・中盤最強武器 餌にされる

 さて、せっかく手に入れたのだからすぐに始めよう。

 俺は外の世界のどこかで散歩中だったミニドラゴン(大理石)こと、キューちゃんを裏世界の自室に召喚した。


「クルル……?」


「散歩中に悪い。さて突然だが、キューちゃんをモンスター錬成で進化させてもらっても良いか?」


「クルルゥッ♪」


 キューちゃんは嬉しそうに空で踊った。


「話が超早くて助かるよ。さて……」


「クルゥ……?」


 しかしキューちゃんは俺の姿を見て、まるで鳥類のように深々と首を傾げた。


「この格好か? さっきローブを汚しちゃってな」


 あのローブは現在、表向きはヴァレリウスの寮室となっている部屋で干している。

 学園の制服? どうも見あたらない。


「まあ錬成に影響はない。やろうか、キューちゃん」


 パンツ一丁で大地に双子の円を描いた。

 わかっているのかキューちゃんは自発的に右の円に入って、俺は左の円に強力な触媒【ずぶ濡れの残滓】と【思い上がりの残滓】を置いた。


 トパーズに似た宝石【ずぶ濡れの残滓】には、ライトニングブラントと同質の力が秘められている。


「キューちゃんは、雷属性とか好きか?」


「キュッ? キュゥゥーッ♪」


「今からキューちゃんを、雷属性の格好良くて超強い竜にしてやる。兄貴分のまおー様より強くなっちゃうかもな?」


 キューちゃんは嬉しそうに翼を広げた。

 本人の了承を得られたところで、俺は2つの円の外側にいつもの大円描いた。


 円は紋章となり、触媒とモンスターを融合させる。


「いくぜっ、キューちゃんっっ!! ライトニングブラントを代償に、ここに顕現せよっ、天を貫く黄金の竜、ライトニングドラゴンッッ!!」


 エフェクトは当然、青い火花を散らす雷属性。

 それにザラザラとしたノイズが混じり、凄まじいエネルギーの奔流と、熱風が大円の中心部より放たれる!


「キュォォォーーンッッ!!」


 ライトニングブラントと低ランクのドラゴン系を錬成すると、このライトニングドラゴンに変化する。


 光のさなかから現れたその竜は、額に剣のような角を持った黄金の竜だった。

 その体長は馬よりも遙かに大きな2メートル半。これならば乗って空を飛ぶことも不可能でない、美しい金竜がそこにいた。


「ラ、ライトニングドラゴン……ッッ、かっけぇぇっっ?!!」


「ギャォォォォーッッ♪」


 キューちゃんは誇らしげに天へといた。

 俺は大きくなったキューちゃんに駆け寄り、馬にするように首を撫でてやった。


「いいじゃんいいじゃんっ、お前最高だよ、キューちゃん!」


 契約関係を示すあの光の紐と紐が、手首と竜の剣角を輝かしく結び付けた。


―――――――――――――――――――――――

【通知】

 ヴァレリウスは【魔法:雷剣召喚】を体得!!

 キュートは【戦技:雷嵐の翼】を体得!!

 まおーは【戦技:雷嵐の翼】を体得!!

―――――――――――――――――――――――


 ライトニングドラゴンと契約を結ぶと、【魔法:雷剣召喚】が手に入る。

 これはその名の通り、魔力を代償にライトニングブラントの上位互換となる剣を一定時間召喚する術だ。


「見てろよ、キューちゃんっ、【雷剣召喚】っっ!!」


 俺は大きな魔力を召喚につぎ込み、後半でも通用する近接武器:雷剣を右手に実体化させた。


 火花を散らしながらも黄金に輝く実体無き剣・雷剣は、俺の中にある少年の心をこれでもかと刺激してくれた。


 カッコイイ……。

 今、俺、最高にカッコイイ……。

 ローブをまとっていたらもう少しキマっただろうに、残念だ。


「ギュルゥーッ♪」


「はは、キューちゃんもそう思うか? ありがとよ」


 忘れる前にキューちゃんに鑑定魔法アイデンティファイをかけた。


――――――――――――――――――――

【名称】キューちゃん

【種族】ドラゴン

【段階】ライトニングドラゴン

【能力】力47魔44耐40速45運99

【魔法1】二連装アイスボルト

【魔法1効果】威力10×2・命中100%

【戦技1】雷嵐の翼

【戦技1効果】威力75・範囲必中100%


【解説】絶縁体必須の騎乗可能なドラゴン

    戦技・雷嵐の翼は直線範囲攻撃

   (騎乗制限200キログラムまで)

――――――――――――――――――――


 速の値が少し落ちただろうか。

 しかしフィジカル、マジカル共に大幅強化され、ボーナスを受け取る俺も力があふれるかのようだ。


 雷嵐の翼はひとえにヤバい。

 範囲攻撃でありながら強制必中で、おまけに火力があるという超優遇スキルだ。


「しかし問題は、デカ過ぎるところだな……。進化させておいてなんだが、飯代、どうしよう……」


「ギュルゥーッ♪」


「ん、何か案があるのか? え……っ、な、何っ?!」


 巨大な翼を広げてキューちゃんが天に吠える。

 みるみるうちにその巨体が縮み、黄金から白い小さな輝きに戻っていった。


「キュゥーッ♪」


「も……戻れる、のか……?」


 元に戻ったキューちゃんは、パンツ一枚のご主人様の胸に飛び込んで来た。

 カッコイイけどかわいい。完璧ではないか、我がドラゴンは。


 甘えん坊のドラゴンをしばらくワンコ感覚で愛でた。


「ぬぁっっ?! は、裸でキューちゃんと何してるでしゅかぁっ?!」


「お、メメさんだ。何って、進化させてた」


 右手を振り返るとメイド服のちっこいメメさんがいた。


「裸ででしゅかっ!?」


「しょうがないだろ、色々あってローブがドロドロなんだから」


「そんなこと言って……っ、メメたちのキューちゃんにっ、変なことしてないでごじゃりましょうねっ!?」


「するわけねーだろっ! ほらキューちゃんっ、あの姿をメメさんに見せてやれっ!」


 キューちゃんが漆黒の世界に飛翔した。

 そしてメメさんと俺が見上げる前で、『キラーンッ』と輝いてライトニングドラゴンに変身した。


「ギュルルルルゥゥッッ!!!」


「どーだっ、カッコイイだろうっっ!!!」


 俺がカッコイイわけではないが、自慢せずにはいられない!


「わぁぁぁぁ……っっ!! これ、姫様に見せたいでごじゃりますっっ!! ヴァレリーッ、姫様をエスコートに行くごじゃるよっ!!」


「……この格好で?」


「生乾きでいいから服着るでしゅ!!」


「……ま、格好悪いけど、しょうがねーか」


 この後、ミシェーラ皇女に進化したキューちゃんを見せた。

 騎乗可能の竜となったキューちゃんを、お転婆どころじゃないバーサーカー系皇女は鼻息を荒くして褒めてくれた。


「ずるいです、ヴァー様ッ! こうなったらいっそのこと、キューちゃんを私に売って下さいっ!」


「いくら皇女様の頼みでも、キューちゃんは渡せないな」


 さらに雷剣を召喚して見せたら、皇女様はこの調子だった。

 この力は俺が主人公となるために必要だ。ラスボスを瞬殺出来るだけの力が必要だ。


「メメはまおー様だけでいいでしゅ! メメもブレス吐いてみたいでしゅ!」


 ケチと言われようと、皇女様とメメさんの願いは叶えられなかった。

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