に残らせ続けては、今後どんな扱いをされるかわからないから。
イラストスタンプはできたから、続けて文字スタンプだ。言葉単位のものと一文字ずつのものが用意されることが多い。
「草」や「かわいい」(自分に使われるであろうスタンプにこういうのを入れるのは恥ずかしいけど、さっき要望を取ったらかなり多くて逆らえなかった)などのように汎用性が高いものと、「フロル」や「アルラウネ」あたりの文脈で使いうるもの。ただし、「ゲーム」なんかはコントローラーのイラストとしてさっき描いたから、そういう被るのは除外だ。
あとはさっき描いた自分のデフォルメに合わせる文字を数パターン描いたり……。
「それと、私を代表するようなセリフ……といっても、なんだろ」
『これまでの名言だと、「手が滑っちゃったー☆」とか「ライバーで遊ぶ」、「ボタン三つ」とか「食べないで」あたり?』
「迷うの方のメイゲンばっかりだし、汎用性ないな……」
『自分で言うんだね。まあ、適宜追加していけばいいんじゃない?』
そうしようかな。「ボタン三つ」については私に向けて使われることはないだろうから作るメリットがないし、「食べないで」は怯える表情のスタンプはさっき描いた。「ライバー」「で」「遊ぶ」を三分割で描いておこうかな。こういう自分の発言を自分でネタにする行動はそこそこ恥ずかしいけど、そういうところは覚悟の上だ。
それに加えて「手が滑っちゃった☆」に相当するてへぺろ顔をコメント欄に要望されたから描いていると……ママはまた、今度は少し趣向の異なるお絵描きを始めた。
「……あ、こないだの」
『あの回面白かったからね』
〈クラスメイトだ!〉
〈供給助かる!!〉
〈さっすがママ、わかってるー!〉
学生服姿の少年少女だ。まだ途中だけど、おそらく5人。全員が陽くんやハヤテ先輩と同じ、つまり電脳学園の制服を着ている。
これは専用のチャンネルから先週放送された『電脳学園ファンタジー研究会』の動画で登場したキャラクターたちだ。「クラスメイトは道具じゃない、友達だ! 俺とクラスメイトバトルで勝負だ!」とのことで、要は五人のファン研メンバーがそれぞれクラスメイトと銘打った架空のキャラクターを作ってクオリティや面白さで競う回だった。
こういうのって割と適当な手作り感に突っ込んで遊ぶものだと思っていたんだけど、どういうわけか全体的にクオリティが高かった。妄想が激しかった、ともいう。
「やっぱり改めて見ても『
『ネットでは既にいるみたいに扱われてるよね。ファンアートも飛び抜けて多いし』
「陽くんにこんな技能……もとい観察力があったなんて」
中でも気合いが入っていたのが、陽くんが持ち込んだ古宮都。小動物系でころころとした元気少女で、人懐っこいムードメーカー気質というキャラクター性がデザインにもよく表れている。電ファンライバー唯一の絵師でもある不如帰もず先輩のデザインも気合いが入っていて可愛らしい。
恋バナや下世話な話が好きだけど自分にその気はないとか、頭は悪くないけど脊髄とノリで話すとか、動きが若干ぴょこぴょこしているとか、なんというか……キャラクターっぽいというか、ライバーにいそう。いや別に架空のライバーを作る企画というわけではないんだけど。
おかげでそれはもう人気が出ていて、触発された絵はこと今週に限ると陽くん本人よりよっぽど多い。#みやこ立美術館、なんてちゃんとしたファンアートタグまであるし。
それどころかファンによる3Dモデル化まで計画されていたり、まだ四期生は誰も持っていないイメージソングを作ろうとしている人すらいたりとなんでもありだ。
「一人だけ一枚絵……ママもみゃーこ派?」
『みゃーこって、また可愛い呼び方するね。……というよりは、ばちっとハマるような絵を描けるほど情報が出揃ってるのがこの子だけというか』
「あー……ママ、わりと二次創作には慎重だもんね。原作ちゃんと読んでからじゃないと描かないし」
〈みゃーこ!?〉
〈まるで友達みたいな呼び方するじゃん〉
〈可愛すぎるだろ〉
〈みゃーこのライバーデビューまだですか???〉
ママは二次創作にはストイックなタイプで、しっかり解像度を上げてから「ありそう」な絵しか描かない。それを知っている私からすれば、箱内ユニット番組の企画として出てきただけのキャラクターを描くこと自体が驚異的。せいぜい20分の動画の五人のうち一人でありながら、それに足るだけの掘り下げがあったということになる。
実際に動画内でも優勝となっていたけど、やはりみゃーこ、もとい都は相当な人気を誇っているらしい。こうして五人とも描かれた画角で圧倒的なのだから間違いなさそうだ。
「やっぱりデビュー待望論多いね」
「前代未聞だけどねこういうの。……まあ、本人が望むなら私としてはアリだと思うけど」
「仕方ないけど、いろいろ課題はあるよね」
ライバーとしてのデビューを望む声までかなり多いけど、それも無理もないことだろう。そういう感想が出ることは見越されている企画でもあるだろうし。
図らずも電ファンの媒体からさらなる旗振りが行われた格好となった。きっと陽くんも喜ぶだろう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます