第36話 インフィコア

「まずは、そこにボロクズみたいに転がっている乙姫なんだけど、元は私の眷属じゃなかったのよ。ジルコン・インフィ、つまりは永遠の君と呼ばれている時の眷属だったのよ」


 ああ、確かスラヤミィからもらった、インフィコアの制作者だっけ。

 僕からあふれ出す宵闇の力を吸い取ってくれるという、優れた魔道具だ。


「あの子というか最高齢の婆さんなんだけど、引きこもりなのよね。乙姫が引きこもって何もしない彼女に嫌気がさして離反した、というのが表向きなんだけど……」

「表向きということは、裏の事情があるのですよね」

「そう、永遠の命と美貌を手に入れること。乙姫自身が永遠の眷属になった最初の目的がそれだったみたいね。もっとも、それが叶わないと知ると、こっそりインフィコアだっけ、それを盗んで私のところへ転がり込んできたっていうのが真相ね」」

「え、インフィコアですか?」

「あら、セディちゃんは知っているのかしら?」

「エネルギーを無限に貯めることの出来るって、あと世界唯一無二のユニークアイテムだとも聞いていますが……」

「あれ十個以上あるわよ確か……ああ、でも無限に貯められるのって一個しか出来なかったって言ってたっけ」

「え、じゃあ唯一無二って……」

「最上級品。そうね、宵闇の坊やに何らかの取引で譲ったって言ってたの聞いた気がするわ。ふーん、セディちゃんが持っているのね」


 で、これもインフィコアを加工して作ったものなのよ、そう言いながら手に持った黒い小箱を示してくる。

 あ、この竜宮城の結界もインフィコアの加工品ね。

 そうそう、魂手箱もそうなのよ駄作の部類だって聞いてるけど。

 とまあ、次から次へとインフィコアの大安売りだった。

 いやさ乙姫様、アンタ一体いくつ盗んできたんだよ。


「加工したコアの力でエネルギーの吸収、それを結界で竜宮城のシステムコア(手持ちの黒い小箱を指し示しながら)に力を貯めていたってところかしらね」

「ちょっと質問です。インフィコアって、魂のエネルギーっていうか寿命を吸収するのですか?」

「ああ、それは乙姫の独自能力ね。永遠の君の元眷属だけあって、寿命とかをエネルギーに変えるのが得意だったみたいだから。まあ、使うの専門だったから貯めることの出来るコアと相性が良かったみたいね」

「それで人を騙して、竜宮城に誘い入れて魂から寿命を吸い出していたということですか」

「そうね。最後に聖女の力の吸収を目論んだけど見事に失敗したってわけね」

「そういえば、光の女神様……光輝の君が何らかの関りがあるみたいなのですけど

、マリンさんはご存知ですか?」

「ああ、アレね。知らないというか関わりたくないから、基本無視してるのよ。そういえば、聖女様とやらが乙姫の身体に聞いてたみたいだけど、どうなの?」


 マリンさんは、ダイアさんを見て言ったが、答えたのはマチルダさんだった。


「単純に乙姫が聖女の寿命を吸いたい、光輝の君は邪魔な聖女を始末したい。その二つの思惑がたまたま一致しただけで、それ以上は何もないようです」

「みたいよ。で、他に聞きたいことはある?」


 まあ、乙姫様についてはそれほど興味があったわけじゃない。

 そもそもの目的は、グリン爺さんとアカミさんの件だったし、それは解決している。

 うん、折角だからあの事を聞いちゃうかな。


「では、神様について聞きたいです。聖光の君が光の神様になったというのは聞きました。光輝の君も神様を目指しているとか、そこの乙姫様も神様になるために寿命を吸収していたとか。その神様って一体何なのですか?」

「あらあ、それを聞いちゃうのね。ある意味と呼ばれる存在に至るまでその話は禁忌タブーなのだけど、ってセディちゃんは資格ありなのよね。いいわ教えてあげる」

「はい、お願いします」

「でも、説明するよりもこっちの方が手っ取り早いのよね」


 手に持っていた小箱を目の前に突き出してくる。


「システムコア、乙姫がインフィコアを加工したものだけど結構使えるみたいよ。乙姫は魂から集めた寿命というエネルギーを変換して、竜宮城の結界維持とか自身の若さの維持とかそういう使い方をしていたのだけれどね」

「それをマリンさんが使うとどうなるのですか?」

「流れのままに。別に私が何かをするわけじゃない。この箱の中から出る水の流れに身を委ねなさい。その流れはきっと、あなたの思いに答え過去へといざなってくれることでしょう」

「つまりは、記憶を失った僕の過去を知ることができると?」

「永遠を時を司るジルコン・インフィが作りしインフィコアと、水をそして流れを司る私の力。その二つが合わされば時の流れをさかのぼり、隠された真実にたどり着くことは難しくはないでしょう」


 なんだろう。

 僕は神様について聞いたのに、魔王であった僕の過去にその答えがあると言われたに等しい。

 降ってわいたように真実に辿り着けると言われ、僕は戸惑っていた。

 いきなり言われても心の準備が出来ていない。


「で、どうするのセディちゃん?」

「はい、お願いします」


 心は迷っていたのに、結論はあっさりと口をついて出た。

 そうだよね。

 折角訪れた機会なんだ。

 僕は、魔王である自分の過去に向き合って生きる。

 いつかそう誓ったはずだった。


「僕は、自分の過去を知り向き合いたいです」

「あら、素敵な返事ね。お姉さん惚れちゃいそうよ」


 そう言って、マリンさんは小箱の蓋を開けた。

 そこからあふれ出すのはさざ波のような、いや大海原から発生した大きな波のような、そんな不思議な感覚に僕は包まれた。

 そして、僕は波に飲み込まれるように意識が遠くなっていく。

 その最中、なぜ私まで飲み込まれる? というようなダイアさんの声が遠く聞こえたような気がしていた。



第二章 完

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