・モブ子 罠の底で悪役令息に振り回される
「やっぱりか……」
「やっぱり、ですか……?」
「あの壁を見ろ、どう見ても普通じゃない」
あの黒ずんだ壁、目玉に見える不気味な大理石のレリーフ、薄暗い雰囲気、ここには見覚えがある。
本編で主人公が落とされることになった、裏階層地下13階だ。
主人公に成り代わるという俺の計画を、この世界は受け入れてくれたようだ。
「ここ、どこなんですか……?」
「裏階層の……地下13階だろうな。こういう場所があると、先生方から聞いたことがある」
「13階ってっ、まずくないですか……」
「ああ、ついてないな、お前」
これに巻き込まれるなんて、不運なモブキャラもいたものだ。
とにかくここにいても意味がないので、確認もかねてすぐに進んだ。
「なっ、なんなんですか、あれっ!?」
「どうもこうも、書かれている通りだろ。ここが俺たちに用意された墓場らしい」
検証完了、ここは裏階層地下13階に相違ない。
最初のフロアの黒ずんだ壁に、白いチョークで『ここがお前の墓場だ』とあった。
しかし気のせいか、どこかで見たような筆跡にも見える……。
「どうしましょう……先生方の助けを待ちましょうか……?」
「そんなもの来ないな、行くしかない」
「え、ええっ!? でも……っ」
「俺の言う通りに行動しろ。責任持って、お前を地上に連れてってやる」
モブ子は俺を見上げて口を開けていた。
彼女を無傷で地上に送り届けるためにも、今は信頼関係が欲しい。
「すごい、リーダーシップ……。同級生とはとても思えない……」
「んなのないって。必要だから指揮ってるだけだ。一緒にがんばろうぜ、モイラ」
「わかりました、私、がんばります!」
話がまとまったので俺は前進した。
言い出しっぺが後ろに引っ込んでいるわけにもいかなかった。
「ゴ、ゴブリンです……っ、ここはマニュアル通り、迂回――」
「カモだな。マジックレーザーッッ!!」
フロアに飛び込み、マジックレーザーで薙ぎ払った。
スプラッター映画みたいにゴブリンはバラバラになった。
「さあ行くぞ、モブ子」
「つ……強い……っ。このフロアのモンスターを、一撃……っ!? そんな、こんなことって……」
「ははは、そう言われるとテンション上がる。どうだ、強いだろう、俺は」
バカみたいに胸を張り、得意の魔法制御能力で頭上に星々を浮かばせて見せた。
自分で自分に突っ込むが、超乗り過ぎだな、俺。
「そんな戦い方、あったんだ……。カッコイイ……」
「へへへ、そんなにおだてないでくれ、調子乗ってヘマやらかしそうだ」
俺はモブ子と一緒に進める道をどんどん進んだ。
「どうします? やっつけます?」
「魔法兵タイプか……。魔法ダメージ1/2カットがきついな、あれはいったんパス」
以前戦った魔法兵もいた。
あれを鹵獲すれば高く売れる。人間には作り出せない根幹パーツがあれから抜き取れるらしい。
方法は知らない。まだ教わっていない。
「はい、では保留で」
「モブ子がマッピングスキル持ちで助かったぜ」
「モブ子じゃありません……っ、モイラですっ」
楽に倒せるやつは倒して、面倒なやつは逃げる。ゲームの常識だ。
そんな調子で迂回しながらもどんどん進んでいった。
地下13階から地下8階までとんとん拍子で上がってゆくと、青くて派手な宝箱を見つけた。
中身はアイスブラント。凍結効果を持つ、一学期最強武器だった。
これは1つ先の大部屋に現れるボス、アイアンゴーレムによく効く。
属性相性は普通だが、凍結がやたらに入る仕様になっている。
「ヴァレリウスさん使って下さい。私、弱いですから……」
「いや、俺にはこれより強い武器がある。いったん預けるぜ」
「え……っ、アイスブラントより!?」
「へへへ、見てのお楽しみだ。来いよ、モブ子」
名前の訂正を諦めたモブ子は俺のいる大扉の前に立った。
向こう側の気配を感じ取っているのだろうか、彼女は緊張した様子で喉を鳴らした。
大扉を開くと、シナリオ通りそこには身長2メートル半の巨大なアイアンゴーレムが待ちかまえていた。
「や、やっぱり……アイアンゴーレム……ッッ」
「ちょっと無双して来る。見ててくれな、【雷剣召喚】!!」
「えっっ、ええええーっっ、ラ、ライトニング、ブラント……ッ?!」
「その上位互換だ!」
雷剣を握り、アイアンゴーレムに突撃した。
守備力、HP、攻撃力は魔法兵を凌駕する危険な敵であるが、コイツは魔法耐性に欠ける。
特に電撃には脆弱で、この雷剣なら装甲を貫通させた攻撃が可能だ。
最初の一撃、ただそれだけを回避出来れば俺の勝ちだ。
アイアンゴーレムの初手は、昔のロボットアニメみたいに目から照射される【魔導レーザー】。俺にはデレ行動だった。
範囲攻撃【魔導レーザー】は、単体相手に使うような行動ではない。ゲーム上の命中率は45%。
3体のテイムモンスターをソースとする高い回避能力を持つ俺にそんな攻撃が当たるはずもなかった。
「恨むなら仕様を恨めっ、滅びろっ、木偶の坊っっ!!」
火花散らす魔法の剣でアイアンゴーレムの胸部を斬り上げ、返す刃で十文字斬りにした!
このアイアンゴーレムのHPは約700。
対してこちらが放った攻撃は、大弱点・雷属性により1200ほどを与えたはずだ。
「う、嘘ぉぉ……っ!?」
「はははっ、やったぜっ、1ターンキルだっ!!」
アイアンゴーレムは崩れ落ち、ただの物言わぬ鉄塊に変わった。
こういった機械系は消滅しない。解体してパーツを抜き取ると金になる仕様なのだが、先述の通り俺には専門知識がなかった。
「さあ、どんどん行くぜ、モブ子!」
「は、はいっ! どこまでもお供しますっ、ヴァレリーさんっ!」
ヴァレリー……?
まあ、いいか。本人がそう呼びたいなら。
意気揚々と俺は前進した。
この階層を進み、次の地下7階層目に入ると、やはりシナリオ通りのキングキマイラが俺を待っていた。
ライオンの顔、蛇の尾、ワシの翼に、ヤギの身体。そう聞くと強そうには聞こえないが、強い。何せでかい上にキングだ。
物語本編では眠りキノコ入りの肉で釣って、キマイラが寝た隙に通過した。
「あ、あれは無理ですよ……っ、いくらヴァレリウスさんでも、無理です……っ、他の方法を探しましょう……っ」
「サモンッ、まおー様っ、キューちゃんっ!!」
キューちゃんとまおー様を召喚した。
ライトニングドラゴンではフロアから出られないので、ミニドラゴン形態で呼んだ。
「キュルルゥゥッ♪」
「んもーっ! ガルちゃんのおなかでー、にどね、してのにーっ!」
「ド、ドラゴンッッ?!」
「人が命の危機やってるときにテイムモンスターが優雅に生きてんじゃねーっ!」
「あれ、たおせばいいのー?」
「俺とお前で、W灼熱の豪炎で1ターンキルするぞっ!! キューちゃんは、いつもの援護で!!」
「キュルゥゥッ♪」
キューちゃんは飛行すると、あのサイドワインダーミサイルみたいなアイスボルトを生成した。
そしてスピードと若干の追尾性能を持つそれを、俺たちとフロアに進入するなり撃ち込む。
「撃て撃て撃て撃てっ、キューちゃんっっ!!」
キューちゃんはシューティングゲームの自機みたいに術を連発し、キングキマイラを足止めした。
「行くぞ、まおー様っ!!」
「へっ、ばーべきゅーたいむ、だぜー!」
「燃え尽きろっ、【灼熱の豪炎】!!」
俺とまおー様は、命中すればほぼ即死の威力値999の攻撃をキングキマイラに吹き付けた。
当然命中だ。後には肉片も残らなかった。
燃え尽きるようにキマイラは消滅し、あの瞳のような金色に輝くトパーズが転がった。
これはいわゆる換金アイテムだ。
価値は250zほどだったはずだ。雑に計算して25万円だ。
「な……な……っ、なぁぁぁ……っっ?! なんて、人……っ、そんな、あり得ない……この段階で、キングキマイラを、一撃……? 信じられない……」
「よろこべ、おとーと。きょうは、すてーきだぜ」
「キュゥゥゥーッッ♪」
「いや、それはちょっと……。肩ロースで勘弁してくれよ……」
「しょうがねーなー。ガルのごはんより、やしーけど、かんべん、してやんよー」
姫様の下で、俺よりも良い物を食っているのかあのワンコ……。
今学期は最低でCランク、理想Bランク待遇の成績で、夏休み入りしてやる。
そんな食い意地を胸に、いや腹に、あと1階層で砕け散る陰謀をぶっ壊しに前進した。
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