番外編・なずなの勘はつげている

(一)


「……ぜったい、あやしい」

「なずな、給食の時間も限られてるんだからね? さっさとカレー食べちゃいなさい」

「桃ちゃん、もう二杯目おかわりしたの?」

「もちろんよ、今日は三杯おかわりするつもりだから」

「三杯かあ、すごいねえ」

 もぐもぐと甘口の野菜たっぷりカレーを頬張る桃に、なずなは目をぱちくりとさせる。周りのクラスメートは桃の食べっぷりに触発されたように、カレーの入った寸胴鍋に群がり、おかわりしている。

 なずなの通うここ、八賀野(はちがや)中学は給食の料理がおいしいと生徒に評判だ。

 とくに甘口のカレーは甘さの中にスパイスも香り立ち、にんじんやじゃがいも、玉ねぎに豚肉と具はオーソドックスなのだが、安心できるおいしさで不動の人気一位を誇る。

 次点ではミートスパゲッティだ。甘さと酸味とバランスのいいミートソース、そしてスパゲッティの茹で加減が絶妙と人気が高い。

「ふう、でも四杯目もいけそうなのよねえ」

「食べすぎると、五限目の体育つらいよ?」

「そうね、三杯でやめておくわ」

 そう言って、席を立つ。おかわりにいくようだ。

 なずなはもぐりとゆっくり食べているから、いつも食べ終えるのが給食時間ギリギリになってしまう。早く食べなくてはと思うも、ざくりと、わかめとレタスのサラダをフォークで刺して「うーん」とまた唸った。

「やっぱり、おかしい」

「なずな、食べ物刺しながら振らないの。ちゃんと食べなさい」

「わかってるよ、桃ちゃん」

 頬を膨らまし、しかし、次にはフォークを器において手を頬に添えると、はあとため息ついた。これで今日何度目のため息かしら、桃も小さくため息ついた。

「……なずな、また悩んでるの? いづるさんのこと」

「だって、絶対ね? おかしいんだよ」

「でも、ただの駆除だったんでしょう? 動物の」

「そうなんだけど」

 何か、不服気ななずなに仕方ないわねとばかりに、桃が口に運んでいたスプーンを止める。

「じゃあ、何が気になるのよ」

「……それが、わからないんだよ」

「どうにもならないじゃない」

「そうなんだけどね?! なんていうか、なにか隠してる気がするんだよね」

「気がするって」

 胡散臭げな目をする桃に、なずなはこぶしを強く握って力説する。

「だって、なんか最近ね?! 変に独り言増えてるし! こう、いっちゃんといるときは何か横切る感じがするんだよね!」

「……いきなり最後の方、ホラー系にはいってるけど大丈夫なの?」

「うう、ホラーじゃないと思う。なんとなく、ふわっとした感じだから」

「感覚感じるって余計怖いわよ」

 桃が引き気味でいうのに、なずなは「ホラーじゃない、たぶん」と今度は小さく返した。実は、ちょっと疑ってるところもあるのだ。

「そ、それより、いっちゃんの独り言がね? 具体的すぎるんだよ。なんだか名前言ってどこかの方向へ話しかけてるというか」

「ますますホラーよ、いづるさん、大丈夫?」

 精神科すすめた方がいいんじゃないの? と、桃が顔を少しばかり暗くするのに慌てて、大丈夫だよと答える。

「いねさんが、いっちゃんのおばあちゃんがね「心配ないわ。ちょっと劇の練習なのよ」って」

「……いづるさん、そんな熱心に練習しているの?」

「みたいだけど」

「ふうん」

 桃が何か考えるように左手の人差し指を顎に当てる。

「ねえ、それっていづるさんには聞いたの?」

「え? ううん」

「なら、聞いてみたらいいじゃない」

「ええっ」

「なによ、気になるんでしょう?」

「うう、ただでさえ、最近遠ざけられてる感じするから……あまりしつこくするのも気が引けるというか」

「あら、自覚あるのね」

「桃ちゃん、つめたい」

「まあ、なずなのこと嫌いで遠ざけてるわけじゃないと思うけど」

「そうかなあ」

 どこかさみしげに、不安な顔をするなずなに桃は仕方ないわねと重い腰をあげると

「やっぱり四杯目、おかわりしてくるわ」

「……桃ちゃん、ぶれないね。期待しちゃったよ、私」

 颯爽とおかわりしにいく桃の背を見送り、なずなはまた一つため息ついた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る