・漂流『2-B』 全校生徒を脅す

 他のクラスや1年坊主たちが気付いた頃には既に時遅く、『2-B』による物資の独占が完了していた。

 貴重な物はクラス最後尾の学生ロッカーにしまい込まれ、それ以外はその周囲にうず高く積み上げられた。


 教室の前には他のクラスの連中が殺気立った様子で集まっていた。

 俺たちは彼らの代表を紳士的に教室に受け入れ、廊下側の机をくっつけてそこを階段の席にした。


「卑怯だぞ、貴様っ、ヴァレリウス・ヴァイシュタインッ!! 『2-A』代表として、貴様らの暴挙に断固抗議する!」


「同じ生徒同士、うちの『2-D』にも必要な物を分けてくれるんだろうな? 返答次第では、これは戦争だぞ……」


「それが上級生のすることですかっ!」


 想定通り、ムチャクチャに責められた。

 原作ではこの『2-A』の代表が物資をため込んで『ブイブイ』と言わせていたので、まあ俺とジェードからすればちょっとしたプチざまぁーだった。


「言われなくとも平等に分配するぜ」


「平等っ!? どうせ裏があるんだろう、貴様っ!」


「もちろん条件がある。ミシェーラ皇女が提唱された、非常事態対策委員会に加わってくれ」


「非常事態、対策、委員会、ですか……?」


 一年生代表たちが顔色を変えた。

 この状況で最も震えているのは、まだ入学して3ヶ月半ばかりの彼らだ。


「この未曾有の危機に対抗するには、統一された指揮系統が必要だ。クラスごとが物資を奪い合い、バラバラに戦っていたら、守れるものも守れない」


「……そういうことか。確かに過酷な競争が強いられているこの学園では、生徒同士の協調は難しい。特に食べ物となると、学生ランクが関わる」


 『2-D』の代表は勝手に深読みをしてくれた。

 言われてみれば確かに、普段食事のグレードに差を付けられいる生徒たちが、食べ物を平等に分け合えるか怪しいものだった。


「感情任せに行動して失礼した。『2-D』はぜひ、その事態対策委員会に加わろう」


 本編で『2-D』は苦しい思いをした。

 物資調達に出遅れたのもあるが、渡り廊下側のクラスだったので防衛を押し付けられてしまったのもある。


「私たち1年は、訓練用の装備しか持っていない者も少なくありません……。ヴァレリウス先輩を信じます。私たちには損のない話ですから」


「く……っっ。だが、もし不公平なことをしたら、わかっているな!?」


 よく言うぜ、『2-A』代表。

 本編でお前らが物資を独占したから、俺がこうやってまとめているんだろうが。


「じゃ、これで非常事態対策委員会の設立成立だな。これからはミシェーラ・リンドブルムの名の下に、協力してこの事態を切り抜けて行こう」


 ミシェーラ・リンドブルムの指揮下という建前で、拘束力など端からないが連判状を作った。


「都合の良い時だけ姫様の威を借りるタヌキがよく言うでごじゃりましゅ」


「そう、メメ? 私は皇帝家の権威の正しい使い方だと思う。普段は人を畏まらせてばかりの権威が、今良いことに使われているんだもの」


 これで学院中の生徒が俺の手下になった。

 もし逆らうようなら、確保したこの物資をちらつかせれば良い。配給を絶たれて良いことなんて何一つない。


 連判状が完成するとクラス代表たちはそれぞれの教室に戻り、そこで仲間の了承を得ると、またここ『2-B』に帰って来た。

 学内からギスギスとした雰囲気が薄れ、安堵からか笑い声が混じるようになった。


「では、外のモンスターたちの襲撃が近いうちに起きると想定して、今のうちに防衛体制を整えよう」


「うちもそれを急ぎたかった。君なら問題なさそうだ、ヴァレリウス」


「ああ、お前ら『2-D』みたいな渡り廊下側はどうしてもな……。各クラスから机とイスを南北の渡り廊下に運んで、バリケードにしよう」


「助かるよ、ヴァレリウス」


 計画通りの布陣を形成するために、いくつかのプランを提案した。それら全ては『2-A』代表に少しつつかれたが、他に反論する者もなくあっさりと通った。


 全クラスの机とテーブルは、全てバリケードの形成に使う。

 渡り廊下は当然として、1階と2階を繋げる3つの階段のうち、中央以外を塞ぐ。


 1階中央にはエントランスホールがある。

 そこが防衛線だ。昇降口から進入して来た危険な怪物たちを、そこで迎え撃つ。

 指揮系統がバラバラだったら原作では、不可能だった布陣だ。

 

「飛行タイプの襲撃もあり得る。屋上に2年の魔法科の生徒5名と、1年の見張りを配置しよう」


「飛行? それはお前の妄想ではないのか?」


「かもな。けど配置しておくべきだと思うぜ」


「ふん……狡猾な男だ。指揮官になってしまえば、屋上から見下ろしているだけで済む。お前の魂胆はわかっている、自分は戦わないつもりだな?」


「まさか、指揮は別のやつに任せる。俺は仲間と一緒に、もっとやべーところに行く!」


「な、何っ!?」


 『まあっ』とミシェーラ皇女が俺の言葉に喜んだ。

 自称相棒のジェードは、危険なところはお断りのようだ。露骨に視線をそらされた。


「実は、奥の手があるんだな……?」


「うかがいましょう。その奥の手とは、どんな奇策なのでしょう、ヴァー様?」


「武器庫のあるカテドラルに行く。この学校の創設者は、非常事態のためにあそこに武器庫を用意していたらしい。上手くゆけば1年生が武装出来る」


「まあ武器庫! 私の好きな言葉です!」


 それと、この前確認したもう1つの切り札もその武器庫に眠っている。


「残念だがヴァレリウス、分棟にもうモンスターが入り込んでいるらしい……。無謀ではないか……?」


 『2-D』の代表が助言をしてくれた。

 『2-A』のやつは知っていたみたいだ。


「想定内だ。では指揮はミシェーラ皇女に――」


「はい、謹んでお断りいたします♪ 私は最前線を希望します♪」


「姫様ぁぁぁぁ……っっ」


 お断りされるのはわかっていたので、適任者に任せることにした。


「指揮官は俺の右腕の、このジェードに任せる」


「はいっ、僕に任せて下さい! 前線の戦い以外ならなんでもしますっ!」


「この通りだが、コイツは座学じゃ学年主席、王立学問所の元生徒だ。頭が超キレるから期待しても良いぜ」


「ちょ……なんでそうやってハードル上げるんですかぁ……っっ!?」


 それは人が英雄を求める状況だから。

 実際、シナリオを知るコイツ以上に指揮官に向いているやつは、俺を抜いて他にいない。


「んじゃ、俺とミシェーラとメメさんは、ちょっくら強行突破でカテドラルに行ってくる。お土産、期待しててくれよな!」


「一年生の皆さん、武器防具の山をご期待下さいねっ!」


 そう話を付けると、俺たちが本校舎屋上にある壁抜けポイントから裏世界にもぐり込み、そこから徒歩1分でカテドラルに再び忍び込んだ。


 さあ、やることやったら、今日のために仕込んだ切り札を使って、ド派手に行こう!

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