第2話 ライスマンという男
人が異世界に行くというのは中々簡単ではないのですよ。
簡単ではない上に、異世界に行っても割と良い事は無いですし。
ご飯は不味いし交通の便も良くない。税金は高いし医療費も高い。
それでも異世界に行きたがる人は後を絶たない。不思議ですね。
新しい環境でチャレンジしたい。今の自分を捨てたいっていう気持ちが大きいようです。
なのに口にするのは「チートが欲しい」
異世界に行きたいのか、特殊能力が欲しいのかどっちかにして欲しいですよ。
そもそも、チートと呼ばれているのは一種の救済制度の事で、もともと持っていた財産や環境、これから得られるはずだった収入に加えて残りの寿命などを全て変換して、その数割を新しい異世界の環境で使えるようにお渡しする制度です。
どんなふうに身を立てていきたいか、アンケートを取り、その内容に合わせて戦闘で会ったり知識であったり様々な技術などを付与して、新生活に問題が無いようにする。
なのに、「ご飯がサラサラで握れないからモチモチにして欲しい」なんて事言い出したのはこの人くらいです。
コメの品種改良は大変なので、彼には「コメをモチモチにする能力」を与えました。まぁ、食生活への不満というのはストレスが溜まるらしいですから。好きにすればいいと思います。以上、担当女神でした。仕事辞めたい。
俺の名はライスマン。元日本人だが過去の名前は捨てた。二度と日本に戻る事もないだろうし、いらない物は全て処分した。必要なのは異世界で活躍する輝かしい未来だけ。
しかし、問題が一つあった。お試しで一週間この世界で過ごした時に思い知ったのだが、とにかく飯がマズイ。焼くか煮るだけ。麦粥か茹で芋か肉を焼いて塩を変えたものだけ。長生き出来ないよ、これじゃ。パンすらない。
なので、お試し期間が終わった時に担当の人にこういったんだ。
「コメをモチモチにしたい」と。貰った能力は気にいっている。おにぎりの具にする為に釣りをしては魚を塩漬けにしているが、自分で使う分以外を売っていたらそこそこの収入になったのでこれで暮らしていけている。
なんでも釣りというのはかなり危険な行為らしい。川沿いにはケルピーや河童がでるし、海には人を飲み込む巨大な何かがいるらしい。魚は高級品なのだ。
趣味の釣りがそこそこの収入に繋がり、コメをモチモチにする能力で自分だけは美味しいご飯が食べられる。衣食住が満たされると次に満たしたくなるのは、そう。承認欲求だ。俺は美味しいご飯を食べさせて米のおいしさを世に知らしめたいというよ休が抑えられなくなった。
それで市場で米を買い、モチモチな感じに炊いて知人にふるまってみたのだが、どうも反応が鈍い。みんな断ろうとする。始めは遠慮しているのかと思ったが、本気で食べたくない様子だ。土下座して頼んで食べて貰うと、思ったよりおいしい事に驚くのだけど。どうやらこの世界の宗教では、神が人に麦を与えるという神話があるらしい。だから主食の麦は神からの授かりものだとかで、他の穀物に忌避感があるのだとか。
しーらーねーえよぉ!!食え、米を。そんなん地球の教会でのパンとぶどう酒みたいなもんだろうけどさ、三食ぶどう酒ばっかり飲まないだろ。飽きないのかよ麦粥とか皮だけのクレープみたいなのばっかり食ってて。
「わかった。もういい。食えば理解するはずだ、コメのウマさを。食わせればいいんだ」
その日、真っ白な綺麗な革を買い、手縫いでマスクを作った。お米のような真っ白な笑顔のヒーローが俺の手の中で生まれた。
アメイジング・ライスマン @iichiko
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