眷属 四

さっきまで晴れていたはずなのに、いつの間にか空は曇りポツポツと雨が降り始めた。

不自然なぐらい急に辺りに霧が立ち込め、より一層その怪物の禍々しさが強調される。

怪物はじりじりとこちらに近づいてきている。

「・・・!!桜田君、立てる!?」

ようやく我に返った梅貝さんは、僕に手を伸ばした。なかなか足に力が入らず立つのに手こずったが、何とか梅貝さんの肩に腕を回した。

「早く!!」

霊媒師さんは、苛立ち混じりに僕たちを急かした。

「あんたも、逃げた方が良い!!」

「私が足止めをします」

どう見ても敵う相手じゃないだろう。それでも霊媒師さんは自分の命より、僕たちの命を優先して守ろうとしてくれている。

ふと怪物の近くに落ちたワンピースが目に映った。あぁ、そうだ。僕は睦美を探してきたのに・・・。

気が付いたら僕は怪物の方へ歩み寄っていった。梅貝さんがそれに気づいて、僕の手を強く握ったが僕は振り払った。

ふぅぅぅっと威嚇しながら僕を見つめる怪物を無視して、ワンピースを手に取る。


生きている意味なんてないじゃないか。自分の最愛の人が死んだんだから。

ワンピースを抱きしめながら、後ろを振り返った。

「僕が生贄になります」

僕に返事をするように、怪物は叫んだ。

「桜田君!!」

梅貝さんの声を背にして、怪物の方へ歩みを進めた。

睦美はこいつの体内にいるんだ。なら僕が行くべき場所は決まっているじゃないか・・・。

「すべてを受け入れる覚悟はできています。さぁ!!!」

ぎゅっと目を瞑り、痛みが来るのを待った。


しかし、一向に来なかった。ゆっくり目を開いてみると怪物は先ほどより落ち着き、もう威嚇はしていなかった。

なんだ・・・?

疑問に思いながら様子を見ていると、怪物は山の奥へと進みスッと消えていった。

立ち込めた霧が晴れ、嘘のように空が晴れ上がっていった。

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