美少女ゲームの悪役令息に転生した俺、『本編先乗り』と【モンスター錬成】で原作を破壊する

ふつうのにーちゃん

第一章 転生廃ゲーマーが主役を乗っ取るまで

・転生廃ゲーマー シナリオ破壊を志す

 知る人ぞ知る名作ゲーム【ドラゴンズ・ティアラ】は、1000時間遊び込める美少女ゲームだ。

 PC市場を中心とした美少女ゲーム黄金期が終わり、急激な衰退を始めたあの頃に突如として現れた、一足遅かった不遇の名作RPGである。


 この作品、とにかくパラメーターが多い。特性が多い。スキルが多い。魔法が多い。キャラが多い。

 そしてそれゆえに、バグがまた多い! のが玉に瑕の、ちょっとばかし人を選ぶ名作ゲームなのである。


 そんな【ドラゴンズ・ティアラ】の世界に俺は『ホギャァ』と転生していた。

 ヒロイン選び放題の『キラーンッ』とした主人公にではなく、共通ルートで必ず『ヒギャァッ』と悲惨な死を迎える脇役ヴァレリウス・ヴァイシュタインに。


 ヴァレリウスは作品ファンの間でも認知度が高い。作中の所行が所行だからだ。


 主人公を深く妬んでいたヴァレリウスは、ある日ラスボスの手により邪悪な力を与えられ、悪魔の所行を重ねるようになる。

 それは人体錬成。人と魔物の融合実験だ。

 このヴァレリウスの狂気のせいで、顔ありのかわいいモブキャラも1名犠牲になった。


 しかし物語中盤でヴァレリウスの悪行が発覚する。

 ヒロインの一人を魔物と融合させようとしていたところを、物語の主人公に見つかって監獄に収監されてしまう。


 そして最期は、ヴァレリウスを見限ったラスボスの手により、自分が魔物と融合させられて、あまりにも惨たらしい末路を迎えるのだ。


 そんな人体錬成なんて悪趣味なことをする気などさらさらないが、一応これが俺の未来だ。全力で避けたい。

 あの時犠牲になったモブキャラちゃんのためにも。


 さてそうなると、ここで選択肢は3つに分かれる。


――――――――――――――――――――

 1.死を回避するために能動的に動く

 2.あえて何もしない

 3.ゲームそのものをぶっ壊す (hot!)

――――――――――――――――――――


 あまりに当然で恐縮だが、ここは3の選択肢を選ばせてもらう。

 2は論外として、1はせせこましくて性に合わない。

 どうせ少し運命を変えたところで、シーソーのように揺り返しが戻ってくるのが物語だ。


 よってこの世界を物語と仮定すると、シーソーゲームのシーソーその物をぶっ壊すのが正しいはずだ。


 いや、何よりもやり込みゲーマーの血がそうさせるのだ。

 俺は知っている。このゲームには、世界の裏側へと抜けられる壁がいくつも存在していたことを。

 どうしたらゲームバランスをぶっ壊せるかも、この場で5パターンは説明できる。


 申し訳ない。俺はそういうゲーマーなのだ。

 壁という壁に衝突判定があるかどうか、試さずにはいられない人間だ。

 ダンジョンでイベントが発生したら、取りあえず逆走してみるような、時間をムダにするとハッピーな気分になる人間だ。


 よって俺は、これから『ストーリー本編の破壊』を目標に生きる。そうロールプレイスタイルを決めた。


 それにしても、このヴァレリウスに生まれたのは幸運だった。

 こいつはゲームのサポートキャラのうち一人でもあり、凶行が発覚して失踪するまでは、学生ながらテイムモンスターの合成屋をやっていた。


 ゲーム上の名称は【モンスター錬成】システム。

 聖地で行われた神の啓示の儀式にて、俺が先日手にしたスキルの名も【モンスター錬成】スキル。


 これは『モンスター』を生み出したり、『モンスター』と、触媒となる『アイテム』や『武器防具』を融合させて、『モンスター』を成長・進化させる力だ。

 そのゲームシステムにアクセスするための鍵が、このモンスター錬成スキルというわけだった。



 ・



 長旅を終えた俺は、兄のネルヴァと共に実家ヴァイシュタイン子爵家邸宅に帰った。

 そしてエントランスホールで父カラカラに迎えられると、堂々と胸を張り、『最強のスキルを手に入れた!』と子細を報告した。


「モンスター、錬成……っっ?! モンスターを、生み出す、才能、だとぉ……っ?!」


 父は報告を聞くなり、憎悪にも等しい感情を息子に叩き付けた。ばかめ!


「ハッハッハッハッ、我が弟ながら運のない! 父上、俺は【大魔導師スキル】を手に入れました!」


「おお、まことかネルヴァ!!」


 同い年の兄ネルヴァは勝ち誇った。

 それがゲーム終盤一軍メンバーと並べると、えらく見劣りする微妙スキルだというのに。


「しかし困りましたね、父上。魔を払う王家の杖である我ら一族から、魔物を生み出す悪魔の子が生まれるとは……」


「ああ、まったくだ……。あり得ぬ……」


「ええ、あり得ませんな、父上」


「そうだとも……。とても、人様に言えぬ……。世間に、この事実を、なんと説明すればよいのだ……っ!?」


「ヴァイシュタイン家の恥ですよ、恥」


「お前はっ、なんて力を手にしてくれたのだ、ヴァレリウスッッ!!」


 やれやれ、我が家族ながらバカなやつらだ。

 モンスターシステムはこのゲーム最大のバランスブレイカー。

 最強の力にアクセスするための鍵だというのに。


「で、それが何か問題でも……?」


 いや何も問題ない。最高だ。

 世間体? そんなもの知らん。気にし過ぎだ。


「ヴァレリウス、お前は呪われた子だ……。お前がそこに存在しているだけで、当家の名は汚され続けることになる……」


「うっへ……。めんどくせー、毒親……」


 俺がそう毒づいても、この毒親には何も聞こえていないようだ。


「お前などもう私の子ではない……。私は今、確信したぞ……!! 邪悪な力を持つお前がっ、私の血を引いているはずがない!!」


「その通りです、父上! いっそこの家からヴァレリウスを勘当するというのはどうでしょう!」


「ああ、なぜもっと早くそうしていなかった!! 出て行け、悪魔の子がっっ!! 今後一切私の前に出て来るな!!」


 ま、そういったわけで俺、ヴァレリウスは勘当を言い渡された。

 父は危険な力を持つ我が子を、今は短期帰省中だというのに、今年から通っている【帝国魔法学院】に突き返すことにした。


「冒険者になれ……。そして、さっさと、どこかで野たれ死んでくれ……」


「引っ越しの手伝いをしてやろうか、ヴァレリウス?」


「悪いな、じゃあ頼む」


「ククク……いいとも」


「しかし、なるほどなぁ……」


 ヴァレリウスの凶行には、自分の力を親兄弟に否定された過去が背景にあったからだった。

 全ルートをクリアした俺も知らない新事実だ。


 ヴァレリウスはこの翌日、捨てられるように魔法学院に突き返された。

 さらには生活面のグレードを保証する【学生ランク】をCから最下級のFに落とすと言い渡された。


 王侯貴族の世継ぎならBが最低保証。

 それ以外の貴族はCの最低保証。下に行けば行くほど食事も宿舎も酷くなる。


 まあそこも別に良い。

 このゲームの主人公もまた、Fからスタートした雑草なのだから。


 俺だってFからスタートして、主人公を超える最強に成り上がってやろう。

 死亡フラグが発生しなくなるまで、ゲーム本編を破壊し尽くしてしまおう。


 原作でヴァレリウスを絶望させた不幸は、やり込みゲーマーにとってはただの祝福だった。

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