第11話 

文化祭が終わった後、佐藤さんとの距離が少し縮まったように感じる。

お化け屋敷を一緒に準備し、たくさんの思い出を共有したことで、自然と会話が弾むようになった。

彼女が笑うと、なんだか心が温かくなる。この気持ちは、確実に特別なものだと思う。


文化祭が終わった日の放課後、俺は教室で佐藤さんと一緒に片付けをしていた。

彼女は真剣な表情で段ボールをまとめながら


「楽しかったね、文化祭」


と笑顔で言った。

俺もその言葉に心から頷き、同意する。


「本当に、最高だった。特にお化け屋敷は緊張したけど、みんなの反応が良くて嬉しかった」


と俺は返した。


そんな中、彼女がぽつりと言った。


「来週の日曜日、映画を観に行かない?」


その瞬間、心臓がドキドキしだす。

映画に誘われるなんて、普通に考えればただの友達としての誘いかもしれないが、俺にとっては特別な意味を持つ。

佐藤さんとの二人きりの時間が作られるのだ。


「うん、行きたい!」


と声を上げた瞬間、内心の高鳴りを抑えきれなかった。

どんな映画を観るのかはわからないが、彼女と一緒に過ごす時間を心待ちにしている自分がいる。


「どの映画にする?」


と尋ねると、彼女は


「最近のアクション映画とかどうかな?」


と提案してくれた。

俺はその提案に大いに賛同した。

佐藤さんとの約束は、少しずつ意識を高めてくれる。

お化け屋敷の準備を通じて、彼女の気配りや優しさに触れ、さらに彼女を知りたいと思うようになった。

そして映画に行くことで、もっと深い関係に進むことができるのではないかと期待を抱くようになっていく。

次の日曜日が待ち遠しくなっていく。

学校が終わると、何を着て行こうか、どのシーンが楽しみなのか、考えるだけで気持ちが弾む。

佐藤さんと過ごす時間がどんなものになるのか、ワクワクが止まらない。


それからの平日は、映画のことで頭がいっぱいになり、授業中もつい考え込んでしまった。

友達にもそのことを話すと


「お前、ついに佐藤さんとデートだな!」


と冗談交じりに祝福される。

俺は照れくさくなりながらも、内心嬉しい気持ちでいっぱいだった。

日曜日が近づくにつれて、少しずつ緊張も高まってきた。

朝起きると、天気が良いことを確認し、予定通り映画に行けることに安堵した。

朝食を済ませ、着る服を選ぶときに、何度も鏡を見て自分を確認する。

いつもよりも気を使う自分がいて、心の中が高揚しているのを感じた。

時間が近づくにつれ、心臓の鼓動が早くなり、少し不安になる。

でも、佐藤さんとの約束を思い出し、ドキドキよりも楽しみの気持ちが勝っていく。

今日はきっと、特別な一日になるに違いないと、自分に言い聞かせる。

待ち合わせ場所に行くと、佐藤さんが既に待っていた。

彼女の姿を見た瞬間、思わずドキッとしてしまう。

清楚で可愛らしい姿が、俺の心を掴んで離さない。

思わず笑顔を見せると、彼女も明るい笑顔で返してくれた。


「待たせちゃった?」


と聞くと、彼女は


「全然、楽しみにしてたから」


と照れくさそうに答える。


こうして、俺たちの映画デートが始まった。

心臓がドキドキしながらも、彼女との会話がどんどん盛り上がっていく。

映画の内容だけでなく、互いの趣味や好きなことについても話し合い、どんどん距離が縮まっていく感覚を実感する。

映画を観終わった後、感想を語り合う中で、お互いの考え方や感受性の違いを知ることができて、ますます魅力を感じた。


「次はどんな映画を観たい?」


という問いかけが、さらなる会話を生んでいく。

心の中では、もっと彼女のことを知りたい、もっと一緒に過ごしたいという気持ちが膨らんでいく。



映画デートは、佐藤さんとの新たな関係の第一歩になると感じた。これからも一緒に過ごす時間が増えていくことを願いながら、俺はこの特別な日を心に刻むことに決めた。

ふとした瞬間、真っ白になり、俺はベッドから落ちた。

痛みが走り、思わず声をあげる。


「痛!?…は?…あれ?佐藤さん??」


周りを見回すと、そこは自分の部屋で、見慣れた景色が広がっていた。

どうやら夢を見ていたらしい。

混乱した頭でカレンダーに目をやると、今日は運動会の前日だった。


(え?金曜日?)


俺はスマホの日付も確認する。

やはり金曜日だ。

昨日、確かに運動会の練習をしたし、文化祭の準備も進めていた。

それなのに、なぜか夢の中で佐藤さんと過ごしていた記憶が強く残っている。

彼女との会話、笑い合った瞬間、映画に誘われた時のドキドキ。

すべてがリアルだったのに、現実に引き戻された今、まるで夢の中の出来事だったかのように感じる。


俺は布団に座り込み、しばらく考え込む。

夢だったのか、それとも何か特別な意味があったのか。

どちらにしても、目覚めた今、この不思議な感覚をどう受け止めればいいのか悩む。

佐藤さんとの関係が進展することを望む気持ちが夢の中に反映されたのかもしれない。

少し頭を冷やすために、軽くストレッチをしながら、運動会の準備を思い出す。

今日は特に忙しい一日になりそうだ。朝食を済ませ、弁当の準備をして、運動会の持ち物を確認する。

親も仕事を休んで、応援に来てくれると言っていたので、余計に気合が入る。


身支度を整えた後、リビングに向かう。母が朝食を用意している。


「おはよう、しっかり運動会の準備できた?」


と声をかけられる。

俺は


「うん、ばっちり!」


と元気よく返事をする。

朝食を食べながら、運動会の競技やお弁当のことを考えていると、緊張感が高まる。

食事を終えると、親から


「今日はたくさんの応援をしてあげるからね」


と言われ、嬉しく思う。

運動会はただの競技ではなく、家族や友人と一緒に過ごす大切な時間でもある。

そんなことを考えながら、持ち物を最終チェックし、学校へ向かう準備をする。

自転車に乗って学校へ向かう途中、ふと昨日の文化祭の準備や、佐藤さんとの会話が頭をよぎる。心がワクワクしているのを感じる。

運動会を終えた後、また彼女と話す機会があるかもしれない。

そんな期待が、さらに俺の気持ちを高める。

学校に着くと、友達が集まっていて、みんなが楽しそうに話している。


「おはよう、運動会楽しみだな!」


と声をかけると、友達も賛同する。


「お前、頑張れよ!応援してるから!」


と励ましの言葉が返ってくる。

その瞬間、自分の胸が高鳴るのを感じた。

その後、運動会の準備が始まる。

場所取りや競技の確認など、やることがたくさんある。

先輩やクラスメイトと協力しながら、少しずつ運動会の雰囲気が盛り上がってくる。

練習した成果を発揮できるか不安な気持ちもあるが、仲間と一緒に頑張ることで、その不安が少しずつ和らいでいく。


準備が進む中、ふと佐藤さんのことが頭に浮かぶ。

彼女も運動会に来てくれるのだろうか。

そう考えると、自然と笑みがこぼれた。

彼女に頑張っている姿を見てもらいたいという気持ちが、俺の背中を押してくれる。

午前中の競技が進むにつれて、俺の緊張は少しずつほぐれていった。

クラスメイトたちと声を掛け合い、励まし合いながら、少しずつ本番の気分に慣れていく。

そして、とうとう俺たちの出番がやってきた。


競技が始まると、俺の心臓はドキドキしながらも、集中力が高まっていく。

周りの声援が耳に入ってくる。

自分が何をすべきかを考えながら、全力で取り組む。

目の前にあるものを一つ一つ乗り越えていく感覚が心地よい。

運動会が進むにつれて、俺は充実感を感じていた。

クラス全体が一つにまとまり、仲間たちと喜びを分かち合う瞬間が増えていく。

その中で、やっぱり佐藤さんがいる姿を思い浮かべ、彼女にもこの楽しさを共有したいと思う。


最後の競技が終わった時、俺たちのクラスは順位をつけられた。

悔しさもあったが、それ以上に達成感が大きかった。

クラスメイトと肩を組み、喜びを分かち合う。その瞬間、俺は心の中で決意する。

これからも、佐藤さんともっと仲良くなれるように、頑張ろうと。

運動会を通じて得た友情や経験を大切にしつつ、彼女との関係も進展させたいと思うのだった。


翌日の日曜日、文化祭当日を迎えた。

今回、俺たちのクラスはお化け屋敷を行う予定だったが、朝、親に学校まで車で送ってもらった後、教室に入ると、何かがおかしいことに気づいた。

教室の入り口には


「萌えキュン喫茶へようこそ」


と書かれた看板が飾られている。


(これはどういうことだ?)


俺は困惑した。

文化祭のテーマを聞いた時、みんなで話し合ったのに、どうしてこんな変更があったのか理解できなかった。

他のクラスメイトたちは特に気にしている様子もなく、普通に準備を進めている。

俺は不安になりながらも、仲間に確認することにした。


「今日は俺たちのクラスはお化け屋敷だよね?」


と俺が尋ねると、友人の田中が驚いた表情で返してきた。


「は?なに言ってるの?『萌えキュン喫茶』に決まってるでしょ。タブレットで投票したじゃん。」


その言葉を聞いて、俺はますます混乱した。

確かに、前日のホームルームで候補がいくつか出されたが、俺たちが選んだのはお化け屋敷だったはずだ。

それなのに、どうしてこんな変更がなされているのか。

俺は心の中で疑問を抱きながら、他のクラスメイトに事情を聞くことにした。


「これって本当に決まったことなの?俺たちの意見は反映されなかったの?」


と俺は焦り気味に質問を続ける。


「ああ、知らなかったの?みんなが投票して、結果的に萌えキュン喫茶が選ばれたんだ。お化け屋敷が人気なかったみたいだよ」


と別の友人が言った。


その言葉に俺は愕然とした。

確かに、クラスの中にはお化け屋敷に対してあまり興味がない人もいた。

だが、全体的にはお化け屋敷のアイデアが良いと感じていたはずなのに。

どうして俺の意見が無視されたのか、内心のもやもやが膨らむ。

不安に思いながらも、クラスメイトたちが準備を進めている様子を見て、俺も気持ちを切り替えることにした。

もしかしたら、萌えキュン喫茶も楽しいかもしれない。

まだ決まったことはないのだから、せめて今日の準備を楽しむことにした。


文化祭の準備が始まり、教室内は活気にあふれていた。

みんなが役割を分担し、装飾を飾ったり、食材を用意したりと忙しそうに動き回っている。

俺もその流れに乗ることにした。

テーブルをセッティングし、メニューを書いたり、装飾を手伝ったりしているうちに、少しずつ気持ちが盛り上がってくる。


「萌えキュン喫茶、楽しんでくれるかな?」


と心の中で呟きながら、少しずつやる気を取り戻していった。

お化け屋敷も楽しそうだったが、今の状況でできる限り楽しむことが重要だと自分に言い聞かせる。

クラスメイトたちの笑顔を見ると、やはり仲間と一緒に過ごすこの瞬間が貴重なものであることを再認識した。


準備が進む中、ふと、佐藤さんのことを思い出す。

彼女もこの文化祭に来るのだろうか。

萌えキュン喫茶というテーマには彼女も興味を持ってくれるかもしれない。

そんな期待を抱きながら、俺はさらに気持ちを高める。

文化祭の開幕時間が近づくと、教室は熱気に満ちてきた。

俺たちのクラスは準備が整い、萌えキュン喫茶としての姿が見えてきた。

みんなで協力して作り上げた空間には、笑い声や楽しげな雰囲気が漂っている。


「やっぱり、こういうのも悪くないな」


と思い始めると、少しずつこの文化祭が楽しみになってきた。

開幕の鐘が鳴り、いよいよ文化祭が始まる。

生徒たちや来場者が次々と教室に入ってくるのを見て、ドキドキ感が高まる。

俺はその瞬間を逃すまいと、心の準備を整えた。


「さあ、今日は楽しい一日になるぞ!」


と気合を入れて、俺はクラスメイトたちと共に新しいスタートを切るのだった。




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