2 Kingdom(王国)
2-1 傍観
お茶会が終わったばかりで、全員が集合するのに、さほど時間は掛からない。いくつもの足音が重なり合い、部屋の中心を見据えて止まる。
先程のお茶会の豪華な非日常の様子は変わらなかった。ただ違うのは、テーブルの真ん中にあるディスプレイがさらに凄惨な情報を映していること。
至るところから立ち昇る煙と炎。この世の終わりを告げるような画像に誰もが言葉を失っている。
『申し上げます。王都より北東、オルロフ伯領トラーズ半島ラ・サンテ刑務所付近より、高魔力反応を確認。物体の形は不定形で常に変化を続けています。発生後、ラ・サンテ刑務所を含む半径30kmを消失。現在、王都方面に侵攻しています。先ほどの王宮一帯の…。』
ディスプレイから聞き慣れない人工音声が聞こえた。無機質で抑揚もない声には感情すらないとしか思えない。この場所で被害報告を淡々とできるとすれば、王宮地下に存在するこの国全ての意思決定人工演算機、
ディオニシウスシステム──
「さて、諸君この状況をどう思うかね。」
アルヴィスは金色の巻き毛を指に巻きつけながら、忌々しく画像を見ていた。彼にとって自分の『持ち物』が他人に少しでも『奪われる』ことはプライドが許さないのだ。
「全軍、総攻撃。」
たった一言で唸りをあげて、陸海空軍の長距離攻撃が始まり、巨大な爆炎と煙が上がる。
「効果は?」
彼はあくまでも冷静に評価をしていたが、明らかにその表情は苛ついて、何度もペンで机を叩いていた。
『対象表層の28%を焼却していますが、再生が始まっています。再攻撃は6時間後と計算。』
どこまでも無機質で感情のない音声が回答を示す。ディオニウスシステムが未だ間違った事はない。この国は考えを放棄し、このシステムに従っている。
「統合幕僚長を召喚せよ。」
アルヴィスはギリギリと親指の爪を噛んでいるが、何度も噛まれている指には殆ど爪は残っていなかった。
魔法陣の中から現れた彼は、勝敗すら舞台の余興と冷笑するような、役割に興味を失った観客の顔だった。
ペイロール伯爵──軍の頂点にいながら、「それが何か?」と言わんばかりの態度は、場違いで、しかし妙に似合っていた。
カーキ色の軍服に色とりどりの略章を着けた顎髭を整えた男性が、床に現れた魔法陣から現れた。
「ようこそ、統合幕僚長ペイロール伯爵。お忙しい中呼び出しで申し訳ない。」
アルヴィスは呼び出しておきながら、あからさまに社交辞令とわかる挨拶をしていた。そんなことは日常茶飯事とばかりに全く彼は意に介さないとばかりに悠然と顎髭を撫でていた。
「構いません。私は所詮お飾りですので。実権は優秀な貴族の軍人の方々が持っていらっしゃいますから、私のような、軍人家系ではないぽっと出の者は、黙って見るしかないとのこと。ああ、全く軍事費の無駄遣いのような攻撃ばかり。力押しでどうなる相手ではないというのに、石頭ばかりで呆れますな。」
言葉の端々に混じる皮肉は、自嘲でも他者への攻撃でもない。
ただ事実を並べているだけにすぎないのに、それが最も痛烈な批判になるのは、彼がこの腐敗を長く見つめてきた傍観者だからだ。
彼のような者にとって、この国家の歯車は“壊れている”のではなく、“最初から狂っていた”。
だからこそ、燃え盛る映像を前にしても、眉一つ動かさず、「どうせこうなる」と言わんばかりに涼しい顔をしていられる。
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