第28巻 ある男の世界

長編小説

ある男の世界

第28巻

男は夢を描いた。世界を破壊する支配者に。世界を救う勇者に、世界を平定する国王に。世界を不幸にする独裁者に。世界を自由自在にする天才に。男はいつも夢を描いていた。しかしその夢は叶わない、いや叶えても意味がない、男は全てを知っていた。この世の終わりを始まりを。だが男は夢を描く。男は今日も夢を描く。一番愛した女性に一番を愛をあげ、そうして別れ。一番親友だった、友達に突然の別れを言い。急に隣の人を親友にした。さっき見た女性を彼女にした。男は夢を描く、それは世界を見たくないから、世界から目を背けたかった。男は深い話を求めた。男の求める話はなかった。だから男は今日も明日を求めた。男は死が怖かった。いつも寝る前に死を考える。死はとても怖い。だから男は死を考えることはしなかった、いやしないように考えた。男は夢を描いた、それは死が怖かったから。だから頭のおかしい小説を書いた。死が怖かったから。男は過去を描いた。未来が怖かったから。男は未来を描けなかった。未来が見えないから、だから男は過去を描いた。男は過去に起きたこと、起きそうだったこと、起きて欲しかったこと、起きて欲しくなかった、感情になって欲しかったこと、感情になって欲しくなかったこと。男は過去を描いた。変わることのない過去を、悔やみ、悲しみに暮れ描いた、男は絶対に変わることのない過去を今も描いている、そう、それはある男の世界。

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