第29話 宴会場へ
人を騙して竜宮城に連れ込み、寿命を吸い上げる。
いくら水神様の眷属とはいえ、そんなことをするのは間違っていると思う。
僕はそれに加担なんてしたくない。
でも、と思う。
この竜宮城の門の奥、そこにいるであろうグリン爺さんと魂手箱に封じられたアカミさんの存在を思い出す。
僕が今、ダイアさんに全てを話して助けを求めたとして、彼らはどうなってしまうのだろう。
それに、アカミさんを助けられるのは光の女神様だけだという話だ。
先程のダイアさんの話、光の女神様のこと。
どうやら一般の人々の受けはよくないらしいが、グリン爺さんとしてはそれにすがるしかないのだろうから。
だが、迷っている間に時間切れを迎えた。
「あらん、セディ君ご苦労様なのねん」
「あ、セイラさん……」
立ち尽くしていた僕は、セイラさんのお供だろうか、タコの風体をした黒スーツの男に脇に追いやられてしまった。
僕を排して、聖女様とセイラさんはお互いに自己紹介をすると、セイラさんによってダイアさんは宴会場の案内されて行った。
それを見送った後、僕は地上に戻るべく入口へと向かうが、タコ男に腕をつかまれてしまう。
「えっと、前回もそうでしたけど、聖女さまがお帰りになるころまた来ますので……」
「爺さんのところへ案内するよう命じられている」
「あ、そうなんですか。でも一人で歩けるので腕を放していただけませんか?」
タコ男は無言で腕をつかんでいた手を放すと、背を向けて歩き出す。
僕は慌ててその後を追った。
「この先だ」
下へ降りる階段が見える。
先導していたタコ男は、今度は僕の背後に回りピタリと付くようにして先に行くようにうながした。
「え、あの……」
戸惑う僕をよそに、早く行けとばかりにグイグイと身を寄せてくるタコ男。
仕方なく僕は階段を下りることにした。
薄暗い石壁で出来た殺風景な階段を降り切った先。
「……地下牢」
「早く行け、この先だ」
僕は気づいた。
タコ男が背後に回ったのは僕の逃げ道を塞ぐためなのだと。
そして亀ごときの抵抗など排除できるという自信があるようで、わざわざ僕を自分で歩かせたのは単に運ぶのが面倒だったのからだろう。
案の定、抵抗空しく僕はグリン爺さんの入っていた牢の中に放り込まれることになった。
「……すまん、セディ」
「やっぱり騙されていたんだね」
「儂も薄々は分かっておった。じゃがの、一縷の望みに縋るほかなかったのじゃ……」
「でも、なんで牢屋に?」
「お役御免なので最後の役に立てとのことじゃ。聖女のあとはジジイの残りかすを搾るとセイラが言うておったわ」
「酷いよ、さんざんグリン爺さんのことを利用してきて、最後にはこの仕打ちとか……」
「儂はある意味自業自得じゃ。だがセディ、お前は違う」
「でも、僕だってターロウさんを……」
「隣の空き家に行き場を無くしたターロウを匿っておったろう」
「……知っていたんだね。うん、光の女神様にお会い出来たら何とかしてもらおうと思っていて……でも話に聞いた光の女神様、あまり評判良くないみたい」
「やはりの……光の女神様については儂もうわさは何となく耳にはしていた。セディのような善良な若者が報われるような世界であればよかったのじゃがのう。現実はままならないものじゃな」
グリン爺さんは、よろよろと立ち上がると牢屋の扉へと向かう。
「ちょっと、グリン爺さん。無理しちゃだめだよ」
「何、心配いらん。こうするだけじゃ」
扉の錠前をカチャカチャいじくっていたかと思うと、カチャリと錠が外れた。
「え?」
「実はの。儂とアカミは若い昔は盗賊をしておった」
「まさか?」
「そのまさかじゃ。盗みに入った先でしくじっての、アカミは儂をかばって重傷を負ったのじゃ」
「盗みに入った先って……」
「そう、ここ竜宮城じゃ。ふとしたことから、水神の宝玉を手に入れての。結界のこともその持ち主から聞いておった。紆余曲折あって今はこの通りじゃ」
空いた扉の向こうを指さしてグリン爺さんは言う。
「セディ、お前ひとりでも逃げよ。儂はもう満足に動くことも出来んからの。ここでアカミと最後の時を迎えるとしよう」
「……ううん。僕は逃げない」
「馬鹿をいうでない。このままここにいても、お前も寿命を吸い取られて老亀になるだけじゃ」
「聖女様なら何とかしれくれるかもしれない。だから、聖女様を助けに行く」
「お前、さっきは光の女神様の話をしたばかりじゃったろうが」
「僕がさっきまで一緒にいた聖女様なら、信用してもいいかもしれないって思った」
「そう言えば、女神様に反抗したとか言っておったの」
「うん、だから僕は聖女様……ううん、ダイアさんを助けて、そしてここに戻って来るよ。だから、アカミさんとふたりで待っててね」
そして、僕は地下牢を密かに抜け出て、ダイアさんを探すことにした。
セイラさんが宴会場に案内するとか聞いていたから、そこに向かうことにする。
グリン爺さん、さすが元盗賊で竜宮城に盗みに入っただけのことはある。
宴会場の場所のみならず、場内の警備状況も把握できたのであっさりと辿り着けた。
扉の前。
さぞやにぎやかで楽し気な声でも聞こえてくるのだろうと思っていたのだが、聞こえてきたのは叫び声だった。
同時に、扉を突き破って何かが飛び出してくる。
慌てて避けた僕が目にしたそれは、ボコボコにされた黒スーツのタコ男だった。
「ヒャッハーーー!!! 饗宴は饗宴でも、理不尽な暴力という名の狂宴だぜぇぇぇーーー!!!」
壊れた扉から先、暴れる白銀の何かが見えた。
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