(三)


 十二月上旬。


「で? 会ったのに結局、聞けてないのね」

「うう、だって、ほら! タイミングが」

「なずなのことだから、お菓子やお料理…ううん、おしゃべりに夢中だったんでしょう」

「うっ」

 頼んだカフェオレをちびり飲みながら目をさ迷わすなずなに、桃がやっぱりとばかりにため息ついた。

 ちなみに彼女――桃の前にはボリュームたっぷりのクラブサンドやチーズとホワイトソースの焦げ目が輝かしいマカロニグラタン、とっても芳しい香りのオニオンスープグラタン、いちごパフェ、そしてなぜかきつねうどんに枝豆……そして焼き鳥のなんこつが並んでいる。

 朝の十時から遺憾なく食欲を発揮する桃に、少し触発されたなずなもオニオンリングを頼んでいる。揚げ物っておいしいよね!

 店員はいつもの光景だとばかりに、特に驚きはしない。

「まったく、せっかく全員そろってるんだったら聞けばよかったのに」

「……食べるのとお話に夢中になっていたら、つい、聞こうとすること忘れちゃって。えへへ」

「まあ、楽しかったならいいんじゃない?」

「うん、楽しかった! お隣さんの上坂さん、すごく話し上手だし、お菓子作ってきてくれたんだけどね? おいしくて! あっ、桃ちゃんの分、ちゃんとあるよ!」

「まあ、それはいい人だわ」

 きらりと、桃の目が輝いた。嬉しそうにお菓子を受け取る。

 なずなは、桃ちゃんってば、本当に食べること好きだなあと思いながらオニオンリングをつまんだ。

 しかし、ここのカフェはメニュー豊富だなあとなずなは思う。

 なにせ、麻婆豆腐やらちゃんこ鍋まであるのだから。

 それってカフェで扱うメニューなの? と、思うなずなだが、このカフェはそういうところなのだと無理やり理解した。

「でもね、桃ちゃん」

「なに?」

「やっぱりいっちゃんの独り言がね、多かったんだよ。あと、食べる量がね多いし以上に早かった」

「ふうん、食べるのはともかく……独り言は捨て置けないわね」

 そう言って、がぶりとクラブサンドに嚙り付く桃。いつの間に食べ終えたのか、グラタン皿とスープ皿、うどんのどんぶりは空になっている。

 なずなは思う、いづるのことも気になるが、桃の胃袋もとても気になると。

 きれいに平らげていく彼女は、これで太ることもなくスリムボデーなのだから羨ましい。

「桃ちゃん、いいこと思いついたの?」

「ええ、お菓子のお礼しに突撃お宅訪問とかどうかしら? お隣さん宅に」

「お隣さん? いっちゃんの独り言なのに?」

「案外、本人に聞くより周りから聞いた方が分かることもあるかもしれないでしょ?」

 そう言い、桃が最後の一本だったなんこつをこりこり言わせながら食べ終えた。

「そっか、本人だと聞きづらいところあるし……いいかもしれない」

「でしょ」

「うん」

「なにより、バイトしてから独り言出てきたんだったら、なおさらよ」

 さあ、ちょっと物足りないけど行きましょうかと、桃がすっとコートを羽織り席を立つ。

 なずなが慌ててコートを着ていると、桃が素早く会計を済ませて戻ってきた。

「あっ、ごめんね、桃ちゃん」

「気にしないで、それより、お菓子もらいに行くわよ」

「……桃ちゃん、本音はそっちだね」

 カツカツと靴音を響かせて、颯爽と店を後にする桃に慌ててついていった。




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