・悪役令息 モブ子と良い雰囲気になる

 では始めるとしよう。

 一度扉を閉めると、頭上に特大のライトボールを生成し、ありったけの魔力をそこに流し込んだ。


「俺はこれをトロルの正面中空に投げる。目の弱いヤツはこれに怯み、しばらく動けなくなるだろう」


「へっ、まおーだけどー、ホーリーホーリーしてやんよ」


「まあそういうことだ。トロルが体勢を整える前に、【ホーリークロー】でHPを削り切れ。作戦は以上だ」


「ギュルッ! キュゥンッ♪」


「いつでもいいってよー。あと、だいすき、だってよー」


「そうか、俺もだ。後でブラッシングしてやろう」


「えー、ワレはー?」


「もふっとしたとこ、生やしてから言え」


 ライトボールが限界の光度に達した。

 これ以上は俺の魔法制御力では維持出来ない。自己崩壊してしまうだろう。


「じゃ、任せたぜ。……さあ、突撃だっっ、まおー様っ、キューちゃんっ!!」


 扉を蹴り開き、ライトボールを大きく振りかぶって投げた!

 それを追うように白いミニドラゴンと、それに騎乗した桃色のスライムが突撃を仕掛ける。


「ギャォォォォーッッ!!」


「ちじょーは、まかしときなー、べいべー!」


 ミニドラゴンはトロルを凌駕する巨体、ライトニングドラゴンに変身した。

 正体不明の手乗りスライムもまた、翼有りしスライム、エンジェリング・スライム(炎)へとワ○プ進化した。


「オ、オオッ、オオオオオオ……ッッ?!!」


 トロルチャンプは巨大な棍棒を捨て、両目を抱えて光に悶絶している。


「ホーリークローッ、だぜー!」


「ギャゥゥーーッッ!!」


 輝く爪のエフェクトがまおー様から放たれた。

 さらにライトニングドラゴンのホーリークローが空中から同様に、色素と体毛のないトロルの肉体を引き裂いた!


「へ、変身っっ、するんですか、最近のテイムモンスターってっっ!?」


「ああ、なんかするみたい、あいつら」


 まあバグってるし、メチャメチャ意思あるしな、仕様外の変身くらいするだろう。愛と勇気で。


「へっ、きかねーぜ。おととい、きなー、よーかん、もってなー」


 トロルチャンプの破れかぶれの攻撃!

 耐久力ぶっ壊れ+スライムボディのまおー様に、トロルチャンプはダメージを与えることが出来ない!


「そもそもなんであのスライム喋れるんですかーっ!?」


「俺が知りたい」


 援護にもう1つライトボールを投げた。

 しかしそれは必要なかったようだ。


 天と地からの弱点属性+特効効果の連係攻撃は、大ボスのトロルチャンプを30秒足らずで殲滅する離れ業を見せてくれた。


「ほめて、ほめてー? ねー、モブこちゃん、すごいって、いってー?」


「す……すごい……。キューちゃんさんも、まおー様さんも……伝説の、勇者様みたいです……」


 魔王相手に勇者という評価はどうなのだろうか。

 キューちゃんは翼を大きく広げ、まおー様は『ぽいんぽいん』と跳ねながら、少しずつ小さくなってゆく。


「ギュルゥゥゥッッ♪」


「ゆうしゃまおー、こーりん、だぜー、べいべー!」


 エンジェルデビルみたいな矛盾をはらんだ言葉だな……。

 小さくなったまおー様を見ると、キューちゃんも白く輝いてしぼんでいった。


 ドロップはアクセサリー装備の【ダークアミュレット】だ。効果は闇ダメージ50%カット。

 攻略サイトを見ながら遊ぶプレイヤーにだけ有用なやつだ。


「つかれたしー、ワレ、ひっこめてー? キューもねー、もー、とびたくねーってー」


「お前ら、都合の良い時だけ召喚解除させやがって……」


「にくなー? にく、わすれんなよー? よーい、しとけよー? ごちそうの、はらで、まってんからなー?」


「わかったよ……。んじゃ、お疲れさん」


 テイムモンスターの召喚を解除し、俺の中に引っ込めた。

 マスターはタクシーじゃねーっつーの……。


「あんなに強いと、僕たちの立場がありませんね……」


「それはある」


 ん……?

 今、モブ子は自分のことを『僕』と言わなかっただろうか。

 キャラブレか? モブだからその辺は雑なのか?


「ともかく楽が出来た。次行こう、次」


「はいっ! ライトニングドラゴン、格好良かったですね!」


「まおー様もな」


 トロルチャンプを倒せばすぐそこが上り階段だ。

 地下6階層目に上がると、そこは凍てついた氷のフロアだった。


「マジかよっ、さっ、さぶっ?!」


「駆け抜けましょうっ、こんなところにいたら、死んじゃいますっ!!」


 ファイアーボールを空飛ぶたき火にして、俺たちは地下6層目を駆け抜けた。

 モンスター? 迷宮では原則、様変わりにするたびにモンスターが強くなる。俺たちはその迷宮を逆走している。


 ここまで戻って来れば、俺たちの相手になんてならなかった。


 魔・即・斬の精神で、モブ子と俺は敵を叩き斬って地下5層目に駆け上がった。


「へくちゅ……っっ」


「ははははっ、なんだよ、そのかわいいくしゃ――ブェクショーイッッ?!!」


「ど、どこかで、暖を取りませんか……っ?」


「は、はだ、はだみずが……っ。狭いフロアを、探そう……っ」


 地下5層目は大理石で覆われた白い壁の世界だった。

 身体が凍て付いていた俺は、教室くらいの広さの少し暖かいフロアを見つけるなり、先住ゴブリンをマジックレーザーでバラバラにした。


 そして、だいぶ魔力が尽きて来てはいたが、ファイアーボールをキャンプファイヤーにして暖を取った。


「大丈夫か?」


「は、はい……あっ?!」


「こうして見るとお前、唇が真っ白だ。しょうがねぇ、しばらく俺にくっついてろ」


 モブ子の冷えた身体を背中から抱いて温めてやった。

 彼女は小柄な上に痩せていて、さらに鉄の胸当てを身に着けていたので身体が氷のように冷えてしまっていた。


「メメさんが、貴方のことをエッチだと言うのが、わかったような気がします……っ」


「メメさんを知っているのか?」


「はい……」


「ちょっと意地悪だけど面白いよな、メメさん」


 自慢するように笑いかけると、顔が近過ぎてか彼女は視線をそらした。

 確かにこれはエッチなアプローチかもしれないが、相手はどうせモブキャラだ。気にすることはないだろう。


「はぁぁぁ……っ、さすがにハードだったな……」


「うん……」


 素直な返答だ。この素直な返答、アイツにちょっと似ているかな。


「はぁ、温かい……」


「巻き込んで悪かったな。たぶん、俺のせいだ」


 温もりを求めて胸にしだれかかって来たモブ子を受け止めた。

 彼女の身体はとても冷たい。芯まで冷え切ってしまっている。

 鼻の下に女の子の頭が入り込んで来ると、甘い匂いが鼻孔をくすぐった。


 モブキャラなのに、コイツ、かわいいな……。

 まさか、ネームドキャラ……? あるいは追加キャラ? モブにしては、どうも魅力的過ぎるような――ん?


 茶髪の下から……黒髪が…………生えている……?

 えっ? こ、これ、ヅラ……ッ!?

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